第7話  会社を成長させた能力

 

 社長は口をギュッと結び、ぼくの顔を見る。

 

 そしてぼくも、見返す。

 

「そうだな」

 

 ぼくの見た感じでは、なにか重要なことを、話そうかどうか迷っているように見えた。

 

「どっちから先に話した方がいいものか……」

 

「どっちから?」

 

「そう。話の順序によっては、君が尻込みして行くのをやめてしまいそうだから」

 

「まだ行くとは言ってませんよ」

 

「でも、だいぶ乗り気になっているように見えるけど」

 

「それは……、まぁ、そうですね」

 

「だから、話の順序がむずかしくてね」

 

「ずばり、きつい方の話からしてください。それを聞いても尻込みしないと思います」

 

「そうか。じゃあ……」

 

 社長は立ち上がって、窓際に行った。面と向かっていると話しにくい。そんなふうに見えた。

  

「私が会社を成長させたのは、この前見せた特殊能力が役立ったからというのがあるが、もう一つ、要因があるんだ」

 

「もう一つ、特殊能力があるんですか?」

 

「いや、特殊能力ではない。君も持っている能力だよ」

 

「ぼくも?」

 

「そう。えっとね、『現実世界の食べ物を知っている』という能力だ」

 

「それは当然知っていますよね、死ぬ前は現実世界に暮らしていたんだから。でもそれって、能力なんですか?」


「この異世界には、あの現実世界にあった食べ物が全部あるわけじゃないんだよね。たとえばチョコレートがそうだろ?」

 

「はい」

 

「その、異世界にない食べ物を知っているというのは、立派な能力なんだよ」

 

「そうですかね?」


「この異世界も、私たちが以前いた現実世界も、味覚に関しては同じなんだ。つまり、現実世界でみんなに受け入れられていた食べ物をこの異世界で再現すれば、受け入れられるわけだ」

 

「あっ!」

 

「分かっただろう。そんな、絶対的に受け入れられる食べ物を、独占的に販売できるんだ。しかもこの異世界では、みんなが初めて経験する食べ物なわけだから、物珍しさも手伝って大ブームとなる」

 

「たしかに!」

 

「実際、私はそれで、莫大な売り上げをたたき出してきたわけだからね」

 

 社長はぼくに馴染みの、現実世界にあった食べ物を言う。それらが、社長の会社の売り上げに大きく貢献したのだった。

 

「そしてぼくに会って、チョコレートに目を付けたというわけですか?」

 

「まぁ、そういうことになるな」

 

「つまりは、この世界でチョコレートを作って、そして売り出そうと……」

 

 腕を組んで窓際に立っていた社長は、ぼくの顔をじっと見おろした。

 


 

 

 

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