第3話
「まずは医者に診せよう」
「この村に医者がいるのか?」
「ああ。人間と獣人、両方のな」
こんな森の中にも医者がいるとは。
すごい村だな。
「グラドリア!アメル!いるか!」
「はいはい、いますよいますよ」
「もう、ドアはゆっくり開けてくださいよ!」
中には中年の男と兎の獣人の女性がいた。
「人間の医者のグラドリア・ユーズに獣人の医者のアメルだ」
「よろしく――って言っている状態じゃないよそのケガ!」
「そうだね。とりあえず、君は私が見るよ」
「じゃあ私はこっちの赤ちゃんね」
「あー!」
「よちよち、いい子ねー」
ピースはアメルに渡ると奥の部屋へと連れて行かれた。
「安心しろ。医学を少しかじった俺でも分かるが、赤子は元気だ。ケガ一つない」
「うん、あの雨の中にいたとは思えないぐらいだったよ」
よかった。本当に良かった。
身を挺して守った甲斐があったよ。
「それはいいとして、君はまず自分の心配をしなさい」
「そこまでひどいのか?」
「ひどいってものじゃない。気づかなかったのかい?」
「感覚がほぼ無いということぐらいしか分からないが」
「……はぁ」
グラドリアは飽きれたように、大きくため息をついた。
「君のケガは重傷だ、それも末期レベルに。この森に生えているヨミノグサのせいだろう」
ヨミノグサは茅の葉のように、よく切れる葉っぱの形をしている。
そして嫌なことに、この葉には毒がある。
毒があると言っても、微量なら害がでるほどにはならない。
除草作業で手を切ってしまっても、放っておいても大丈夫なレベルだ。
ただ俺の場合のように、短い時間の間にたくさん切ってしまうと害が生じる。
その毒が力を発揮すると、体の一部が壊死するほどの毒になる。
そしてその毒は徐々に体を回っていき、下手をすると死んでしまう。
俺の足が動かなかったのはそのせいだった。
「だから今から手術をしても二度と足が動かないかもしれないよ」
これが現実だ。
助かったと思っても、全部が全部無事とは限らない。
「助かる方法はないんですか?」
「もちろんある。だが
「そんな……。無理じゃないか……」
聖草は薬草に使われることが多く、効果は絶大であり、毒を浄化する薬草だ。
それだけあって市場で見かけることが少なく、あったとしても高値で売られている。
所持金で買えなくはないが、そもそも出回っていない。
お金があっても手に入らない貴重な薬草なんだ。
「村長、この人に使ってもいいですか?」
「ああ、俺は構わない」
「あるのか……?」
「あるよ。一つだけだけど」
貴重な薬草、それもたった一つだけ。
「いきなり来た俺に、そんなに貴重な薬草を使うのは……」
「何を言っているんだい!薬草はこういう時のためにあるんだ。こんなところで死んでいいわけないだろう!」
「そうだぞ。今は自分のことだけを考えろ。お前は死んではならない人間だ。それを一番望むのは俺たちではない、あの子なんだぞ」
頭の中にピースの顔が思い浮かぶ。
俺はピースと一緒にいたい。あの子が成長をしていく姿を見ていきたい。
こんなところで死にたくない……!
「その薬草、使わせていただけませんか?」
「ああ、もちろんだ」
さっそく俺の薬草づくりを始めた。
聖草は基本飲み薬になる。
ポーションと似ていて、効果はすぐに表れる。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます」
薬を渡され、俺は一滴残らずしっかりと飲み干した。
味はなく、美味しくも無ければ苦くもない。
ただ水を飲まされているようにしか感じない。
それでも効果はある。
さっきまで何もいう事を聞かなかった足が動くのがすぐに分かったのだ。
その上、体中にあったかすり傷まで治っている。
「よし、これで大丈夫だろう」
「すまない、貴重な薬草を使わせて」
「大丈夫だよ、ガガドラさん。こうして命が助かるなら安いものだよ」
「本当に、ありがとうございます」
「どういたしまして。だけどもうこんな無茶はしてはいけないよ?気持ちは分かるけどさ」
「ああ、気を付けるよ」
俺は頭を下げてしっかりとお礼をした。
この御恩は一生忘れないだろう。
「そうだ、ピースは?」
「大丈夫だよー。ほら、ごはんを食べたらぐっすり寝たわ」
奥の部屋からピースを抱えたアメルが戻ってきた。
「えーっと、その…ありがとう」
「何か勘違いしているみたいだけど、この子はもう食事ができるわよ」
「もう?まだ赤ちゃんだけど」
「砕けばだいたい食べれるわ。ふかした芋を潰したものをゆっくり食べさせてあげれば大丈夫よ」
人間とは違って歯の成長が違う。
寝ている口を少し見てみると、確かに歯はもう生え始めていた。
「びっくりだな。人間とは全然違う」
「ねえ、本当にその子を育てる気なの?」
「もちろんだ。この子は今の俺にとって生きる希望でもあるんだから」
「そう、ならこれを貸してあげるわ」
アメルから一冊の本を渡された。
表紙がなくて何の本か分からない。
片手にはピースを抱えているため、本の中身を見たくても見れなかった。
「これは?」
「それは獣人の教育の本。必要でしょう?」
「ああ……!助かるよ!」
「しっかりやるのよ」
右も左も分からない俺にはとてもありがたい本だ。
そもそも子育て自体したことがない。
出来るか少し不安だが、そういう時は相談に乗ってもらおう。
「よし、後は住むための家だな」
「本当にいいのか?俺なんかが――」
「俺なんか、なんてこの村に必要ないよ!」
「そうですとも。この村は全員平等、人間獣人なんて関係ありません」
「その通りだ。アキヒサが実は反獣人活動していた、なんて言い出したらどうなるかは分からないがな」
「ははっ、それは大丈夫だ。そんなことは絶対にしない」
「ならついてこい。少し離れているが、家が一軒余っている」
ガガドラは俺に大きめの雨よけの服を渡した。
この大きさならピースも濡れることなく移動できる。
向かった先は村の少し外れ。
湖の近くにある綺麗なログハウス。
確かにみんなとは離れているものの、悪い家どころか良い家だ。
「一応家具はそろっているが、必要なものがあったら声をかけてくれ。ある程度の家具ならすぐ作れるが、薬になると買いに行かないといけない。そういう場合は時間がかかるからそれを考慮して声をかけてくれ」
「わかった。何から何までありがとう」
「これからよろしくな。アキヒサ」
「よろしく、ガガドラ」
こうして俺の新しい居場所ができた。
それからというもの、子育てをしつつ村の人の仕事を手伝って生活をした。
時にはピースを預けて狩りに行ったり、姿を隠して町に買い物へ行ったりもした。
中でも一番大変だったのはやはり子育て。
獣人だろうが夜泣きはするし、おむつを変えたりする。
大変の一言で終わらせることができない、本当にそんな生活だった。
そしてそれから5年の月日が経った今。
ピースは見違えるほど大きく、そして可愛らしく成長した。
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