第60話
書籍の発売日から二日経ちました!
もう皆さん買ってくれましたか?
もしまだ買っていないという人がいれば、買ってくれると私がバリ喜びます!web版をガッツリ改稿していて、正直web以上にかなり面白くできた一作になっているので!いや、ほんと、マジ面白いよ!それとイラストが最高!(めっちゃ宣伝)
あと、買ってくれた人で感想をくれた皆さん、ほんとありがとうございます!
感想欄や活動報告、ツイートなどの感想を読ませていただきましたが、嬉しくて泣きそうになりました!
ほんとめっちゃ励みになります!
これだけでも結構嬉しさ爆発しているのですが、最後に一つだけ恥も外聞もない頼みをさせてください!
私やオーバーラップの方の宣伝でも限界はあるので、良ければ読んだ感想をツイートしたり、アマゾンレビュー(できれば高評価を!)を書いてくれると助かります!
皆さん一人一人の声が大きな力となって広がっていくので!
よろしくお願いします!
あ、あと新作も始めました!
覇王様、転生します。~俺はただ平穏に暮らしたいんだ!~という作品です!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892476569
よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
武蔵学園からほど近い場所にある喫茶店。
歩道から見えるガラス張りの奥にはシックながらもおしゃれな内装が見え、また敷居が高そうな外観とは裏腹に何ともリーズナブルな価格と質の高い料理を提供することから、武蔵生達には人気の高いお店である。
休日のお昼時を少し過ぎた時間帯。
まだ随分と込み入った店内の一席に祢音達の姿があった。
「それでは暗条の風紀委員就任を祝して――乾杯!」
「「「「乾杯!」」」
コップをぶつけ合う小気味のいい音が響き渡る。
ただし、店内の雑然とした様相のせいで、その音もすぐさま掻き消えたが。
祢音達は一週間前に晴れて風紀委員に属することになった冥を祝うため、今この場所に集まっていた。
「とりあえず、おめでとう冥」
「……まぁ、良かったな」
「……冥、頑張った」
改めて祢音、炎理、命と三者三様の様子で祝言を貰った冥は恥ずかしそうに礼を返す。
「えっと、その……ありがとう三人共」
こういう祝いの席というのは、彼女にとって随分と久しぶりなものだった。家族がいた時は毎年誕生日や記念の日によくやっていたが、あの血に染まる日を境にただひたすら己の研鑽に費やす道に踏み込んでからは完全に無縁になっていた。
だからこそ、久々に他者から向けられる純粋な気持ちに照れ臭さを感じたのだ。
テーブルに並べられた料理に手をつけながら、四人の小さな祝賀会が始まる。
祢音が皿に盛られた料理を摘みながら、ふと冥に質問した。
「それにしても冥が並列行使を成功させたのには驚いたな。あれってやっぱりアリアの教えのおかげだったりするのか?」
「ええ、そうよ。アリアさんが教えてくれた積層構築の理論を少し捻って行ってみたら、出来たのよね。本当に感謝しかないわ。正直、あれがなかったら勝てたか分からなかったから」
「ふ~ん、まぁ役に立ったのなら、アリアを連れてきて正解だったな」
ずぼらでちゃらんぽらんのくせにやっぱり大魔法師と呼ばれる偉大な人物なのだなと祢音はもう何度目か分からない尊敬と残念が入り混じった念を内心でアリアに向けた。
その念が届いたのかどうかは知らないが、その頃アリアは祢音の自室のベッドの上で盛大なくしゃみをかましたとかしなかったとか。
そんな折、バクバクと頼んだ料理を食べていた炎理も茶化すように会話に加わってくる。
「ま、結局は運でもぎ取った風紀委員の椅子だけどな」
「チッ、うるさいわよ、ニワトリ。囀りはここを出て、外で一人やってなさい」
嫌なことを思い出させられたせいか、冥が鋭い視線を炎理に向けながら、毒を吐いた。
「あん!だから俺はニワトリなんて名前じゃね!何べん言わせれば分かるんだ!」
「ニワトリが嫌なら、チンパンジーなんてどうかしら?ウキウキ騒がしいところなんてほんとそっくりよ?」
「て、テメェは人を動物に例えることしかできねぇのか!?普通に名前で呼べばいいだろ!?」
「嫌よ、それじゃあ私の口が穢れるでしょ?」
「俺の名前には呪いの作用でもあるのか!?」
