第17話

「パパー!起きてー!!」

「んー……。ピースかぁ……」


 今日は建国祭前日。

 いつもなら俺が先に起きるのに、楽しみな日に限ってピースが先に起きている。

 寝れなかったと言われるよりはまだマシか。


「早く起きてー!」

「わかった、わかったから服を引っ張らないでくれ……」


 寝起きに胸ぐらを掴まれて揺らされるのはけっこうきついぞ。

 小さいときはそんなに力がなかったのに、獣人のおかげなのかはわからないが力が相当強い。

 まだ俺には及ばないけどね。


「早く行こうよ!ねえ早く行こう!!」

「こんなに早く行ってもどうせ向こうで待つんだからさ」


 新しく出来たミスティック王国は歩いても1日かかる。

 今日は建国祭の前日のため、どれだけ早く行っても向こうで暇になる。


「おはよう。ってまだ準備が終わっていないのか?」

「ほらー!」

「ガガドラ…お前まで楽しみにしていたのか……」


 ガガドラは珍しく生き生きとしていた。

 普段ないお祭りで、ましてや毎年あるタイプの祭りではないからうれしいのだろう。

 さっきも言ったが、早く行っても待つだけだぞ。


「まだ朝ごはんすら食べていないんだ」

「俺もまだ食べていないぞ。道中で何か食べようと考えていたんだが」

「それでも何時に着くと思っているんだよ……。何時間余裕持っていく気なんだ?」

「急ぐ分にはいいだろう?」

「急ぐ心意気はいいと思うが、それはやりすぎだな。まあ朝ごはん食っていけよ」


 俺は朝食をつくるために台所へ。

 その間にピースは身支度をし、ガガドラは荷物の確認をしていた。


「そろそろできるから片付けてくれるか?」

「わかった。俺も手伝おう」

「ありがとう」


 ピースはまだ部屋から出てこないんだが、何かあったのか?

 俺が料理している間、一回も出てこないんだが。


「ピース、どうかしたのか?」

「荷物が入らなーい!!」

「…荷物はそんなに持っていけないから、そこにあるバッグに入る分だけにしなさい」

「えええ!!」


 何をしているんだろうと思ったが、ずっと荷物を詰めていたのか。

 その量だと、俺とガガドラでやっと持てるぐらいの量だぞ。

 それに旅に行くわけではないから数日泊る分だけで十分だ。


「ガガドラを見てみろ。あいつも荷物が少ないだろう?」

「俺はこういうことに慣れているからな。初めてだと仕方がないだろう」

「まあそうだが。とりあえず荷物は最小限に!たくさん持っていくと大変なのはピースなんだぞ?」

「はーい……」

「荷物は後にして、今は朝ごはんを食べようか」


 冷めないうちに朝ごはんを食べ、ピースの荷物まとめを手伝った。

 俺はあらかじめ前日に用意してあるため、ピースの手伝いに時間を使える。

 一応昨日のうちに用意しておけと言っていたが、ずっと詰めていたのかな?


