第12話 ジランジアの内情

 

「いずれにしても、すさまじいところなのですね」

 

「そうだな。国の概要を話しただけで、そう感じちゃっただろ。このあと内情を話せば、すさまじさがもっと強まるよ。どうする、まだ話を続けるかい?  打ち切ってもいいよ」

 

「いえ、お願いします」

 

 ぼくはお願いした。こんな中途半端なところで打ち切ったところで、意味がない。どうせここで切り上げても、気になって後日社長の元を訪れることになるに決まっているのだ。

 

「そうか。じゃあ続けるけど、これからの話は一つとしていいことがない。まず、独裁国家なので外国資本はほとんど入っていない。元は植民地で、独立後はアフリカの中では比較的民主的な国家だった。多くの宗主国が無責任に引き上げていくなかで、その宗主国は現地の人材をしっかり育ててうまくバトンを渡したんだな。独立からしばらくはアフリカの優等生なんて呼ばれてたんだ。その頃はかなりの外国資本が入っていた。観光とか工場とか農業とか。でも、今の独裁者が政権を握ってからは、それら外国人の資本を全部奪って国営化してしまったんだ。今はホテルが数軒あるが、元の白人オーナーは雇われ支配人に成り下がってる」

 

「買い取りじゃなくて、没収されたんですか?」

 

「一応は買い取ったカタチだ。でもほんとにカタチだけ。通貨はギュンというものなのだが、その国の中でもほとんど使えない。紙っぺら同然だ。それを向こうの言い値で渡されただけなんだから、没収されたも同然だ」

 

「その独裁者の指示で?」

 

「そうだろうな。もっとも表向きは、独裁者じゃなくて大統領だ」

 

「なんという名前なのですか?」

 

「ヤマ・ジュ・グバンという男だ。齢は60くらいだと思う。正確な生年月日は分からない。生年月日どころか経歴もよく分からないんだ」

 

「そんな、経歴も分からない男が、よく大統領になれましたね。仮にもその男の統治までは、アフリカの優等生だったわけでしょ、ジランジアは。そんな男に対し、国民は支持したんでしょうか?」

 

「君はいろいろ頭がまわるな。それなら独裁国家に行っても切り抜けられるよ」

 

 そこで社長が笑った。ぼくもつられて笑ってしまった。

 

「まだ行くとは言ってませんから」

 

「そうだったな。で、国民の支持はちゃんと取り付けてるよ。クーデターで政権を取ったあとにおこなった選挙で、90パーセントの得票数で圧勝しているのだから」

 

「まともな選挙だったのでしょうか?」

 

「クーデターの5日後にまともな選挙ができると思うかい?」

 

「5日後!?」

 

「そう。5日後だ」

 

「うーん……。5日後に総選挙なんてできるんでしょうか?」

 

「まずクーデター前の内戦中に、ほとんど国内の知識人が一掃されてた。逃亡できる者は逃亡して、残っていた者は消されて。それにクーデターが追い打ちになって、国内が石器時代の様相になっていたんだよ。首都周辺からは人が消えたらしい。国民は密林地帯だけになったんだ」

 

「首都から人がいなくなったんですか?」

 

「まったくいなくなったらしいよ。もしも機能が止まれば、都会よりも田舎の方がまだしも暮らせるだろう。木の実も動物もいるから。なにしろ首都では物流も止まったし、病院も警察も吹き飛ばされたし。それでいてクーデターに勝利した軍は街中を闊歩してるし。とても暮らせるものではないだろう。首都に出てきていた密林出身者たちは、地元に逃げ帰ってしまったんだ」

 

「逃げられたら、選挙はできないでしょう?」 


「おそらく、一方的に宣言したんだろうな。反対派も知識人もいないし、密林の住民は逃げるのに必死だし、選挙を行ってこういう結果になったと宣言しても、だれも異を唱えることはなかったんだと思う。だいたい密林地帯の国民は識字率が低い。仮に投票用紙が届けられたとしても、『ヤマ・ジュ・グバン』なんて書けないだろうな。きっとやってないよ、選挙は」

 

「うーん」

 

 ぼくは唸りっぱなしだった。

 



 




 


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