第11話
「何で悪魔を……?」
「? 悪魔は敵だろう?近くにいるのが分かったから」
アキヒサのスキル『覚醒勇者』の影響だ。
敵と認識している悪魔が近くにいる場合、居場所が分かってしまう。
「だが――」
「だが?ガガドラも悪魔を憎んでいるだろう?」
「っ!?」
確かにガガドラにとって悪魔は自分の国を破滅へと導いた宿敵である。
憎まないほうが難しいだろう。
「………」
「待て!どこに行く気だ!」
「…墓参りだ」
この夜中にか?
わざわざこんな夜中に行く必要があるのだろうか?
そもそも誰の…いや、恐らくダングリアのだろう。
「俺もついて行っていいか?」
「…好きにすればいい」
ガガドラは灯りを持ち、二人は森の中へと進んだ。
中へと進むことおよそ30分。
深いところまで進むと、森の中に普通はあるはずがない人工物があった。
「ダングリア、今日も倒したよ」
アキヒサはそう言うと、墓の前に角を置いた。
すでに角はたくさんあり、数はもう二桁を越えている。
「今まで森の中にいた悪魔の死体はアキヒサがやったのか?」
「そうだが?」
「死体を消したのもか?」
「……?俺はそのまま放っておいたぞ」
アキヒサが消したのではないのか?
なら一体誰が……。
それに、消したやつはアキヒサが悪魔を殺していたことを知っている。
村の人か?いや、そんなはずはない。
ここ毎日殺しているとしたら、みんなそれぞれガガドラと一緒にいたため違うはず。
なら第三者がわざわざこんな森の中に来て、死体を消すために来ているのか?
目的も理由も何一つ分からない。
「俺も手を合わせていいか?」
「………」
「ありがとう」
アキヒサは少し迷ったが、静かに場所を譲った。
ガガドラはダングリアの墓の前で手を合わせた。
出来ることなら生きている間に会いたかった。
そして、アキヒサたちと共に世界を変えていきたかった。
そんな思いを込めて供養していた。
「そろそろ帰ろう。朝日が昇ってくる」
「ああ」
結局、ガガドラはアキヒサを止めることができなかった。
自分のどこかでまだ悪魔を憎んでいる。
そもそも、元凶の一味である悪魔がいて平和と言えるのだろうか?
時にはそんなことまで考えていた。
いや、魔王亡き今なら共存できるかもしれない。
だがそれは不可能に近いだろう。
ただでさえ人間と獣人の間ですら進歩がないのだから。
だからと言ってアキヒサを野放しにしておくことができなかった。
このままでは人間ではなくなる、そんな感じがしたのだ。
翌日、今日も悪魔を倒しに行くと思い、アキヒサを見張っていたが家から出ることはなかった。
たまたまいなかったのだろう、そう思い次の日も待った。
それでもアキヒサは家を出ることはなかった。
もしかして知らないところで出ているのではないか?と思い、墓へ向かったがあの時以来、角の数が増えていなかった。
まさか、俺が気づいたから悪魔が出ることが無くなった?
もしくは必要がなくなった?
どちらにせよ、そうなると誰かがわざわざこの森に悪魔をよこしたことになる。
なぜ、そんなことをするのだ?
アキヒサを、勇者を壊すため?
