第2話 なぁんにも変わったところのない大学生活
ぼんやり見つめるぼくの視線に、同じサークルの3人が近づいて来るのが映る。彼らとは、さっきの授業も一緒に受けていた。たくさんつるんでいるが、特段仲がいいわけではない。大学では、ある程度の付き合いがあった方がいろいろと楽なのだ。もっともぼくが付き合っていたのは、彼らではなく、現実世界に生きてる『彼ら』だ。
「あ~座ってる~~」
石見知子がぼくを指さして言う。言い方から表情から、現実世界の石見知子とまったく同じ。
「あぁ、座ってるよ。ベンチに座って何が悪い?」
「ちがうよ~。授業中に座ってるってこと言ってんの~!」
彼女はどうしてこういつも語尾を伸ばすのだろう、と座ったまま思う。彼女は地銀の内定を取っているのだが、職場でもこの口調を貫き通してほしいものだ。
「ここに来てるってことは、君たちだって授業を抜け出してきたんだろ」
「おいルカっち、どれくらいの間ぼけっとしてたんだよ。もう2限終わったんだぜ」
暮本があきれ顔でぼくを見て、言い返した。
「それよりなんで、授業の途中で出てったんだよ?」
「えっ、いや、なんとなく」
ぼくは言葉をにごす。転生先が冴えなくてイヤになったからなんて、とても言えない。彼らはその転生した世界の住人なのだ。
「このだらしなくて投げやりな性格、どうよ?」
暮本が、ぼくにでなく石見知子に向かって言う。
「私に聞く~~?」
「だってルカっちのことカッコいいって言ってたろ、石見は」
「うん。この性格がなかったらせまっちゃうところ~」
ぼくの頭越しで、ぼくの非難めいた言葉のやり取りが続いている。
「ルカっちさぁ」
ひとりスマホをいじってて会話に入っていなかった田名瀬が、ぼくのとなりに座る。
「ホント、内定まだなんだろ、大丈夫かよ? おれの親戚のおじさんが食品工場やってんだけど、人さがしててさ。よかったら今度の土曜、会うだけ会ってみないか?」
田名瀬が、ぼくの顔を覗き込むように首を傾ける。
「いや、いいよ」
「いいよって……。みんなけっこう心配してるんだぜ」
「うん。すまないけど、でもいいよ」
「まさかまた山に行くつもりじゃないだろうな?」
暮本の声が、上から降ってくる。
「いや、山はもう金輪際行かない」
「え~どうしたの~? まさか幽霊にでも遭っちゃった?」
その幽霊にぼくがなっちゃったんだよ、とも言えずに、石見そっくりの幽霊だったよと話を混ぜっ返す。もうやだ~と石見知子はうれしそうにぼくの肩をバンバン叩く。
おそろしく日常だ。どうしようもないくらいに日常だ。ぼくは噴水の池で水浴びしている小鳥を見ながら、彼ら3人と一般的すぎる会話を続けていた。
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