 荷物を少なくしただけあって、もう一度詰めるときは時間がかからなかった。

 部屋を出るとガガドラは待ってましたと言わんばかりにソワソワしていた。

 なんだかんだで、一番楽しみにしているのはガガドラなのかもしれない。


「さて、そろそろ行こうか」

「れっつごー!!」

「じゃあ案内は任せたぞ」

「任せておけ」


 案内はガガドラだ。

 行ったことはないらしいが、その付近までは行ったことがあるみたい。


「歩いてほぼ一日はかかるのは前もって言ってあるが、問題は泊る宿だ」

「そうだな。一応想定して、ある程度多く用意してあるとは思うが」

「何が問題なのー?」

「お祭りだからたくさんの人が来るだろう?だから泊れる場所が無くなっちゃうかもしれないんだ」


 そう考えるとたしかに早く出たほうがよかったが、無理なら無理で外で泊まる場所をつくればいいんだ。

 俺とガガドラで泊まれる簡易的な家は魔法でつくれる。

 さほど問題的ではない問題だな。


 そんな話をしながら俺たちは道を歩いていた。

 森の中とは違い、草木がなくて歩きやすい道だ。

 途中で昼飯を食べるために休んだり、道端にある花について教えたり、ただ歩くだけではないちょっとした旅の気分。


「なんかこうして遠出するのも久しぶりだなあ」

「昔はもっと遠出していただろうに」

「そうだな。東に行ったと思ったら西に行って、北にも南にも幅広く行ったなあ」

「そんなに行ったのに、なぜソルル王国を知らなかったのか……」

「仕方ないだろう?ずっと戦い続きだから知らなかったんだ」


 行く場所行く場所で俺たちはずっと戦っていた。

 町に着いたとしても、名前なんて聞かずに次の町へと移動をしていた。


「ん?どうした、ピース?」

「疲れたー!」

「しょうがないなあ、ほれ」

「わーい!!」

「荷物は俺が持ってやろう」


 俺はピースを背負うために中腰になった。

 ピースは嬉しそうに飛び込んできてくれたが、腰に来るからできればゆっくり乗ってほしかったな。


「あとどれぐらいで着きそう?」

「俺たち大人二人で考えると、あと2時間もすれば着くだろう」


 となると、夕方頃か。

 ちょうどいい時間に着けそうでよかった。

 やっぱり俺が考えて時間は正しかったようだな。


「すぅ…すぅ……」

「ありゃりゃ、寝ちゃったようだ」

「仕方あるまい。朝からずっと元気だったのだから」


 確かに朝からずっとテンションが高かったからな。

 疲れていないほうが逆に不思議なレベルだわ。

 ガガドラ、お前もずっと元気だったはずなのになぜ未だに元気なんだろうか不思議だよ。


「がんばっておぶって行くんだな」

「2時間ぐらいなら大丈夫だろうけど、それならしっかりと宿に泊まりたいなあ」

「それは運次第だな」


 部屋が空いててくれー!と思いつつ2時間、一日歩き続けてようやくミスティック王国にたどり着いた。

 外見も中身ももう立派な一つの国だった。

 けっこう歩いたと思うんだが、昔の俺はほぼ毎日こんな風に歩いていたんだよな。

 今の俺だと何バカなことやっているのと思うほど考えられない。


「夕方なのに人が多いな」

「準備とかお客の相手で忙しいんだろう」


 町に入るといろんな人が走り回っていた。

 案内する人もいれば飾り付けをしている人もいる。

 それでも大体終わっているから数十分したら人の数も減るんじゃないかな。


「邪魔にならないように宿を探すか」

「そうだな。さすがの俺も疲れてきたから急ぎ目で頼む」


 俺たちは泊る宿を見つけるために、あちこちの宿を探し回った。

 ピースは相変わらず寝たままだし、段々手がしびれてきたよ。


「申し訳ございません。もうすでに……」

「埋まっちゃってるよなあ……」


 もう何件回ったことやら。

 全部もう埋まっているって、予想以上の人数だったのだろう。

 それほどみんなこの国ができてうれしいんだろうな。

 この国は今までの関係をぶち壊す存在になるかもしれないし。

 もちろんいい意味でのことだが。


「しょうがない。外に仮の家をつくるか」

「やはりもっと早く来るべきだったな」

「いいじゃないか。朝はゆっくりしたいんだから」


 俺たちは再度国から出るために移動を始めた。

 ずっとピースを背負っていたし、ゆっくり休むために宿で泊まりたかったなあ。

 外に向かっている最中、道の真ん中に人溜まりが出来ていたため横を通るように歩いていた。

 ふと人溜まりの中を見ると、一人の女性と目が合った。


「あれ?アキヒサ……?」

「アナスタシア……」


 人溜まりの中にいたのは、元俺の仲間でミスティック王国を建国したアナスタシアだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る