第40話 虫耐性99

「ふぁーあ。眠たい……」


 夜中のデルク家。

 一人の少女がトイレから部屋へと戻るため廊下を歩いていた。


「明日はアンディと何して遊ぼうかなあ」


 少女は欠伸をしながらも、明日の予定を考えていた。

 トイレは少し離れているため、どうしても時間ができてしまう。

 大体はこういう短い時間を有効的に使おうとしていた、のではなくただ単に怖さを紛らわせているのだ。

 まだ6歳、1人で夜中の真っ暗な廊下は怖いに決まっている。


 そんな少女の前にうっすらと光が現れた。


「な、なに?何の光?」


 光は弱々しく、遠くからだと何の形をしているのかもわからなかった。

 少女は怖がりつつも気になったため少しずつ近づいて行った。


「思った以上に大きい……?」


 元々大きいわけではなく、近づくたびに光はどんどんと大きくなっている。

 目の前に着くと光の成長は止まった。

 そして徐々に形を変えていき、ある形へと変わった。


「き、きゃあああ!!」


 それは人の形をしたお化けだった。


*


「それで僕の部屋へと来たと」

「だって怖かったんだもん!」


 ただいま夜中の…何時だろう。

 ぐっすり寝ていた中でたたき起こされてまだ目がしっかり開いていないから時間が見えない。


「……すぅ」

「起きてよー!!」

「だって眠いんだもん……」

「じゃあ今日は一緒に寝させてよ!」


 ベッドは小さいわけではないから、エイミー1人ぐらい加わっても全然かまわない。


「しょうがないなあ。今日だけだよ」

「ありがとう!」


 その後、エイミーはさっきまでの怖がりが嘘かのように寝ていた。

 後から思ったんだけど、エイミーにベッドを譲って僕はソファーとかで寝ればよかったんじゃないかな。

 別に疚しい気持ちがあったわけじゃないからいいと思うけど。


 翌朝、僕とエイミーはこのことについて何か誰か知っていないか聞くことにした。

 一番何かと知っていそうなのはお父さんだな。


「ということがあったんだって」

「ふむ、幽霊ならレイスという可能性があるな」

「レイス?」

「お化けの一種で主に幽霊のことを言うんだ。でもやつらは基本無害、放っておいてもいいだろうが……」

「絶対に嫌だ!」

「だそうだ。ならしっかりと解決してやらないとな」


 このままだと僕の部屋がエイミーと僕の部屋へとなってしまう。

 挙句の果てに、トイレまで一緒について来てとか言いそうだし。


「そもそもこんなところでレイスが出るなんて初めて聞いたなあ」

「僕も生まれて一回も見たことが無いよ」

「でもいたんだもん!」


 いたんだもんなんて言われても、5年以上も住んでいるのに見たことが無い。

 お父さんに至ってはもう何倍も住んでいるんだから。

 そもそも寝る前にトイレに行っているから夜中に起きていることがないからというのもあるけど。


「それで本当に見たのは幽霊だったのか?」

「本当だよ!小さな光が見えたと思ったら徐々に大きくなってお化けになったんだから!」

「徐々に大きく……」


 お父さんはエイミーの言葉に何か引っかかったのか、少し考え始めた。


「何か心当たりがあるの?」

「いや、レイスは幽霊とは言われているが生きているんだ」

「う…ん?」

「よくわからないと思うが、問題はそこではないんだ。レイスは大きさを変えることなく移動をする」

「徐々に大きくなっていったのがおかしいという事なんだね」

「そういうことだ」


 レイスが魔法を使ったんじゃないかな?

