第4話
「さあできたぞ!」
「わーい!!」
子育てを始めてから料理がだいぶ上達した。
元々お湯を入れて3分の幻の料理しかできなかった俺だが、こうしたちゃんとした料理ができるとは思いもしなかった。
こっちに来てからも、大体は食堂生活。
まず料理はしないし、あったとしても味付けをして焼くだけ。
切ったり煮込んだり炒めたりは一切しなかった。
「美味しいー!!」
「そうかそうか、それはよかった」
「パパはまだ食べないの?」
「んー?今とっておきの料理をつくっているから気にせず食べててくれ」
俺はまだピースと一緒に食べずに料理を続けた。
この料理は時間がかかるため、大体最後に出来上がる。
よし、もう大丈夫だろう。
「出来たぞー!ピースの大好きな芋と野菜のスープだ!」
「おおぉ!!」
赤ちゃんの時から食べているせいなのか、ピースの大好物は芋。
こっちの世界では日持ちする上に簡単に多く手に入るためよく食べられる。
そのため、こうして大好物が食卓に並ぶことが多い。
「パパはもぐもぐ、この後何をもぐもぐ」
「こら、食べながらしゃべってはいけないぞ。しっかりと口の中にあるものを食べ終わってからしゃべりなさい」
「――んぐ。パパはこの後何するの?」
「この後か?この後はボルスの手伝いをしに行くぞ」
「それならついて行くー!!」
「構わないけど、邪魔はするなよ?」
俺たちは食事を終えると家を出た。
向かった先は村にある大きな畑があるところだ。
「こんにちはー、ボルス」
「やあアキヒサくん。それにピースちゃんも」
「こんにちはー!」
「よく来たわねえ」
ボルス・ルーダーとアリアンロッド・ルーダー。
二人は人間の夫婦で農家である。
「ガウスはいる?」
「ガウスなら今道具を取りに行っているはずだが」
「手伝ってくるー!」
「気を付けるんだぞー!」
ピースは走って道具入れに向かった。
ガウスはボルスとアリアンロッドの息子。
年は村の子供の中で最年長の15歳であり、よくピースがちょっかいを出しに行く。
「今日は何を手伝えばいい?」
「今日は収穫だよ。頼めるかな?」
「りょーかい、任せな!」
力と体力なら勇者の時に散々鍛えられた。
これぐらいなら余裕だ。
「いたたっ、押すなよピース」
「急がないガウスが悪い!」
「ったく、お前は俺の母ちゃんかよ」
渋々と青年がピースに押されてやってきた。
あれがガウス、仕事熱心の二人の息子とは思えないほどのめんどくさがり屋だ。
「聞いたかい、例の話」
「ああ、未だに活動しているみたいだな」
例の話、それはドラーグたちの話だ。
ここ最近はさらに増えてきている。
大体の内容は悪魔たちの討伐、そしてたまに獣人の討伐の話も入ってくる。
こうしたニュースもあれば、反逆した人間たちを倒したというニュースもある。
「あの人たちがいる限り平和は遠そうだねえ」
「そうねえ。平和なんて夢のまた夢なのかしら」
ドラーグたちが行動するたびに平和は遠のく。
それはドラーグたちには分からなくて、俺たちには分かることだ。
話が終わると、俺は2人と別れて収穫の作業へと移った。
「おーい!」
「この声はウロボロか」
「仕事が終わったら一杯やろうじゃないか!いい獲物も獲れたぞー!」
「わかったー!ボルスにも言っておくよ!」
「頼んだぞー!」
狼の獣人のウロボロは動物をとらえるのが上手い。
ウロボロもボルスと同じく家族を持っている。
今は俺とボルス、ウロボロにガガドラでよく酒を飲む。
もう1人、グラドリアがいるが健康に悪いと言い酒は飲まない。
だがたまに食事だけでもしようと誘うが、来る機会は少ない。
俺はこのことを伝えにボルスのところへ向かった。
「ボルス、今さっきだが――」
「ウロボロが来たんだろう?さっき奥さんのメルメラちゃんが来たから話は聞いているよ」
「そうだったのか。それでどうする?」
「もちろん行くつもりだよ。今日の作業は早めに終わるからね」
「よし!じゃあまたみんなで乾杯といこうか!」
俺は夜の酒を楽しみに仕事をこなした。
畑作業は主な食料になるため、一年中毎日のように手入れをする。
