第20話

「おっ、ようやく来たか」

「待たせて悪かったな」

「パパー!」

「ピースも待たせて悪かったな」

「お話は終わったの?」

「終わったよ。俺も一緒に菓子を――」


 机を見てみると、大きな皿があったがそこには何も置いていなかった。


「…まさかここにお菓子があったとか?」

「おいしかったよ!」

「ああ、実に美味しかった。また食べたいものだな」

「それでしたら建国祭のときに出されると思うのでその時に買ってみてはどうでしょうか?」

「これは商売上手だな」

「俺のお菓子が……」


 めちゃくちゃ楽しみにしていたのに……。

 アナスタシアの今の言い方からして在庫はもうなさそうだし。


「そういえば祭りでは何をするんだ?」

「それは見てからのお楽しみです。せっかくですので一緒に回りたいのですが、主催側なので……」

「まあそれは仕方がなかろう」

「明後日にはどうか、と言いたいところだが明後日にはもう帰るからなあ」

「残念です。ですがもしかしたらまたすぐに会えるかもしれませんからね」

「「??」」


 さっきの話のことか。

 それは帰ってからまたガガドラや村の人達と相談しないと。


「それであの、夕飯はどうしますか?」

「食べるー!」

「俺もいただこうか」

「俺の分まで食べやがったのに、まだ食べれるのかよ……」


 あぁ、俺もお菓子食べたかったなあ。

 ピースだけならまだしも、ガガドラにまで食べられると何か負けた感じがして悔しい。


「お祭りのほうに材料を回していて豪華と言えるほどではないですが、食堂へ行きましょう」


 俺たちがいた部屋は待合室だったらしく食堂ではないみたい。

 そんなに分ける必要があるのかな?

 大きい家に住む人の気持ちがよく分からない。


「ご主人様、あの……」

「どうかしたの?」

「実は――」

「えっ!コックが帰ってきていない?」

「はい。恐らくまだ建国祭のほうで忙しいのかと」


 もしかしてアナスタシアと再会したときの中にいた一人かな。

 手を何かで切ったような跡もあったし。


「困りましたわ。私は料理できないですし、あなたはできる?」

「申し訳ございません。私たちはまだ不慣れで……」

「謝ることはないわ。私が確認できていなかったのも悪かったのですし」

「なら俺がつくろうか?」

「えっ、アキヒサが?いつも料理なんてしないで食べに行っていたアキヒサが?」

「随分と評価が低いようだけど、あれからずっとピースのために毎日料理しているんだ。けっこう料理はできるほうだと思うぞ?」

「うーん、それなら頼もうかな?あるものは自由に使って構わないから」

「なら俺も――いや、ピース。アキヒサを手伝ってやってくれないか?」

「うん!わかった!」


 というわけで俺とピースはメイドの人に案内されて台所がある所へ。

 手伝うことがあれば言ってくれと言われたけど、材料も調味料も全部ここにあるから問題ないと言っておいた。


「さて、あるもので何をつくれるかなあ」

「お芋があったよ!」

「おっ、こっちには数種類のスパイスがあるな。それに肉までもある」


 あとは玉ねぎとお米があればあれをつくれるな。

 昔何となく見たレシピで曖昧だが、頑張って代用を考えつつ作ってみよう。


「あったあった。2つともまさか揃って置いてあるとはな」

「何をつくるの?」

「カレーをつくってみようかと思ってな」

「かれー?」


 こっちではまだ出回っていないためみんなは知らない。

 もしかして俺はここで初めてカレーを広めた人間になるのか……?


「それはさておき、さっさと作っちゃおうか。ピースはお米を研いでもらえるかな?」

「わかったー!」


 何種類かあるスパイスを試行錯誤してどれが合うか調べ、小一時間かけてようやく見つけ出した。

 お米ももう炊き上がっているから急いで作らないと。


「ようやく完成!メイドの人を呼んで運ぶのを手伝ってもらおうか」

「呼んでくるー!」


 その後、ピースはメイドの人を連れて戻ってきて一緒に食堂へと運んだ。


「これはいったいなんだ?」

「何かお鼻をくすぐるようなにおいがしますが」

「まあ食べてみなって。ピースも、ほら」

「「「いただきまーす」」」


 さてさて、感想はどうかな?


「「……美味しい」」

「かりゃーい!!」

「あ、ピース。俺のカレーを食べやがったな」


 実は俺のだけ辛めにしてある。

 カレーは辛口のほうが好きだから辛くしたんだが、間違えないようにしっかりと分けていた。

 なぜそれをわざわざ取ったのだろうか。

 皿が一種類だけ違うからなのかな?


「ほらお水」

「ありがひょー」

「あとピースのはこっちな。辛かっただろう?」

「こっちは大丈夫なの?」

「そっちはピース用につくったから辛くないよ」


 一応ガガドラとアナスタシアには中辛ぐらいの辛さにしておいた。

 二人ともそのまま食べているし、少し辛いぐらいならそのまま食べられるみたいだな。


「おかわり!」

「私もいいでしょうか?」

「はいよ。そうだと思ってたくさんつくっておいたから遠慮なく食べな」


 二人は俺に皿を渡したが、メイドがそれを回収しておかわりをよそってくれた。

 そして二人に渡した後、今度は俺のほうへとやってきた。


「あの、できれば後でレシピを教えてもらうことはできるでしょうか?」

「構わないよ。紙とペンがあったら俺たちが泊る部屋に置いておいてもらえるかな?夜のうちに書いておくからさ」

「かしこまりました。ありがとうございます」


 その後、ピースも気に入ったみたいでおかわりを。

 芋が好きだからピースのほうに芋を多く入れていたが、やっぱり好評だった。

 これから家でもつくれるようにスパイスを頼んでおこうかな。


「ふぅ、食った食った」

「まさかお祭り前日にこんなにも美味しい食べ物を食べられるとは」

「うーん……」

「ん?ピース、眠たいのか?」

「うん……」


 ピースはお腹いっぱい食べたみたいですでに眠たそうにしている。

 あれだけ寝たのにまだ眠いって、随分と育ち盛りだな。


「二人ともごめん。ピースが眠たそうにしているから先に部屋に行くよ」

「ああ。後は俺が片づけをしておこう」

「いえいえ!後は私たちメイドにお任せください!」

「そ、そうか。つい家での癖でな。なら俺も部屋に戻ろうか」

「では三人ともおやすみなさい。私は朝早く出るため会えませんが、お祭りはお昼近くからなのでゆっくりと休んでください」

「ああ。ありがとう」


 俺はピースをおんぶして部屋へと戻っていった。

 食べた後にすぐ寝ると牛になる、なんて昔よく言われたなあ。

 だけどこんなに眠たそうにしているなら仕方ないよな。


「パパぁ……」

「はいはい。ここにいるよ」


 俺はピースが寝付くまでそばにいてあげることにした。

 寝息が聞こえ始めると俺は机へと向かう。

 もちろんカレーのレシピを教えるためだ。

 使ったスパイスや玉ねぎにじゃがいもなどの材料から火を通す時間まで詳しく書いておけばいいだろう。

 これなら間違えることはないだろうし。

 書き終える頃には俺も眠くなり、この日はぐっすりと眠ることが出来た。


 翌日、俺とピースはほぼ同じタイミングで起きた。


「おはよう、ピース」

「おはよぅ……」


 少しだが外から賑やかな声が聞こえる。

 本日、ミスティック王国の建国祭が始まったのである。

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