第13話

 俺はガガリアとの相談を終え、ピースがいるボルスの畑までやってきた。


「ボルスー、ピースはどこにいるんだー?」

「アキヒサくんか。ピースちゃんなら向こうでお芋を見ているよ」

「おっけー、わかったー!」


 またお芋のお世話か。

 好きなのはわかるけど、まさか世話をするほど好きになっていたとはな。

 また今日も大好物のお芋で料理を作ってあげようかな?


「ピース、お待たせ」

「パパー!」

「おっとっと。飛び込んでくるのはいいけど、危ないよ」

「はーい!」


 本当に分かっているのかなあ。

 実はこれ、何回かやっていることなんだ。

 嬉しいからそのたびに少し注意するだけになってしまっている。


「それでどこまで進んだんだ?」

「まだ雑草抜きの途中だよー」

「よし、じゃあ一緒にやろうか!」

「はーい!」


 俺たちはいつも通りに農作業を始めた。

 雑草を抜くとき、中腰になるからけっこう腰に来ちゃうんだよなあ。


「なあ、ピース」

「んー?」

「魔法が覚えられるとしたら、どういう魔法を覚えたい?」

「そうだなあ……」


 ピースは一旦手を止めて考え始めた。


「あっ!雑草を簡単に抜ける魔法!」

「…お、おう」


 予想外の答えだった。

 なんかこう、火とか水とかの魔法を答えると思っていた。


「他には?」

「お芋が早く大きくなる魔法とか!」

「えっと、お芋関係以外だと?」

「うーん、パパの腰を治してあげる魔法!」


 何ていい子なんだろうか。

 こんなにもいい子に育ってパパはうれしいよ……!

 でもいつ腰が痛いって話聞いたの?


「…なるほど、それもいいかもしれないな」

「パパの腰を治せる魔法を覚えられるの!?」

「いや、残念だけどそれじゃない他の魔法なら覚えられるよ」


 今までに雑草をとったりお芋の育つ早さを早める魔法は見たことが無い。

 腰を治す魔法ならまだ近い魔法はあると思うけど、それなら普通に回復魔法を覚えた方がいい。


「覚えられる魔法は限られるけど、それでも覚えてみたいか?」

「覚えてみたい!」


 今更だけど、もしこれで嫌だと言われたらどうしたらよかったんだろう。

 無理して覚えらせるのも嫌だしなあ。

 断られなくてよかったよ……。


「いつから覚えられるの?」

「俺もまだ分からないんだ」

「? パパが教えてくれるんじゃないの?」

「残念だけど、教えてくれるのはガガドラだ」


 残念とか言ったらガガドラに失礼だな。

 すまん、ガガドラ。

 聞こえていないだろうけど許してくれ。


「じゃあパパと一緒じゃないの?」

「俺も一緒に教わるつもりだから、一緒に頑張ろうな」

「うん!!」

「あとはガガドラの準備次第だ。ゆっくり待ってあげよう。俺の話は終わりだ。続きを早くやっちゃおうか」

「はーい!」


 今日は一日中、いつも通りに農作業の手伝いをした。

 芋だけだと時間が余ったため、他の場所も手伝った。


 もしかしたら酒の誘いが来るかと思ったが、残念なことに今日はなし。

 どっちにしろ、今日はピースの好物をつくる予定だったからあまり飲めなかっただろうけど。

 でもやっぱりたまには飲みたいなあ。


 家に帰り、俺は食材の確認をした。

 ピースはまた、今日も大きなお芋を貰っている。

 よくこれだけ食べても飽きないよなあ。


「夕飯をつくろうと思たんだが……」

「?」


 今日はいつもより汚れてしまっている。

 このまま作るのは流石によくないな。


「先にお風呂に入っちゃおうか」

「うげー」

「うげーとか言わないの!ほら、先に入ってきな」


 俺よりピースのほうが汚れは多い。

 先に入ってもらってから俺が入ろうと思った。


「じゃあパパも入ろうよ!」

「一緒にってことか?」

「うん!」


 ピースはもう5歳の女の子になっている。

 一緒に入るような年でもないと思うが。


 だけど流石俺、娘に甘いので結局一緒に入りました。


「髪の毛伸びてきたなあ」

「でももうちょっと伸ばしたーい」

「別に構わないけど、邪魔にならないか?」

「大丈夫だよー!」


 髪の毛が長いと面倒くさそうだけど、まあそうしたいのならそうさせてあげよう。

 切りたくなったら自分から言うだろうし。


「ほら、流すから目を閉じてろよー」


 入浴後、髪の毛を拭いてあげるもなかなか乾かない。

 これから一緒に入るときは大変になるなあ。


「さて、綺麗になったことだし夕飯をつくるか」

「手伝うー!」


 俺が料理していない間、ピースはガガドラから少しずつ料理を教わっていた。

 今では5歳とは思えないほど料理ができている。


「じゃあ頼んじゃおうかな」

「今日は何をつくるの?」

「今日はピースの大好きなお芋とお肉の煮込み料理だよ」

「やったー!!」


 毎度、というよりほぼ毎日お芋という名前が出ると喜んでいる。

 これだけ喜んでくれるとつくり甲斐があるよなあ。


 調理をし、煮込んで少したってから夕飯となった。

 その後は少しダラダラとして早めの就寝。

 明日の手伝いに備えて早く寝ることにした。


 翌朝、ガガドラの準備が終わったのか分からないが、聞きに行ったら急かしているような感じがするから大人しく待っていることにした。

 ガガドラはまだのようだし、今日もまたボルスの手伝いだ。


 朝ごはんを食べて準備終え、家から出ようとした時だった。

 家のドアが開いた。


「おはよう二人とも」

「ガガドラじゃないか。残念だけど、朝ごはんはもうないよ」

「わざわざ貰いには来ないだろう。それに食べるときはしっかり前日に言っている」

「冗談冗談。それで用があってきたんだと思うんだが、まさか?」

「ああ。ある程度決まったから今日からでも始められるぞ」

「おお……!」


 頼んだ日の翌日、ガガドラはさっそく魔法を使うための練習メニューをつくっていた。

 流石村長だな、仕事も早ければその質もよさそうだ。


「それでどうする?今日から始めるか?」

「出来ればそうしたいな。ちょっとボルスに言ってくる」


 俺は走ってボルスのところへ向かった。

 訳を話すと、何も詮索することなくいいよと言ってくれた。


 よし、早く家に帰って魔法を覚えたい。

 俺はまた走って家へと戻っていった。


「ただいま!」

「おかえりー!」

「早いな。それで何て言っていた?」

「いいよ、だってさ」

「よし、それならさっそく今日から始めるぞ!」

「「おー!!」」


 勇者と5歳の子供の新しい魔法教室が始まった。

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