第5話 中毒になってるよ

 

 ―― あぁ、チョコ食べたい。

 

 ぼくはそればかり考えるようになってしまった。

 

 もはや中毒と言っていい。実在しない食べ物に中毒になるなんて、ぼくぐらいじゃないのか!?

 

 子どもの頃、チョコは中毒性があるから食べすぎるなと、父親に怒られたことがある。あぁ、まったく懐かしい。つまりは中毒になるくらいにチョコがあったわけだ。今のぼくは悲しいことに、中毒になることすらできない。

 

 異世界がこんなだなんて、チョコがないなんて、想像すらしていなかった。なんて最悪の世界なんだ! もっとも、虫だらけの世界とか灼熱地獄なんかに比べればよっぽどいいわけだけど。でもやっぱり、チョコを欲する気持ちが耐え難いほどに強くなっているので、この世界こそが最悪だと思ってしまう。

 

 さっきから、ゴロンとベッドに寝っぱなし。何も手に付かない。ここ数日大学にも行ってない。

 

「そうだ!」

 

 チョコがないとなると、チョコの原料を輸出してる国はどうなってるんだろう。ぼくはそのことに思いつき、ガバッと起き上がるとパソコンに向かった。

 

 立ち上げて検索画面を起こす。数日前、チョコの有名な会社は検索した。当然ながらそれらはなにも出てこなかった。ゴディバもモロゾフもロイズも。

 

 まずは『ガーナ』と打った。やはりチョコと言って日本人が思いつく国は、なんといってもガーナだろう。この国で、チョコの原料となっているカカオ豆を輸出してないとしたら、経済は大丈夫なのだろうか? おそらく相当のパーセンテージを占めているはずだったのに。

 

 『ガーナ』と打って、ぼくはその経済状況を調べるつもりだった。しかし……。

 

「そんなことって……」

 

 ガーナという国は、検索しても出てこなかった。

 

 ないのだ……。

 

 ぼくは次に、『コートジボワール』と打ってみる。日本ではガーナがカカオ生産国として知られているが、コートジボワールはガーナの倍近い生産量だ。

 

 でも、コートジボワールも出てこなかった。

 

 ぼくは、チョコと言って連想できそうな国を片っ端から検索していった。カカオ豆は赤道に近いところでしか生産できない。だからアフリカ、東南アジア、南米大陸の上の方に限られる。ヨーロッパもアメリカもオーストラリアも東アジアも入らない。しかしアフリカの国はことごとく出てこず、南米や東南アジアはさすがに実在したけれど、その国の内情を検索してもカカオ豆の輸出はなかった。

 

「国がないなんて……。やっぱりここは、現実世界とちがうところなんだ」

 

 今度は、アフリカ大陸をネットで見てみた。ガーナやコートジボワールがないとしたら、その辺りはどうなっているのだ。空洞にでもなっているのか?

 

 じっと、画面に映し出された地図を見つめる。ぼくははっきりとは、ガーナやコートジボワールの場所を知らなかった。でも赤道付近であることは間違いがない。

 

「なんだぁ……」

 

 間延びした声が、思わず出た。なんだか聞いたことのない国名が並んでいたからだ。

 

 もちろん、現実世界でのぼくは、国マニアではなかった。だからアフリカの小国を知っていたわけではない。でも、やっぱりある程度は耳に残っていた。セネガルやカメルーンはサッカーで知っていたし、ナイジェリアやスーダンはニュースで聞いていた。でも、赤道付近の地図には、まったく耳にしたことのない国名が乱立していた。そしてまた、こんなにも細かく国が分かれていることにも、違和感を持った。

 

 アフリカの国がこの世界に存在しないことに愕然としたぼくは、再びベッドに倒れ込んだ。こんどはうつ伏せに……。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る