第15話

「見てみて!浮いた浮いた!!」

「俺もようやくできたぞ!」


 あれから4時間ぐらい経ったぐらいだろう。

 俺とピースはようやく手のひらの上にある葉を浮かせることに成功した。


「流石親子、というところだな」

「えへへっ」


 例え血がつながっていなくても俺たちは親子だ。

 俺を見て育ったんだから同じタイミングで成功したのかもしれない。


「次の段階、と言っても最後の段階だが」

「早いなあ……。飛ばしていないのか?」

「飛ばしてなんかいない。次の段階をクリアすれば魔法がある程度使えるようになる」

「ある程度って歯切れが悪いな。まだ何かあるのか?」

「まあ、合ってるには合っている。これを覚えれば、後は使い方次第で変わっていく」


 そうなると、あるものを自在に変形させていく魔法か?


「覚える魔法はこれだ。地面操作グラウンド・オペレーション


 ガガドラが使った魔法は、ダングリアも使っていた魔法だった。

 自分の魔法しか見ていなくて他の魔法をよくは知らないが、この魔法は覚えやすくてよく使われるのか?


「それにしても俺、ダングリアのことを思い出しても落ち込まないってことは、成長でもしたのかな……」

「おいアキヒサ。ボーっとしていたら手本を見せている意味がないぞ」

「ん?ああ、そうだな。悪い悪い」


 ガガドラはやれやれと言い、もう一度同じように手本を見せてくれた。

 魔法は至って単純、大地にある土を動かして変形し、それを攻撃の手段とする。

 これは発想力がそのまま戦闘力になるだろう。


「とまあ、こんな感じだ」

「すごーい!!これだったら熊さん相手でも倒せちゃうかも!」

「あ、あははは……」


 目の間にいるガガドラは熊の獣人だぞ。

 嫌味ではないと思うけど、たしかに熊は危険な動物だからな。

 ピースはもしかしたら天然なのかも知れない。


「そうだな、モノは試しだ。二人ともやってみろ」


 俺とピースは言われるがまま、試しにやってみた。


「なんだこれ……」

「大きすぎて分からなーい!!」


 簡単に説明すると、物体が大きすぎてどこを動かせばいいのかが分からない。

 先ほどのガガドラのように、地面から固めた土を出して攻撃をするように動かそうとした。

 だが浮かばせた葉とは違い、「どこを動かせばいい」というのが分からない。

 正確な位置も分からないため、下手に動かせないのだ。


「どれぐらいか見えたか?」

「見えたー!でも全然出来なさそうだよ?」

「そうだろうな。だからやることは2つ。まずはどこを動かせばいいのかを理解すること。もう1つはこれを持て」

「ただの……」

「大きめの岩だな」


 渡されたのは両手で持てるぐらいの岩。

 重すぎず、軽すぎない岩、それ以上は何も特徴がない。

 もちろんピースの岩はピースサイズで小さめになっている。


「これは地面操作グラウンド・オペレーションの練習用だ。地面と違って動かせる場所がすぐに分かるからな」

「それなら一緒にやってひたすら練習したほうがいいんじゃないのか?」

「アキヒサのことだからそのうちムキになって魔法を使いかねない。下手すると、この村が潰れてしまう可能性があるからな」

「…………そんなことないぞ?」

「その間が答えを言っている」


 ガガドラは飽きれたかのように吐き捨てた。

 自分でもわかるほど短気な部分はあるにはある。

 本当にこのメニュー1日で考えたのか?

 俺の性格まで考慮されているのって相当指導者に向いていると思う。


地面操作グラウンド・オペレーションを使うために大切なことは2つ。『場所』と『変形』だ。場所は地面に手をつき、どこを動かせばいいのかを確認すること。変形は今持っている岩でやってみることだ」

「変形させるのは何でもいいのか?」

「最初は何でもいい。徐々に繊細な作業が必要なものをつくってみるとさらに向上するだろう」

「例えばどんなつくればいいのー?」

「互いの顔をつくってみたらどうだ?もしくは体も全部入れてみるとか」


 要するに岩のフィギュアをつくってみればいいってことか。

 まとめると、やることは2つ。

 場所の確認と変形させるやり方を覚えること。

 変形のほうは、最初は簡単なもとからつくっていき、とりあえず最終目標はピースの姿をつくるってことにしておこう。


「岩が割れたら俺がつくるからいくらでも言ってくれ」

「よし!さっそくやるぞ!」

「おー!!」


 俺とピースは変形させるために岩を持った。


 それからまた数時間、岩を持っては変形に失敗して新しい岩を貰っていた。

 意外に難しく、俺とピースは手こずっていた。


「いたっ!」

「どうした、ピース?」

「手にケガをしちゃってた……」


 ピースの手を見てみると、手には切り傷があって血が出ていた。


「よし、いいタイミングだな」

「ガガドラ、てめえ……。ピースにケガをさせるとはいい度胸じゃねぇか」

「待て待て!最初の説明でケガはするだろうと言っていたはずだ!」

「それだったら俺がいくらでもケガをすればいいじゃないか!」

「それだと自分自身を治す方法が覚えられないだろうが!この親ばか野郎!!」


 ガガドラは俺に一発どつくと、ナイフを取り出した。

 まさかこいつ、親ばかの俺に止めを?

 と思ったが、自分の手を軽く斬った。


「ピースと同じく俺もケガをした。今から覚えるのは回復の魔法だ」


 たしか土の魔法でケガを負ったらそれを使って回復の魔法の練習だったな。

 効率はいいが、これだと休む機会がほとんどないぞ。


「よく見ていろよ。回復ヒール


 ケガはみるみるうちに塞がれて、斬ったキズは跡形もなく消えていった。


「こんな風に治すことができる。コツはというと、ケガは崩れた積木と考え、回復ヒールは崩れた積木を積み上げるイメージだ」

「やってみる!回復ヒール!!」

「急がずにゆっくりな。下手に焦るとケガは悪化する」

「急がずに…ゆっくり……」


 時間はかかったものの、少しずつ少しずつピースのケガは防がせていった。


「慣れてきたら速度を上げてみるといい。それもある程度できるようになったら、相手のケガを治す方をやってみよう」

「はーい!」

「わかった」


 そもそもこれってケガをしないと練習すらできないよな。

 ある程度鍛えてあるから、下手をしたらケガすらしないんじゃないのか?


「出来ればこの魔法はアキヒサに覚えてほしくないと思ったんだがな」

「なぜだ?」

「例えば目の前に自分より強いがギリギリ倒せる敵がいるとしよう」

「ああ」

「長い間戦ってようやくケガを負わせられた!と思ったとき、相手が回復したらどう思う?」

「絶望的だな」

「だろう?だから教えるべきではないと思ったんだ」


 ああ、そういう事か。


「残念だが、戦闘モードになったら回復機能はあるぞ」

「…それなら覚える必要がなさそうだな」

「いやいや、相手を治す方法が分からないから覚えるよ」


 ガガドラは一瞬、俺を理不尽のように見ていた。

 この魔法は、戦闘モードではないときに使えそうだからしっかり覚えておこう。

 何よりピースがケガをしたときに治してあげられるからな。


 あっ、ピースも一緒に覚えるなら意味ないじゃん。

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