第6話 行き先
出されたお茶を一口飲んで、ぼくはすぐに本題を口にした。通り一遍の挨拶もなにもなかった。思っていることをすぐさま伝えた方が、多忙な社長のためにもなると思った。
「こうやって、間を置かずに連絡を入れたことで、ぼくの気持ちは分かっているかと思います。カカオ豆のことを伝えられてから、ぼくはそれを考えどおしです。頭の中がそれだけで占められていて、行ってみたい気持ちでいっぱいです。なにしろチョコへの思いが募って狂いそうだったくらいですから」
そこで社長が神妙な表情で、大きく頷いた。
「でもですね、それと同じくらい、不安感も大きく膨らんでいます。現実世界にはなかった、未知の国に行くわけですから。それで、社長の考え、知っている現地の情報、それらを教えていただければと思って、伺いました。それと、どういうバックアップを考えているかを……」
「うん、そうだね。不安を持つのももっともだ。いいよ、なんでも聞いてくれ」
社長は笑みを浮かべて言った。気さくなアニキ、という感じで、ぼくは少しホッとした。
「ではまず費用に関してですが、社長はこの前……」
「いや、それは聞くまでもない。全額出すよ。渡航費、滞在費はもちろんだけど、その間に発生する費用から、行くまでに揃える備品まで、全部だ。こづかい、というか予備のお金も当然渡すよ。ある程度持っていた方が不安にならないだろうから」
ぼくの言葉を遮って、社長が言った。ぼくは安心した反面、こうまで大盤振る舞いすることに疑問も持った。
「それで、なんという国に行くのでしょうか?」
「行き先か。うん、ジランジアという国を考えていた」
「ジランジア?」
「そう、ジランジア。現実世界から地図を持ってきていないので明確には分からないが、おそらく現実世界ではガーナがあった辺りにあると思う。君も知っているだろうけど、カカオ豆の産地と言ってパッと思いつくのが、ガーナとコートジボワールだからね」
「大きな国なんですか?」
「いや、小さい。縦長の小国だったガーナを、さらに縦半分に切ったような、小さな長細い国だ。南は海に面している」
「でも、よく分かりましたね。そこがガーナだった場所ということが」
「うろ覚えだけど、ガーナって国は東半分が湖のような大きな川があるんだ。この異世界では、国は変わってても、地形は変わっていないからね。それで見当をつけたんだ」
「その辺りは、その、なんでしたっけ、行く国……」
「ジランジアだ」
「はい。そのジランジア以外にも国があるんですよね」
「あるよ。モンタビア、ゴンボ、ゼグニア、バイジア、ビマイ、とかかな」
「全然聞いたことないですね」
「そうだね。全部、小さな国だよ」
「その中で、なんでジランジアを選んだんですか?」
それまでよどみなく返答していた社長が、押し黙った。
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