第4話 ぼくは、ぼくの「死」を思い返す

 

 駅からまっすぐ、家へと向かう。異世界なのに、迷うことなし。ぼくの生きていた現実世界とまったくちがいがないからだ。家の並びも同じ、信号の待ち時間も同じ。そして車の交通量も、同じくらい……。

 

 早めの帰宅に、母親が、……いや、母親と同じ人がキッチンから顔を覗かせたが、ぼくが、疲れたから帰ってきちゃったと言うと、フーンと言って引っ込んだ。ぼくが現実世界でよく言ってたセリフなのだが、それも通じたということだ。

 

 誕生日の、わずか1日前にぼくは死んだ。まったくもって、みっともないくらいの、単純なミスというような死に方だった。山登りに行って、無理な行程で疲れきって、足を滑らせて崖から転落したのだ。自分でも分かってることだった。朦朧とする頭で、こりゃちょっと危ないなぁ、死んじゃうかもなぁ、と思いながら歩いていて死んじゃったのだ。まだ成人してたったの数年。社会人にもなっていない。それでこんな死に方。育ててくれた親に申し訳なくて仕方ない。できることなら生き返って土下座したいくらいだ。

 

 統計では、人間は誕生日の前後で死亡率がちがうという。誕生日前の3ヶ月間は死亡率が低く、誕生日後の3ヶ月間は死亡率が高いという。単純に考えれば、12ヶ月どれも変わらないはずなのに。

 

 人間は無意識のうちに、誕生日を目標にしているらしいのだ。だから誕生日までは生き延びようと、微妙に意識が上がる。それで誕生日前後に、数字のちがいが出てくる。ぼくの死は、その事実に完全に逆らってる。誕生日一日前の死なのだ。人生の最後まで、なんというか、間が抜けている。自分でもイヤになる。事故は予測不能のものだからその統計には当てはまらない、とも言える。しかしぼくの事故は、たんなる自分の不注意としか言いようのないもの。誕生日への意識が強ければ、防げたかもしれないのだ。

 

 ぼくはこれから、この世界でどうやって生きればいいのだろう。波風立てず、平凡に暮らしていけばいいのだろうか。せっかく生まれ変わったのに、それもちょっとなぁ……。

 

 自室の、いや、自室とそっくりな部屋のベッドに寝転がりながら、ぼくはとりとめなく考えていた。

 

 

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