 ただでさえレイスという幽霊がいるんだし、そういう魔法があってもおかしくない。

 何せスキルを何でも使える人物がここにいるんだからね。


「…なるほど、そういうことか」

「お父さん何か言った?」

「何でもないよ。それでアンディ、今日の夜エイミーちゃんと一緒に原因を見つけてやってくれ」

「うーん、わざわざ廊下に行かなくても解決できる方法があるんじゃないの?」

「まあまあ、エイミーちゃんのことを思ってここは付き合ってあげなって」


 エイミーは今でも思い出すたびに怯えている。

 こういうエイミーは初めて見るけど、ずっとこのままにしておくわけにはいかないからね。

 他の方法で解決できないか考えたけど、実際に見たほうが簡単そうだ。


「じゃあ後は他の人から話を聞いて回って、夜中に備えようか」

「うん、わかった!」


 その後、お姉ちゃんやルーシュや他のみんなにも聞いて回った。

 だけどこれと言った情報はなし。

 みんなレイスではないかという意見しか出なかった。


 仕方なく待つこと夜中。

 あらかじめ少し寝ていたからあまり眠くはないが、やっぱり眠い。

 恐らくこの時間に僕はたたき起こされたのだろう。

 よくよく考えると、ぐっすり寝ている時にいきなりたたき起こされたのも結構ホラーな気がする。


「そろそろ行こうか」

「あ、アンディが前を歩いてくれる……?」

「別に構わないけど、勝手にあっちこっち行かないでよ?」

「怖くて行けないよー……」


 もう震え始めている。

 こんな状態で廊下を歩けるのかなあ。


 僕たちは部屋を出て廊下へ。

 部屋の前を歩いても出なかったため、エイミーが見たというところまでやってきた。


「他の廊下と同じで変わったところはないけど……」

「でもいたから気を付けて!」

「わかっているけど、出来ればもう少し離れてくれないと歩きにくいよ」


 エイミーは怖いみたいでずっと僕の後ろで引っ付いている。

 前に歩こうにも後ろに歩こうにも歩きにくい。


 もっと奥へ行こうとした時、目の前にホタルのような灯りが見えてきた。


「ん?光が見えてきたよ」

「あ、あれだよアンディ!」


 あれがエイミーの言っていた光なのか。

 僕たちに気づくと、光は徐々に大きくとなっている。

 やがてお化けと言ってもいい形へと変わっていった。


「やだっ!」

「やだって、これを解決しないといけないんでしょう?」

「目をつぶっているからお願い!」

「はいはい……」


 なぜこうも僕が平然としているかと言うと、まあ単純に怖くないからだ。

 人の形をしているものの、よくホラーであるような長い黒髪や傷だらけでもない。

 本当にただ人の形をしているだけなんだ。


「何の光なんだろう、これ」

「アンディー。何をしているのー?」

「何の光かと思って触ろうと思ったんだけど、触れなくて」

「お化けだから触れないよー!!」


 まあ普通に考えたら触れないよね。

 何かお化けのほうもびっくりしているようだし。


 そんなことをしていると、後ろに誰かがいる気配がした。


「やっぱりアンディは驚かなかったか」

「きゃあああ!!」

「いてっ!?」


 いきなり背後から聞こえた声にエイミーは驚き、そのままストレートパンチをかました。

 ちょうど膝あたりにクリーンヒットしている。

 痛そうだなあ……。


「何をしているのお父さん……」

「2人が驚く姿を見に来たんだが…仇になってしまった……」

「うん、今度からは気を付けてね」


 これに関しては自業自得だろう。

 最初から一緒にいればこんなことは起きなかったのに。


「それで、これが何か分かったか?」

「全然分からないよ。触ろうと思っても触れなくて」

「実はこれにはタネがあってな。ちょっと待ってて」


 お父さんは光のお化けに目もくれず、周辺を漁りだした。


「おっ、見つけた見つけた」


 何かを見つけて手に取ると光のお化けが消え、そのまま僕たちに見せてくれた。


「虫?ホタルみたいだけど」

「似ているけどまったく違うよ。こいつがさっきのお化けの正体だ」

「なんていう名前なの?」

「光霊虫という虫だ。逃げるときにさっきのように光を出すんだが、こんな家に住み着いているとはなあ。普段は森の中にいるはずなんだが、迷い込んだんだろうか」


 森の中……。

 もしかして誰かにくっついてきちゃったとか?


「お化けじゃなくてよかったぁ……」

「とりあえずこの虫は逃がしといてやらないとな」


 お父さんは手に取っていた光霊虫を外へ逃がした。

 もう大丈夫になったのか、エイミーは僕から離れると僕をちらちらと見ている。


「もう入って来ないようにならないかなー」


 …なぜ僕に向かって言うんですか?

 僕は何でも屋さんではないんですよ?

 まあエイミーの為だからやるけどね。


「スキルオープン」


 虫よけスプレーなんてないからなあ。

 虫耐性というスキルがあるし、これでいいんじゃないのかな?

 これを上げて、付与で渡せばいいだろう。


付与プレゼントが選択されました。対象はエイミーです。何を贈りますか?』


 贈るのはもちろん今さっき上げた虫耐性だ。

 これを選択してと。


『虫耐性が選択されました。エイミーへ虫耐性99を贈ります』


 これで虫が寄って来なくなるから大丈夫でしょう。

 本当のお化けではなくてよかったけど、一体誰にくっついてきたのかな?

 今度からは気を付けていかないといけないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る