第13話 大統領
「それでそいつが大統領に就いて、今まで居座っていると……」
「そう。最初の1回だけで、その後選挙は行われていないし、野党がいないからやっても意味がない」
「どんな人間なのですか、そのヤマ・ジュ・グバンというのは?」
「石器時代に還ってしまった国にぴったりの、野蛮極まりない男だよ」
「でも、クーデターを起こして内戦から一歩抜け出した男なんでしょ?」
「英知で勝ち上がってきた男なのか、と問いたいのかい? どうもそうではないらしいよ。敵対者を蹴落として国を手に入れるまで、頭脳はいっさい使っていないみたいだ」
「では、どういった手段で?」
「言うと、行かなくなっちゃうだろうな」
社長が苦笑した。
「でも、聞かないと」
「そうだな。圧倒的な暴力で成り上がったんだよ。内戦を抜け出すには、最も適した方法だったんだろうな。表舞台に登場してから、かなりスピーディーに国を手中に入れてるんだ」
「そんな男が、大統領として国家運営はできるんですか?」
「無理だよ。経済っていう言葉も知らないんじゃないかな。農業も工業も観光も、とにかく産業という産業がだめ。なにも製造、生産できないから輸出はできない。だから外貨を稼げないから輸入もできない。通貨のギュンは紙くずで、国内でも役立たずだ。多分、1円が100億ギュンくらいじゃないかな」
「100億ギュン! そんなお札があるんですか?」
「いや。たしか最高で1000万ギュン札だと思う。だから、もし仮になにか日本製品を買おうと思ったら、トラック1杯分の札束が必要になるよ。もっとも日本製品がジランジア国内で売っていれば、の話だけど」
「ハイパーインフレなんですね」
「そんなもんじゃないよ。経済崩壊だよ。だからインフラも医療も手つかずで、国の形態をなしてないんだ」
「それじゃあ、大統領だって食っていけないじゃないですか?」
「これだけ世界に国が多いと物好きもいて、資金援助するところもあるんだ。超大国に国連に、旧宗主国かな。ジランジアだって国連に1票持ってるからね、超大国なんて、ちょっとした援助でその1票を買えるんだから、そりゃ手を出すさ。まぁでも、せっかくの資金援助も、大統領官邸の金庫に入っちゃうんだけどね」
「治安なんか、極端に悪そうですね」
「いちばん聞いてほしくないところだな。治安なんて言葉、この国にはないだろうな。なにしろこの大統領が、警察庁長官も兼ねてるんだから。自分の悪口言った人間をとっ捕まえてきて、公開処刑をやったみたいだよ。これぞ人治国家って場所だ」
「滅茶苦茶ですね。生きて帰ってこられないかもしれない」
「滅茶苦茶だよ。実際旅行者だろうがビジネスマンだろうが国連職員だろうが、かまわず暴行されてるからね。外国人だから安全なんて、とても言えない」
「そこに、行けと……」
「強制じゃない。提案だよ」
「ひとつ聞いていいですか?」
「いくらでも聞いてくれ」
「では遠慮なく。社長だったら、オファーがあったら行きますか?」
「私だったら? いや、絶対に行かないよ」
社長は、首を振りながら言った。
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