第19話 イチカワの特殊能力
イチカワが、胸のポケットから飛び出しナイフを出す。
「ホントはこんなの持ち歩いちゃいけないんですがね」
苦笑しながら、イチカワはワンタッチで鋭い刃を出す。それを使い慣れているのか、軽く指の間で転がすと、刃をしまった。
そしてスッと、テーブルを滑らせてぼくの方に押し付けた。
「私はうしろを向いているので、みなさんの誰かが隠し持ってください。そしてしまったら、OKと声をかけてください。誰が持っているか当てますので」
イチカワがうしろを向くと、皆で顔を見合わせた。そして、死を見抜く男が自身を指さし、社長が頷いたのを確認すると、ナイフを取って内ポケットに入れた。
そして死を見抜く男がぼくに、声をかけるよう促した。
「どうぞ」
ぼくの声にイチカワが振り向き、4人を平坦に見まわした。そして、
「内ポケットに」
と言いながら、死を見抜く男を指さした。
そのすばやさにぼくはおどろいたが、他の者は当然という顔をしていた。どうやらイチカワの特殊能力を知っているようだった。
その後もう2回やったが、イチカワは正確に、そして迅速に当てた。
「分かりましたか。私は人が武器を所持していることを見抜けます。この能力があるので、社長の秘書兼護衛をしていたのです。これは政情不安な地に行くにあたって、なかなか使える能力ではないでしょうか」
微笑みながらイチカワが言い、ぼくはそれにつられるカタチで頷いた。
「もっとも、武器の所持を見抜けるというだけで、それを使用することを抑えられるわけではないですがね」
たしかにそうだと、ぼくは思う。イチカワの能力では、完全に抑止するまではいかない。遠くで見た人物が武器を持っているから近付かないようにしようということはできるが、面と向かっている人物には効果の薄い能力だった。
「もっともそれは、彼がいれば抑えられるかな」
イチカワが残りの一人に視線を送った。その視線を受けて、男がぼくに小さく頭を下げた。
「徐原成哉と言います。ぼくは社長の会社にはなんの関係もありませんが、ときおり元の世界から来た人間たちで集まる会を行っていましたので、皆さんとは顔なじみです。ぼくの特殊能力はちょっとした実力行使なのですが、残念ながらここではお見せすることができません。でき得れば信用してください、としか言えないのです。申し訳ない」
そこでもう一度、頭を下げた。
「これが、同行することになる4人だ。この人物たちが信用できることは、私が保証する。もちろん私の言葉が信用できないのであれば、この話は流れる。それは流果君が決めてもらっていい。もし行くのであれば、一切の資金は私個人が出す」
社長がぼくの顔を見つめた。
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