それは今日も変わりなく行われている。
「パパー!」
「どうした?ガウスと遊んでいたんじゃないのか?」
「ボルスおじいさんと一緒に仕事してるよー」
「あぁー、そういうことか」
ガウスは子供が嫌い、というよりは苦手だ。
年が年なだけあって、小さな子の面倒の仕方が分からないようだ。
「じゃあ手伝うか?」
「うん!何をすればいいの?」
「そこに芋の蔓があるだろう?それを引っ張ってたくさんの芋を取るんだ」
「分かった!」
ピースは大きな蔓を見つけ、それを手に持った。
「あっ、あまり力を入れ過ぎると――」
「わあぁ!?」
ピースは勢い余って後ろに倒れてしまった。
だけど大きな蔓を掴んだだけあって、採れた芋は大きいものばかりだった。
「見てみて!大きなお芋!!」
「あははっ、そうだな。せっかくだしそれを夜に食べようか」
「本当!?やったー!!!」
ピースは嬉しそうに芋を抱きかかえていた。
ありゃりゃ、まだ土をはらっていないから服に土がついてしまっている。
それでもお構いなしに抱きかかえて喜ぶピース。
見ているだけでも元気が湧く。
「じゃあ頑張って早く終わらせようか」
「うん!」
俺とピースは二人で仕事をした。
ピースにやり方を教えつつやっていたため、時間は少しかかってしまった。
だけど時間をかけただけはある。
少しずつだが、ピースは仕事を覚えていったのだ。
「さて、いい時間だし終わりにしようか」
「じゃあ道具片付けてくるね!」
「急がなくていいぞー!!」
ピースは道具を戻すために道具入れまで走っていった。
帰ってくるときも走っており、その手の中にはさっき採った芋があった。
「じゃあ向かおうか」
「どこに行くの?」
「そういえば言っていなかったね。ウロボロの家だよ」
そう言えば話をしていた時にはピースはいなかった。
話したところ、帰りたいともいう気配はないから行くってことだろう。
俺はピースと一緒にウロボロの家へと向かった。
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい、アキヒサくんにピースちゃん」
「こんばんは!」
「はい、こんばんは。それは?」
「畑で採れたお芋!!」
「あらあら、じゃあ料理するからおばさんにくれる?」
「わかった!どうぞ!」
メルメラはピースから大きい芋を受け取った。
そして芋を渡したピースの姿を見て、メルメラは予備の服を貸してくれた。
土まみれのままだと良くないからな。
「おう、来たか」
「なんだ、もう飲んでいるのか」
中ではガガドラがすでに飲み始めていた。
酒のつまみはウロボロが獲ったお肉の料理だ。
「おっ、今日は豪華だな」
「ああ!なんたって今日は俺が獲ってきたんだからな!!」
ウロボロは大層嬉しそう語りだした。
こいつ、もう出来上がっているじゃないのか。
「ほらほらアキヒサも飲め飲め!」
「おいおい、入れ過ぎだぞ」
これじゃあ一杯目で俺も出来上がってしまう。
そうと分かっていても俺は飲んでしまった。
「ねえねえパパ」
「んー?どうしたー、ピースー」
「やー!パパお酒臭いー!!」
「ほーれほーれ」
俺は悪気がないものの、ピースに絡んでいた。
記憶が残っていたら悶絶しそうだが。
「それでどうしたんだー?」
「これ、私が採ったお芋の料理!」
「…くれるのか?」
「うん!私も手伝ったんだ!」
ピースから料理を貰うと、まずは一口だけ食べた。
「うん…うん!美味しいよ!」
「えへへっ」
俺はこの時のことは鮮明に覚えている。
あの赤ちゃんだったピースがメルメラの手を借りつつも、自分で料理をつくったんだ。
例え酔っていても、酔いが一瞬で消えてしまうほどのものだった。
「もっと食べる?」
「じゃあ食べようかな。ピースも一緒に食べようか」
「うん!」
その日、俺たちは夜遅くまで食べて、そして飲んだ。
俺はお肉料理より、ピースの作った料理をたくさん食べていた。
あれだけ酒を飲んだんだ。
案の定、次の日は潰れてしまった。
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