第14話 社長との、最悪の呑み
1週間後、ぼくは重い体をひきずって、社長と会って呑んだ。
最悪の飲み会だった。ぼくはひどく酔って、ふらふらになって立てなくなり、もどし、結局社長にタクシーで会社に連れられ、社員寮の空いている部屋で介抱された。なにやら医者らしき人間が来たのを、微かに覚えている。でも曖昧だ。ずっと周囲の景色がグルングルン回転していた。
まだそれほど酒場の数を踏んだわけではないけれど、ぼくはそれほど酒に弱くない。格別強いわけではないけれど、でもこれまで、大きく崩れたことはなかった。だから今回の大崩れは、多分に精神的な落ち込みが影響していると思った。やりきれない思いが、毒となってアルコールと結びつき、体中で暴れてしまったのだ。
最初は普通に、淡々と話していた。社長が質問してぼくが答えるというパターンが多かったけど、社長はぼくの話していることをこまめにメモしていた。メモを取るくらいだから、まともに話していたのだ。それからだんだん、感情を吐露するようになっていった。その辺りから記憶が途切れ途切れだ。でも繰り返し、「頭の中はチョコだけで、チョコを食べられるのならなんだってする」としきりに言っていたことだけは覚えている。
呼び出し音が鳴る。iPhoneを取る前に時間を確認すると、お昼近くだった。
「どおだい、具合は?」
社長だった。ぼくはまず、詫びた。
「あはは、いいよいいよ。大学とかは大丈夫かな?」
授業はあったが、二日酔いでだるく、行く気がしない。しかし長居しては悪いので、大学に行くから間もなく出ますと言った。
「カギはそのままでいいからね。あ、あと、悪いけどまた来週付き合ってくれるかな。同じ曜日の同じ時間に。君が気兼ねするから呑みの場は代えよう」
社長は快活に笑った。恐縮しているぼくとしては了承するよりない。あんな失態をしでかしてしまったのにすぐにまた誘う社長の意図が分からなかった。せめて昨晩のようにならないことだけは心に誓った。
外に出ると、日差しが眩しくてつらい。エレベーターがまたつらい。ちょっともどしそうだ。帰りの電車は大丈夫だろうか。
エントランスを通って外に出ると、タクシーが停まっていた。その横にスーツ姿の男が立っていて、ぼくの姿を見ると近付いて来る。
「社長からの言いつけで参りました。田名瀬食品の社員の者です。お乗りください。駅までお送りします」
眼差しのきつい、痩せた男だった。笑いはない。髪を短くカットしているので、眉間のしわがはっきり見える。睨みつけられているようだった。
車だと酔っちゃいそうだな。ぼくは思ったが、逆らうことができずに後部座席に乗り込んだ。
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