そうだとすると、相手はアキヒサを憎んでいる相手になるだろう。
相手はおおよそ予想がつく。
あのお面の集団だろう。
何よりあの勇者のパーティであるダングリアを捉えたのだ。
悪魔を動かすこともできるだろう。
少なからずも、相手は集団でそれほどの戦闘力を有する。
アキヒサを一人でいさせると危険に違いない。
どちらにしろ、アキヒサには以前のアキヒサに戻ってもらわないとピースや村の人達も困る。
この状態が続くと相手の思うつぼだ。
アキヒサを戻すために三日間。
ガガドラはどうにかして戻す方法を探し回った。
そしてある晴れた日。
ガガドラはピースを連れてアキヒサの部屋へやってきた。
「アキヒサ、たまには一緒に釣りでも行かないか?」
「…遠慮しておくよ」
「ほら、ピースも一緒に行くんだぞ」
「………」
「ピースも一緒に行きたいだろう?」
「うん!パパ、一緒に行こうよ!!」
アキヒサは困った顔をしていたが、折れたのかゆっくりと立ち上がった。
「わかった。だけど少しだけだぞ」
ダングリアが亡くなって以来、こうした外出は久しぶりだ。
これだけでも大きい一歩なんだろう。
だがこれだけではない。
今日はしっかりと用意してある。
「それでどこで釣るんだ?」
「近くの湖だ。遠くないからちょうどいいだろう?」
「…そうだな。着替えるからリビングで待っていてくれ」
「ああ、アキヒサの準備次第ですぐにいけるが、急がなくてもいいぞ」
ガガドラとピースは部屋から出た。
数分後、アキヒサはしっかりと部屋から出てきた。
「それじゃあ行こうか」
「パパー!」
「どうした?」
「手、繋ごう?」
「…ほら。勝手に何処かに行くなよ」
「うん!」
悪魔が現れなくなった時以来、少しずつ心を開き始めていた。
それでもまだ殻に籠ったまま、自らは出ようとしてくれなかった。
だけど、こうしてピースと一緒に手をつないでいるところまで回復している。
あと一つ、何かの衝撃があれば殻は破れるだろう。
それを割るのは今日、ガガドラはそう決めていた。
「っと、すまない。肝心な餌を家に忘れてしまった」
「なら日を改めるか?」
「いや、俺が取ってくる。その間、これをピースに読んであげてくれ」
「これを?」
いかにも普通の一般人が描いたような紙をかき集めたような絵本だった。
表紙しかまだ見ていないが、何も描かれていなくて内容が全く分からない。
「それならピースに渡せば――」
「アキヒサが読んでやってくれ。頼む」
「……?」
アキヒサは理解できなかった。
絵本ぐらいならピースはもう一人で読める。
それなのにわざわざ俺が必要なのか?そう言っている目をしていた。
「わかった。読めばいいんだろう」
「ああ…!じゃあ取ってくるから、しっかりと頼むぞ!」
ガガドラは嬉しそうに家へと戻っていった。
「ピース」
「なにー?」
「ガガドラが忘れ物を取りに行っている間、これを読ませてあげろってさ」
「見たーい!」
アキヒサは岩の上で
ピースにとって読みやすく、アキヒサも読み上げやすかった。
まずは1ページ、本をめくった時、アキヒサは顔を引きつった。
そこには絵本のタイトルが書かれていたのだ。
「勇者の冒険、だって!」
「あ、ああ。そうだな」
ガガリアは嫌味で渡してきたのか?
でも一度は読んであげると言ってしまった。
渋々だが、アキヒサは読み始めた。
「勇者の冒険――」
あるところに勇者と仲間がいました。
勇者一行は、勇敢にも人々を苦しめている魔王を倒しに旅に出ました。
旅は厳しく、行くところ行くところは困難ばかり。
誰もがくじけるところを勇者たちはくじけずに歩き進みました。
そしてとうとう、念願の魔王を倒しました。
「勇者って強いんだね!」
「そうだな……。でも展開が早いな」
今後の未来は明るい、そう思った時です。
勇者は一人の獣人を拾いました。
その時、人と獣人の仲はよくありません。
勇者の仲間たちは獣人を拾ったことを許しませんでした。
「何で許さないの?」
「人間と獣人は訳があって仲が悪いんだよ」
「今も?」
「今もだよ。だけど俺たちがいる村みたいに気にしない人たちもいるんだけどね」
そして悲しいことに、勇者たちはバラバラになってしまったのです。
中でも一番悲しかったのは勇者でした。
勇者は誰よりも仲間思いで平和を望んでいました。
その後、勇者は裏切り者とされ、消えてしまったのです。
「………」
