第2話  社長の特殊能力

 

「ふふふ」

 

 ぼくの質問には答えず、穏やかな笑みを浮かべている。

 

 ぼくはメニューを見て、舞茸の天ぷらとアスパラベーコンを頼もうと、心の中で決めた。当然口には出していない。それを、社長が先回りして店員に伝えたのだ。これで驚かない方が、どうかしている。

 

 ―― もしかして……。

 

 心が読めるという能力を持ったのだろうか。ぼくは思った。それであれば、すごい能力だ。会社があれほど大きくなっているのも納得できる。

 

 しかし、

 

「心が読めるわけではないよ」

 

 先回りして言われてしまった。

 

「でも、それに近いかな」

 

 社長は続けた。

 

「どういった能力なんですか?」

 

「うん、それはね、人が何を食べたいか分かる能力なんだ」

 

 それを聞いて、ぼくは再度納得がいった。そうなのか。それなら、食品会社を大きく成長させる役に、おおいに貢献していることだろう。

 

「ではぼくが飲み物を頼みますので、代わりに店員に頼んでくれませんか?」

 

 ぼくはメニューを開いて、飲み物のページを見た。その間、社長はぼくのことを見ていた。しかしそれは、強く見つめているわけではなく、ただぼんやりと目を向けているという感じだった。

 

 そして店員を呼び、社長がハイボールを注文をした。

 

「あ、こっちの安い方のやつね。それで、ちょっと薄目で」

 

 ぼくは心底驚いた。細かな部分まで、ズバリだったからだ。

 

「当たってたかな?」

 

 社長が微笑みながら言う。ぼくにはそれが、不敵な笑みに見えた。

 

「はい。完璧です」

 

 そう答えざるを得ない。

 

 社長はこちらの世界に来てからのことを、話し始めた。なにもかも状況が分からず、どうしていいか分からなかった。死ぬ前と同じ世界ではあっても、なにかが微妙に違う。自分が死んだときの記憶も鮮明だ。ここは死後の世界だ。以前の現実世界とは違うのだ。そう思ってはいても、実際に身体があり、感触があり、感覚があった。そして困ったことに、腹も、現実世界と同じように減る。だから普通に働いて、暮らしていかなければならない。

 

 そうしてすごしているうちに、社長は自分の能力に気付いた。最初は、同僚や部下が頼もうとしている昼食や居酒屋メニューが分かり、ちょっと不思議だと思う程度だった。先回りして頼み、驚かれたことも数回あった。とにかくその時点では、それをたいした能力だと思わなかったし、頭が混乱していたので、あえて能力を利用しようとも思わなかった。

 

 しかし、この世界で生きなければならないと、次第に覚悟がつき、それならどうせ死んだ身だということで、ちょっとは大胆に生きていこうという気に変わっていった。

 

「死んだ身で生き方を変えるというのも変な話だけどね」

 

 社長はそこで話を切り、酒を頼んだ。

 

 



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