「ええ、そうよ。あなたの名前はこの世のありとあらゆる汚物や臭物、激物を混ぜ込んだような呪詛なんだから」
「お、お、お前、そ、それはちょっと言いすぎだろ!?」
もうある意味恒例のようなやり取りになった二人の喧嘩。
本気で憎しみ合っているのではなく、ただちょっとしたじゃれ合いに近いのだろうが、何しろ冥の毒舌は彼女の鋭い容貌とも相まって、かなりの威力がある。
そっちの線の人間にはご褒美になるだろうが、幸い炎理にその趣味はない。(巨乳の美女にだったら罵られて喜ぶかもしれないが……)
当然のように、今日も今日とて、炎理は涙目にされた。
そんないつも通りの様子に祢音は苦笑いを向けて口を挟んだ。
「冥、さすがに少し手加減してやれ。確かに炎理の一言が悪かったとはいえ、名前の否定は少し可哀そうだ」
さらに祢音の諫言に追従するように、命も炎理のデリカシーのなさを口少なく窘める。
「……炎理も少し反省」
冥は第二回戦を相手の降参により勝利を得ていた。
あの驚異的な強さを見せた神宮翔也は、これまた『僕は女性に暴力が振るえないんだ……だから、この決闘は僕の負けだよ(無駄にイケボ+流し目+変なポーズ)』という驚異的な理由で冥との決闘を自ら降りたのだ。
その結果、幸運にも風紀委員の第一枠を得ることになった冥だが、最初は喜んでいいのか迷ったものである。結局は、第一の目標である風紀委員の座に座れたので良しとしたが、完全な納得をしているという訳でもなかった。
冥は祢音に諭されたことで、憮然とした表情を見せながらも、謝罪を口にし、炎理は命に叱られたことで、こちらもおのずと小さく頭を下げる。
「そうね……さすがに言い過ぎだったわ。ごめんなさい」
「……悪かったよ。俺も今言うことじゃなかった」
口では謝っているものの、どこかまだ強情さが残る二人に祢音と命は顔を見合わせ、肩を竦めた。
初っ端いきなり謝罪からの何とも決まらない祝賀会だが、その後は何事もなく順調に続いていく。
時に祢音がメモするように食べた料理を記録する女子力の高さを見せたり、炎理が好物の鶏の唐揚げを勢いよく平らげて、冥に「共食い……」と言われ、またも喧嘩が勃発したり、命は命でマイペースに、しかし高速で手を動かしてデザートを吸引するという、兎にも角にも各人が思い思いにその祝賀会を楽しんでいた。
だが、楽しい時間というものはすぐに終わるもので――
気がつけば太陽が沈み、西の空が綺麗な橙色に染まり、辺りを夕闇が侵食し始める時間帯。
祢音達が店の外に出ると、少し季節外れの冷たい風が彼等の間を吹き抜けた。
ぶるっと小さく身を震わせながらも、四人は帰路に就く。
活発な炎理が一歩先を行きて歩き出せば、冥がため息を吐いてそれを冷めた目で見つめ、祢音がその後ろから何とも苦労性のような表情で微笑みを浮かべている。
さらにその一歩か二歩後ろで命は立ち止まってじっと彼等の背を見ていた。
それは前までは考えられなかったような幸せな時間。
初めてこんなに心許せる友達ができた。
こんな愛想がなく、無表情ばかりでいいとこなんて一つもない自分なのに。
祢音はいつも優しく、心が広い。でも、どこか抜けていることも多く、だからこそそこが面白いともいえた。冥は常に目標に真っ直ぐで、ブレない心を持っている。でも、時折すごく丁寧な口の悪さを発揮する。炎理はアホでバカで、いつも口うるさく喧しい。でも、とても仲間想いの男だ。
彼等と過ごす日々は、すべてが新鮮で心が躍り、世界が広がっていくようだった。
満たされるとはこんなことを言うのだろうか?
幸せを噛みしめるように、命はいつも顔に張り付けた眠たげな目を眩しそうに小さく細めた。
すると、いつまでもついてこない命に気がついた祢音が振り返ってくる。
前を歩く冥と炎理も気がついた様子で立ち止まった。
「どうした、命?帰ろうぜ?」
祢音が手を差し伸べてくる。
命は小さくコクリと頷いた。
「……ん」
――こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいな。
西日から差す光のせいか、祢音達は気づかなかったが、その時命の顔には嬉しげに薄っすらとしたえくぼが刻まれていた。
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