チョコをさがしに

第1話  社長との呑みパート2

 

 この前の呑みの場とは違っていたが、でもやっぱり上品そうな店だった。

 

「この前は、たいへんすみませんでした」

 

 ぼくはまず、社長に詫びた。

 

「いや、いいって。君にとって世の中がひっくり返ったんだから、酔いつぶれたって当然だよ」

 

 社長のにこやかな表情に、ぼくは安堵した。そこでジョッキが運ばれてきて、乾杯した。

 

 ダンとジョッキを置いた社長が、グッと身を乗り出した。

 

「それでさっそくだけど、特殊能力が見つかったかもしれないって、ほら、メールで。いきなりで悪いけど、話してくれないかな」

 

「えっ、はい。気のせいかもしれないのですが……」

 

 個室なので話しやすい。ぼくはメニューを開け、カタカナのものを言っていった。ポテトサラダ、レッドアイ、ミックスグリル、チーズサラミ、バーボン……。

 

 まず説明するより、その能力をさらけ出してしまおうと思ったのだ。ここでもし社長が気付いてくれたとしたら、それはこの能力がずば抜けたものだということだ。

 

 真顔になった社長が、ぼくをじっと見つめる。

 

 しばらく、沈黙に包まれた。

 

「英語の、発音かぁ」

 

 社長が静かに言った。分かってくれたぼくは、そこでひとまずホッとした。

 

「元々、喋れたの?」

 

「いえ、まったく」

 

「海外には行ったことある?」

 

「ないです」

 

「なるほど」

 

 社長が腕組みをして、目を瞑った。

 

 ぼくはどうしていいか分からず、じっとしていた。

 

「あ、ごめん。食べて」

 

 ぼくの戸惑いに気付いた社長が、料理を勧めた。

 

「そのネイティヴ並みの発音が、急に身に付いたと言うんだね」

 

「うーん……。実は身に付いたかどうか分からないんです。ぼくは意識してないんです。普通にカタカナ英語を話しているつもりなんです」

 

「意識していない?」

 

「はい」

 

「そうなのかぁ」

 

 社長は再び黙考した。

 

「あのう……」

 

 ぼくは遠慮がちに、社長に声をかけた。

 

「ん?」

 

「異世界に迷い込むと、なにかしらの能力が身に付くと言われましたよね」

 

「そうだね。それで君の場合は、その英語の発音じゃないかと思う」

 

「はい。では社長さんは、どんな能力を身に着けたんでしょうか?」

 

「わたし?」

 

「はい」

 

 社長は無言でぼくにメニューを渡した。

 

「また読むのでしょうか?」

 

「いや、君の食べたいもの、いくつか取りなよ。そうしたら私の能力を話すから」

 

 ぼくはメニューをパラパラとめくった。

 

「決まった?  じゃあ店員呼ぶね」

 

 ボタンを押して店員を呼ぶ。そして入ってきた店員に向かって、

 

「すみません、舞茸の天ぷらにアスパラベーコン炒めをお願いします」

 

 と伝えた。ぼくでなく、社長が。

 

 店員が去ってしばらく、ぼくは声が出なかった。固まっているぼくに、社長はやわらかい笑みを浮かべている。

 

「どうして、ぼくの頼もうとしていたものが分かったんですか?」

 

 ぼくは絞り出すような声で、社長に言った。

 


 

 

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