第18話
「久しぶりですね。5年ぶりぐらいですか」
「ああ、それぐらい経っているな」
周りにいた人は道を開けるように避け、その中からこっちへとやってきた。
「仕事で忙しいならわざわざ声をかけなくてもよかったのに」
「いえいえ、元々こうしてアキヒサを呼ぶのも目的の一つでしたので」
「俺を呼ぶことが?」
確かにこうして差別をなくす国が出来たと言われれば俺はやってくるだろう。
その上、建国祭と祭りという行事があればなおさらだ。
でも、そうだとしたらこの人数の中から探すのは不可能なのでは?
「そうだとしたらこの人数の中からどう探すつもりだったんだ?」
「大丈夫です。私だからこそできる探す方法がありますので」
「ふーん…ああ、なるほどね」
宿を探している際、受付は署名を取っていた。
たぶんその中から探すつもりだったんだろう。
残念だがその宿は取れなかったけど。
「これからどこに向かうつもりだったんですか?」
「国の外だよ。宿が埋まっているから野宿しようと考えていたんだ」
「そうでしたか。それと後ろにいるのは……」
「ガガドラとあの時の子供だ。名前はピースという」
「ガガドラにピース、ですね。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
ガガドラはアナスタシアと握手をした。
ピースも、とは考えていたみたいだが寝顔を見るだけ終わった。
「よろしければ私が住んでいる屋敷に泊りませんか?」
「屋敷?城ではなくか?」
「そうですよ。元々屋敷ではなくみんなと同じように一軒家に住むつもりだったんですが、それは流石にやりすぎと言われて屋敷を貰いましたので。部屋がたくさんあまっているんですよ」
俺たちとは違って裕福な暮らしをしているみたいだ。
恨んだり羨ましいとかはないが、元気そうにしているならそれでいい。
「アキヒサならまだしも、俺みたいに初めて会ったやつを泊めるのはどうだろうか?」
「大丈夫ですよ。あの時正しい道を歩き通したアキヒサと一緒にいるんです。それだけで信頼できます」
「ふふっ、随分とお人好しだな」
「ええ、ですが悪いことをしようとするならその時は容赦しませんよ?」
「気を付けることにしよう」
ここは言葉に甘えさせてもらおうかな。
俺とガガドラはいいとして、ピースが寝るならしっかりとした寝る場所で寝かせてあげたいし。
「アナスタシア様」
「大丈夫です。彼らは私の古くからの友達ですので」
「そうですか。それでは後は我々にお任せください」
「お願いしますね。じゃあ行きましょうか」
俺たちはアナスタシアの後をついて行くように歩き始めた。
「それにしても、ソルル王国が潰れて一か月でここまで町ができているのは流石だな」
「元々は民が起こした反撃に私たちが加わっただけですからね。被害は少ないですよ。あるとしたら、私たちがいつの間にか指揮官までになっていたことぐらいですが」
「それが実力なんだろう。さすがだよ」
「ありがとうございます」
俺はリーダー的存在だったが、それは元々俺が勇者だったからだ。
途中参加で一番上にまでいったということはカリスマ性があるのだろう。
さっきアナスタシアの周りにいた人もアナスタシアに対して信頼していたそうだし。
「着きました。ここが私の住んでいる屋敷です」
屋敷というだけあって、確かに大きい家だな。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ただいま。こちらはお客さんですので」
「かしこまりました。お荷物をお持ちします」
「あ、ありがとう」
外には数人のメイドが出迎えてくれ、アナスタシアと俺とガガドラの荷物を持ってくれた。
すごいなあ……。
こういう家に憧れたことはあるけど、実際に住むとなるとメイドがいるだけでソワソワしてしまいそう。
流石元お姫様なだけあって、アナスタシアは平然としている。
「荷物持ちと合わせて部屋をご案内いたします」
「そのことなんだけど、この子と一緒の部屋にしてもらえるかな?」
「かしこまりました。では少し大きめの部屋へとご案内いたします」
「すまないね。じゃあ二人とも、また後でな」
「ああ、また後で」
俺はピースを背負ったまま、ガガドラとアナスタシアと別れた。
案内されたのはベッドが二つある大きめの部屋だった。
少しどころではなかったけど。
なぜ一緒の部屋にしてもらったかと言うと、単純にピースが心配だからだ。
今までのように家ならまだしも、始めて来た場所の上にピースにとっては初めての外泊だからな。
「では何かございましたらお呼びください」
「ありがとうね」
「では、私はこれで」
案内を終えると、メイドは部屋から出ていった。
「パパ……?」
「おっ、やっと起きたか」
「ここはどこ?」
「もうミスティック王国に着いているよ」
「えー!入るところみたかったのにー!!」
「…大声を出すなら降りてからにしてくれ。耳が痛い」
まだおんぶしている状態のため、耳元で大声を出されると鼓膜が破れそうだ。
とりあえず、まずは降ろしてあげないと。
「ここは宿なの?」
「いや、俺の友達の家だよ」
「? パパ友達いたんだねー!」
やめろ、そんな言い方をするなよ。
俺の胸にぐさりと刺さるぞ。
「おいアキヒサ。ピースの声がするが起きたのか?」
「ガガドラか。入っていいぞ」
「失礼するぞ」
「失礼します」
ガガドラと一緒にアナスタシアも入ってきた。
いつの間に仲良くなったのやら。
「実はお茶菓子を用意したのでどうかと思いまして」
「お菓子!?」
「ええ、よかったら皆さんもどうですか?」
「…お姉さんだれ?」
「この人が俺の友達のアナスタシアだよ」
「初めまして。私はアナスタシア・アーク・シュリンピアと言います」
「私はピース!よろしくね!!」
ピースは嬉しそうにアナスタシアに近づいた。
村ではこうしたお姉さんはいないからな。
少し離れてはいるが、それでも村で考えると一番年が近い。
それとお菓子で喜んでいるのは村だと貴重なため。
俺はもちろん好きだし、ピースもガガドラも好きである。
「アキヒサ、さっきのことだけど――」
「ねえねえ、早く食べに行こうよ!」
「えーっと……」
「ピース、アキヒサは用があるから先に俺たちだけで食べに行こう」
「そうなの?早く来ないと全部食べちゃうからね!」
ガガドラは察したのか、ピースを連れてお茶菓子を食べに行ってくれた。
俺も早く食べたいけど、アナスタシアには聞きたいことがある。
「俺を呼ぶのが目的と言っていたが、何が目的なんだ?」
「そう警戒しないで。それと先に聞きたいのだけれど、私以外に誰かと合わなかった?」
「あの面子とか?それならダングリアと会ったが……」
「ダングリアと会ったのね。彼は今どこに?」
「残念だが……」
「…そう。噂は本当だったのね」
どう噂が流れていたかは知らないが、ダングリアはもう亡くなってしまった。
「そんな話なら二人のところに行くぞ」
「待って!話の本題はここからなの。実はお願いがあるのよ」
「お願い?」
「ええ。私と一緒に人間大国、シートラス王国に行って欲しいの」
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