第12話

 あの事件から数日が経った。


 俺はあの時、村の全員に迷惑をかけてしまった。

 謝罪を込めて毎日雑用のように働く、と言ったが断わられた。

 『助け合うのが当たり前。気にするな!』とみんな俺を励ますように答えてた。


 そして今、新しい朝がやってきた。


「ピースー!ごはんだぞー!」

「はーい!」


 いつも通りに朝ごはんをつくる。

 日常に戻ってきた感じがするなあ。


 やっと戻ってきた日常、そんな俺にはあることを決意していた。


「今日はどこのお手伝い?」

「またボルスの手伝いなんだが、ちょっとガガドラに用があってな。先に行って欲しいんだ」

「用?すぐ終わるなら待っているけど……」

「少し長引くかもしれないから大丈夫だよ」


 話というよりほぼ相談だ。

 そして、ピースがいたら話しにくい内容でもある。


「ごちそうさまー!じゃあ先に行っているねー!」

「ああ、気を付けてな!」


 ピースは駆け足で向かった。


 俺は朝ごはんの片づけをしてからガガドラの家へと向かう。

 あらかじめ言っておいたため、ガガドラは家に残っていてくれた。


「それで話とはなんだ?」

「話、というより相談なんだが」


 いつもの世間話とは違い、空気が違う。

 それほど真剣な話なんだ。


「実はな……」

「ああ」

「ピースが、最近ますます可愛くなってきたんだ」

「………」


 ガガドラは無言のまま、俺をにらんできた。

 『こいつ、こんなことを言うために呼び止めたのか?』というような目で。


「ふざけているなら俺は――」

「可愛いから!誰かに狙われないように魔法を教えようと思うんだ」

「…ほう?」


 席を立とうとしたガガドラは止まり、また席へと着いた。


「可愛いくて、誰かにさらわれたりしないように魔法を?」

「そうなんだ。俺が一分一秒ずっと一緒にいるわけではない。もしもの為にな」

「ふむ……」


 ガガドラも少し考えていた。


 この村では戦闘ができる者は少ない。

 まともに戦えるとしたら俺とガガドラだけだ。


 もしこの2人がいない間に村が襲われたら一瞬で滅んでしまうだろう。

 だからこうして襲われないように村が森の中にあるのだ。


「正直に言ったらどうだ?あいつらがまた襲ってきた時の為、と」

「…ああ、そうだな」


 あれから仮面の奴らは一切見なくなった。

 どこかの町で活動をしているのか情報を集めるものの、情報はなし。


 何か少しでも手がかりになればとアングリーと戦った場所にも足を運んだ。

 だが、そこにはアングリーの死体も戦った痕跡もなかった。


 ガガドラ曰く、俺が倒していた悪魔と同様に消されたんだろうとのこと。

 そして、俺が毎晩倒していたような悪魔は姿を現すことはなくなった。


「そういうことなら構わないが、なぜ俺に?」

「実は俺、魔法を教えられないんだ」

「……は?」


 ガガドラは今までで一番と言っていい驚き顔を見せた。


「いやいや、お前ほど魔法を使えるやつはこの村にいないぞ」

「確かに戦闘能力だったら誰にも負ける気がしない。だけど、それでも無理なんだ」

「なぜだ?教えることができない禁術ではあるまい?」

「説明するとだな――」


 俺が使う魔法はスキル『勇者』から使っている。

 今は『覚醒勇者』となり、使える魔法は勇者に比べて多くなった。


 だが、その魔法は全てスキルから使われている。


 本来、魔法は自分の中か自然の魔力を使って魔法が使われる。

 それに対し、俺はスキルを通してから魔法を使う。

 もちろん、自然の魔力は一旦体内に入ってからスキルを通り、変換される。


 要するに、俺が使う魔法を覚えるためにはスキル『勇者』が必要となるのだ。

 だから普通の人に教えることはできない。


「一応、俺も勇者なんだがな」

「でもスキルとしてはないだろう?」

「…よく知っているな」

「勇者についてはある程度調べたからな」


 『勇者』はこの世界に一人しか存在しない。

 また、『魔王』も一人しかいない。

 まるでゲームの駒かのようになっている。


「それに理由はもう一つあるんだ」

「まだあるのか……」

「ああ、それは俺も覚えたいからだ」

「…なるほど」


 ガガドラはすぐに理解した。

 本当に良く知っているなあ。


 覚えようと思った理由は攻撃手段を増やすため。

 勇者はこの世に存在し続けるため、ある程度使える魔法が割られている。

 そうなると、全部対策をされてしまったらほぼ詰み状態。

 少しだけでも相手を狼狽させるための魔法を覚えたかった。


「でも話に聞いた覚醒勇者があるだろう?それはまだ――」

「実は、大昔の書物には残っていたんだ」

「なんだとっ!?」


 まさか俺がなれるとは思わなかったから記憶から消えかけていた。

 昔は今の何倍も荒れていて、覚醒しない限りとても魔王にかなわなかった。

 だが今は積み重ねが溜まっていき、覚醒をしなくても倒すことができた。

 今と言っても、500年以内の話になるけど。


「もしかしたら、俺に悪魔をよこしてきたのは覚醒勇者になったのか確認をするためによこしたのかもしれない」

「なるほど。そうなると相手は覚醒勇者のことを知っているということだな」

「ああ。それも確認できるほど詳しいぐらいに」


 そうなると、公になっている魔法を使っても効かないだろう。

 それならいっそ、勇者が使うことがなさそうな魔法を使えたらいいなあと思ったのだ。


「しっかりと考えているなら、まあいいだろう。でもあんな言い方をされたら普通断るぞ」

「いやー、堅苦しい話は嫌だなあって思ってな」

「…それもほどほどにな。それでいつから教えればいい?」

「今日から」

「…は?」

「だから今日からだって」


 何を言っているのか分からないって言ってそうだな、この顔。


「俺にも準備をする時間をくれ。人に教えたことが無いんだ」

「うーん、そういう事なら仕方がない。できるようになったらすぐに声をかけてくれ」

「わかった。なるべく早く用意しよう」

「じゃあ話は終わりだ。俺はピースと一緒にボルスの手伝いをしているよ」

「がんばれよ」


 話し合いが終わり、俺はピースがいるところへ向かった。


「まったく、あいつは急すぎる。いいところであり、悪いところでもあるな」


 ガガドラは一人、部屋でぼやいていた。

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