バラバラになった勇者の仲間も平和のためにいろんなことをしました。
ですが、何も平和へとつながることはなかったのです。
そんな時でした。
勇者と拾われた獣人がやってきたのです。
それも、たくさんの人と獣人と一緒に。
そして勇者たちは言いました。
「平和のために我々は我々の国をつくる。平和を望むのなら条約を結ぶ」と勇者は宣言しました。
その時は誰も見向きもしませんでした。
それでも勇者たちは、危険はないと証明しつつ、農業や工業、商業にも力を入れていました。
やがて、勇者がつくった国は世界の中心と言えるほどの国へと成長しました。
他の国は条約を結ばざるを得ませんでした。
ですが、その国々は間違いではないと気づかされたのです。
それは本当に平和そのものと言えるほどの国でした。
人も獣人も関係なく手を取り合い、犯罪一つない夢の国へと成長をしていたのです。
そして勇者たちの国をみた他の国は見習い始めました。
勇者たちの仲間は勇者に会いたいと言いました。
そして会ったとき、仲間たちは深く謝罪をしました。
普通なら許せない、そんな気持ちのはずの勇者でしたが、「分かってくれたならそれでいい。これからは手を組みあおう」と言ったのです。
そして、平和の国はさらに広がっていきました。
まだ分からない未来。
皆が皆手を取り合い、どの国も平和になるでしょう。
「まだ見ぬ明るい未来へ。ダングリア」
絵本はダングリアが描いたものだった。
絵なんて描かないやつだったが、それでも頑張って描いたんだろう。
話も絵もぐちゃぐちゃではないか。
「なんだよ……。あいつも最初から分かっていたんじゃないか……」
「パパ……?」
「ごめん、ごめんね」
アキヒサの目から涙が流れていた。
「もっと違う形で再開したかったよ……。なんでだよ……」
泣き始めたアキヒサをピースは優しく抱いた。
「パパ、大丈夫だよ」
「ピース……」
「まだ私には何かは分からないけど、私はパパについて行くから。絶対に離れたりしないから」
俺は一体、今まで何をしていたんだろう?
平和のために動くんじゃなかったのか?
ピースを守っていくんじゃなかったのか?
何一つ、何一つもできていないじゃないか。
「ごめんね、ピース」
「ううん。大丈夫だよ」
こんな小さな子供になんて辛い思いをさせているんだよ。
俺はもう、大人だろう?
ダングリアは死んでしまった。
一度裏切られても、それでも大切な仲間なんだ。
目の前で死んだとき、気持ちの整理ができなくなっていた。
だけど、いつまでも立ち止まってはいられない。
俺はまだ何もしていない、何も始めてはいないんだ。
ダングリアが望んだ世界。
俺たちで実現してやろうじゃないか!
「心配かけさせてごめんな」
「パパっ……!!」
「っと、あぶないだろう?」
「おかえり…パパっ!!」
今度はピースが泣いていた。
俺は泣いているピースをずっと撫でていた。
「ったく。世話をかけさせやがるな」
湖の近くの木にガガドラは隠れるように見ていた。
そんなガガドラの手は焦げたような跡が残っていた。
「あんなものを渡しても、ダングリアが喜ぶわけがないだろう」
ダングリアの墓。
そこには悪魔の角は一本もなかった。
そこには虹色の綺麗な花が一本、置かれていた。
*
「勇者復活しちゃったみたいだよ、ボス」
「知っている。そもそもそういう作戦だ」
「えー!私たちあんなに頑張ったのにー?」
「ジョイ、煩いぞ」
「アンティシペーションは黙っててよ!私たちのほうが大変だったんだよ!」
ある会議室。
みんなお面を被っているという奇妙な会議が行われていた。
「でもなんでなのー?ボスー」
「…絶望から這い上がると勇者は大きく成長をする」
「だからアングリーを?」
「あいつはいい材料だった」
ボスと言われるその一言に、誰も同様をしなかった。
「それで枠は埋めるんですか?」
「いや、今は埋めなくていい」
「今は、ということは候補が?」
「その通りだ。こいつは使えるだろう」
ボスは一枚の紙を見ていた。
そこには一人の姿が写っている。
「君なら適任だろう。ドラーグ」
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1日3話投稿は今日までです。
後は1日1話か2、3日に1話を目安に書いていきます。
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