第3話 どこかに現実世界とちがうところがあるはずだ!
大学の3限は必修科目だったけど、まったく授業を受ける気にならなくて、ぼくは帰っちゃうことにした。3限は経済学史だが、異世界でそんなニッチな歴史なんか勉強したってしょうがないというものだ。
駅へと向かう道すがら、キョロキョロと辺りを見まわす。携帯ショップに居酒屋に牛丼屋にコンビニにチェーンのラーメン店。まったく、何も変わりがない。駅前ロータリーの眺めも、駅ビルのレイアウトも、そうだった。
駅の改札は、磁気カード不要で通過の際に行き先を念じるだけ。おぉ、やっぱり異世界じゃないか!!
……というのは、たんなるぼくの願望。ホントのところは現実世界と同じで、磁気カードをピッとタッチした。やっぱりやっぱり、日常となぁんにも変わりがない。
電車はすいていた。ぼくは座ると、iPhoneも出さずにボーッと反対側の車窓を眺めていた。もう頭を働かせたくなかった。混乱し続ける頭を鎮めたいのだ。
ぼくはぼんやり車窓を見ながら、以前に読んだ、星新一の『地球から来た男』というショート・ショートを思い出していた。
それは、産業スパイを働いた男が、潜入した企業で捕まって、地球外に追放されてしまうという話だ。実際には地球外には飛ばされてないのだが、原っぱで目覚めた男は、地球とそっくりな星に追放されたと思い込んでしまう。そして以前と同じ生活をしていくのだけど、「これは地球だ」と気づくことなく、一つ行動するごとに、「地球での生活と似てるなぁ」と地球を懐かしみ、思い焦がれ、涙するのだ。
その小説を思い出したのは、もしかしたらぼくもそうなのではないかと思ったからだ。ぼくは案外、死んで異世界に来たと勝手に思いこんでるだけで、ホントのところは現実世界に継続して暮らしているのじゃないだろうか!?
でも、それなら、あの崖から落ちた感覚はなんだったのだろう。明確に覚えてる。でもでも、今いる場所が現実世界と寸分の狂いもないことも確かだ。分かんない、全然分かんない!
ぼくはそこでハッと、辺りを見まわす。この電車、異常にすいてるんじゃないか?
満員電車で有名な中央線は、昼でもすいてない。ぎゅう詰めではないものの、かなり混み合っている。でも、ぼくの乗ってるこの電車、ガラガラだ。反対側のロングシートには、それぞれ端に一人ずつ。だからこそ、ボーッと車窓を見続けられるのだ。
―― 中央線がこんなにすいてるなんて、異常だ!
異世界にしては、どうにも小さすぎる現実世界とのちがいだが、それでもようやく見つけた相違点だ。
―― やはり異世界だったんだ!!
と確信した瞬間、車内放送が、武蔵小金井行きだと告げる。
「えっ!」
しかも、次がその武蔵小金井。終点だ。
―― それじゃ、すいてて当然だ!!
中途半端な武蔵小金井行きは、混み合う中央線で、唯一すいてるのだ。ぼくも他の乗客同様、そっから先への乗換えが面倒でいつも乗らないのだが、今日はぼんやりして乗ってしまったらしい。
「なにからなにまで一緒で、ぼくのボケてるところまで一緒なんだなぁ」
ほとんど乗客がいないので、ぼくは混乱する気持ちを言葉に出した。
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