第18話 ぼくの返答
「異存はないです」
イチカワという男が即座に返答した。最初に会ったときも、今日も、社長に対して忠実という雰囲気を出していた。
「はい。やってみたいです」
それに続いて、体格のいい男と、死を感知できる男が同時に言った。社長はその返答を予見していたかのように、表情を変えなかった。
「あとは、流果君だけだ」
社長が、残ったぼくを見て言う。あとの3人もこちらに視線を向ける。まるでドラマのいち場面のような、今の状況。これで首肯すればこの場が盛り上がり、さらなる展開に発展するのだろうが、しかし安直には受け入れられなかった。異世界のこととはいえ、受ける身体的な苦痛は現実世界となんら変わらないからだ。独裁国家で投獄され、一生地下の独房に入れられることになったとしても、現実世界と変わらないものなのだ。寒暖や空腹はつらいものだろうし、熱病にかかっても放置されるだろうし、看守や係官に気まぐれに暴行されるかもしれない。
さらに言えば、ぼくは彼ら3人を知らない。会ったばかりなのだ。非情な性格で、簡単に見捨てられるかもしれない。自らが助かるために犠牲にされるかもしれない。こういった場面では、ドラマやマンガではすぐさま手を取り合ってチームを組むものだが、実際にこういう状況になれば、他人に対して疑心暗鬼になってしまうものだ。正直、社長だって信用できるものではない。掴まれば、解放に向けて政治的に動いてもらわなければならないが、どこまで本腰を入れて動いてもらえるのか分からない。本業に多大な影響が出るのであれば、こちらを切り離してしまうのではないだろうか。
ぼくは、勢いで頷いてしまいたくなる衝動を抑え、思っているこの不安を社長に伝えた。ここは、失礼もなにもない。正直に、隠さず言った。会ったばかりの人たちを、究極に危険な場所に行くのに信用できないと。
「なるほど……。そうだな、たしかに流果君の言うとおりだ」
社長が思案顔で言った。
「では」
その反対側から、声が出た。イチカワだ。
「我々同行するかもしれない3人が、まずは自己紹介しましょう。それで流果さんの不安が取り除けるものでもないですが、しないよりはマシでしょう」
「ぼく以外の全員が、頷いた」
「まずは私から。市川俊と申します。田名瀬食品の社長秘書をしております。現実世界では、大手物産会社の営業で世界を飛び回っていました。それでアフリカ各国の現実世界との違いを、明確に把握できたのです。えっと、特殊能力も伝えた方がいいですよね?」
「それは、ぜひお願いします」
ぼくは市川の目を見ながら頭を下げた。
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