第19話
「まずは順番に聞いて行こう。なぜ他の小さな国などではなくいきなりシートラス王国なんだ?」
人間大国、シートラス王国。
大国なだけあって人口も多いし土地面積も広く、何よりも他国に比べて権力がある。
例えば国のお偉いさん方が集まる会議があると、通る案件のほとんどはシートラス王国のものなのだ。
そうなった原因は俺にある。
元々は普通の国であったが、勇者である俺が現れた途端に国は大きく変わった。
シートラス王国が始めたのは俺への支援の数々、いわゆるサポーターになったのだ。
これはシートラス王国が勇者を育てたとか勇者の出身地だとかの口実だったのだろう。
俺にとってはどうでもよかった。
だが、それが他国を突き落として自分だけ這い上がる戦略になっていた。
ようするに、『自分の国には勇者という強者がいます』という戦闘力を見せつけている脅迫なのだ。
一度見せたら最後、強くなりたい者も元々強いものも大国へと吸われていった。
そのため、今でも強者が集う国で未だに権力を保持している。
「私たちが行うのは考え方を改めてもらうことです。大国は昔から人間主義国家なのでそれを撤廃してほしいのです」
「それにしてもまだ建国されたばかりの国がやるにはリスクが高すぎる」
「そのためにアキヒサが必要なのです」
次に疑問に思ったことがなぜ俺でないといけないということなんだが。
「まずは確認だが、俺はどう扱われているんだ?」
「どう、と言われますと?」
「生きているか死んでいるかだ。自分で言うのもなんだが、俺はあの時に死んだと言われたんだ。その後の扱いが俺の予想通りだったら……」
「恐らく予想通りでしょう。死んだ扱いになっています。私がまだドラーグと一緒にいるときは死んだように話していたので、それが回ったのでしょう」
「やっぱりな」
大方予想通りだ。
「そのことについて分かった。だから今が攻め時だと思ったのか?」
「私たちは戦争をするわけではありません。まあ、勇者であるアキヒサがいないとシートラス王国の戦力はガクッと下がりますけど」
「そうだよな。少し話からずれるが、ドラーグとサミナの行方はしっているのか?」
「サミナは現在行方不明です。私も力を入れて探したのですが、見つけることができませんでした」
行方不明か。
どこかに隠れているのかひっそりと暮らしているのかは分からないが、無事であることを願う。
「ドラーグのほうですが、こちらはとても重要です」
「何かまた起きたのか」
「起きた、というより先手を打たれました。シートラス王国の聖騎士団の団長に選ばれました。現在検討中のようです」
「……厄介なことをしやがったなあ」
元々勇者を支援していたが、勇者である俺はあくまでも一般人扱いだった。
だが聖騎士団は大きく違う。
まずは国王直属の部隊のため、扱いが貴族と同等、もしくはそれ以上にもなる。
次に団長の席は長年ずっと空席だったことだ。
勇者である俺ですらなれなくて、勝手にその座は高いものへとなっていった。
これら2つを合わせるとドラーグの対応がよすぎる。
これを知ったら勇者である俺より強い者がシートラス王国に入ったと思われるだろう。
ドラーグはこの提案を断るはずがない。
勇者である俺より上の席と言われている席を譲ろうと言われているのだから、ドラーグに限った話ではないはずだ。
「勇者がいなくなってシートラス王国も焦っていたの。でもそんなときにこんな事件が起きて一気に事態は収まったわ」
「勇者が死んだ今、共に旅をしていた仲間で一番強い男だからな。手に入れた国が勝ちみたいなものだろう」
「ですので勝つためには本当の強さを持つアキヒサしかいないのです」
「そういうことか……」
もうすでに最後の切り札しか残っていないというわけか。
だから建国して間もないのにあんなに堂々と言って祭りを開いたのだろう。
「それならわざわざ手を出さない方がいい、と言いたいがそれではずっと立ち止まったままだからな」
「獣人より人間のほうが差別意識は高いですからね。動かない限り変わらないでしょう。ですがそれだけではありません。このままシートラス王国を放っておくわけにはいけません」
「それはドラーグがいるからだろう?」
「付け足すとしたら、ドラーグが大国の上の立場になってしまうからです。もしかしたらこの国を潰すために動くかもしれないからです」
つまりは今までのドラーグの行動がさらに肥大化するというわけだ。
確かにそこまで行くと、ただただ眺めているわけにはいかない。
もはや勝つためには俺が必要なところまで来てしまっている。
「話は大体わかった。だがすぐにはいけるとも言えない」
「出来れば返事は早めでお願いしたいです」
「どれぐらいがいい?」
「叶うなら、今すぐにでも」
アナスタシアは行動力があっていいことだが、ここからは俺次第になる。
昔の俺だったらすぐに向かっていたが、今はピースもいる。
村の人達の安全も確保できない限り下手に動けない。
「ちなみに俺が足を運んでも無理だった場合はどうするんだ?」
「その場合は長い年月をかけてシートラス王国を納得させるまで国を大きくしていきます」
「ふむ……」
答えとしては正しいが、恐らくそれは叶わないだろう。
アナスタシアも重々承知のはずだ。
まず動くにしても必ずどこかで誰かが見ている。
そうなればすぐにでもシートラス王国は動き出すはずだ。
かと言ってそれを勘づかせないように上の者だけで話すと国民が反乱を起こす可能性がある。
本当に詰みかけているのだ。
「嫌なもんだな。かつての仲間が一番の敵になるなんて」
「現実は残酷です。目を逸らすだけでは生きていけません」
「そうだな。確かにそうだ」
俺も一度、それを体験している身だ。
アナスタシアもいろいろと悩んでの答えを出したはず。
「わかった。できる限り早く答えを出す」
「お願いします。いち早くわかるようにこれをどうぞ」
渡されたのは片手で持てる大きさの水晶だった。
これはよく通信機として使われる水晶だ。
「それではお願いしますね。私からの話は以上です」
「ああ。それなら二人のところへ行こうか」
「ええ、そうしましょう」
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