第39話 予知99

「そこ、キリグサがあるから危ない」

「本当だ。こういう木の影に生えているんだね」

「うん。よくキノコと一緒にいたりするから、キノコを採るときは気を付けて」

「わかった」


 キリグサとは刺激を与えると麻痺させる、森の中に生えている草のこと。

 上手くいけば霧を出さずに採れるが、どう料理しても麻痺になるため雑草扱いさせる。


 なぜこうして森の中にいるかと言うと、リリスが欲しい薬草があるから手伝ってほしいと頼まれたからだ。

 使い道があるかどうかではなく、念のために数年おきにつくっているみたい。

 一応採りに行くのは危険だからとは言われたが、こうしてリリスが注意してくれているから今の所危険なことは無い。


「でもよくこんな深い森まで探しに行ったね」

「暇でよく遊びに来ていたから。今はアンディ達と出会って楽しいから来なくなっちゃったけど」

「それでもすごいよ。こうして危険なものもあるから僕1人でいけないかな」

「まあ、多少死ぬ覚悟ないとだめかもしれない」


 これは、笑っていいのかな。

 というかそんなに危ないところに連れて行かれているの?

 もしかして吸血鬼ではなくて死神、だとか?


「冗談だよ。死ぬことはないけど、さっきみたいに麻痺したり、スヤリソウというキリグサに近い眠くなる霧を出す植物がいる程度」

「危険な動物は?」

「危険な動物は………いない」

「その間が怖いんだけど」


 なんで間を開けたのだろうか。


「じゃあ行こうか」

「待って、本当に大丈夫なんだよね?」

「…たぶん。一度だけ毒蛇を見つけたから足元は気を付けておいて」

「そ、そうなんだ……。足元ね、気を付けるよ」


 まあ一緒にいるのはリリスなんだ。

 ここにエイミーやお姉ちゃんがいたらパニック状態になっていただろうね。

 もしもの時はスキルを使っていこう。


「あとどれぐらいで着きそう?」

「もうそろそろ着くはず」

「もしかしてあのでっかい木?」

「正解。あの木にお目当ての薬草がある」


 進む先の上を見ると、他の木に比べて大きい木が一本だけ生えていた。

 大きいだけあって、下に目印が無くても真っすぐ突き進むだけで着きそうだ。


「今更だけど、何の薬草を採りに来たの?」

「モーテダケという特別なキノコを採りに来たの」

「モーテダケ?」


 初めて聞いた名前のキノコだ。

 別に植物に詳しいわけではないし、薬学を学んでいるわけでもない。

 スキルを使えば何のキノコは分かるけど、そこまでしてこの世のキノコを知りたいとは思わなかった。


「一般的には辛いキノコだから食用には向かないけど、つくり方次第で薬になるの」

「へぇ、辛いキノコか。また珍しいものもあるんだね」

「それにこんな森の中。誰も採りに来ないから取り放題」


 とは言ったものの、薬でしか使わないためそこまで必要ではない。

 取り放題と言っても数年に1回の交換用だけしか採らないからね。


「辛いキノコかあ。ちょっと興味が出てきたな」

「それなら食べる分も採っておく?」

「余っているならそうしようかな」


 大きな木を目指して歩いて行き、ようやくたどり着いた。


「あったあった、これこれ」

「普通のキノコだね」


 何か僕でもすぐ描けそうなこれぞキノコ!というキノコとしか言いようがない。

 色も茶色と肌色の普通だし、よくすぐ見つけられるなあ。


「それで終わり?」

「終わり。後は帰ってつくるだけ」


 来るまでは大変だったけど、目的を採り終えるとあっけないな。

 それよりまずは、大切な材料なんだからしっかりと持ってきた袋に入れておかないと。


 僕たちは回れ右をし、リリスの家へ。

 帰りは行きとは違い、道も覚えているしキリグサなどの危ない植物なども気にすることなく帰れた。


 リリスの家に着くと、リリスは薬をつくるためにさっそく準備を始めた。


「つくるところを見ていてもいい?」

「いいけど、つまらないよ?」

「それでも勉強のために見ていたいんだ」

「そう、モノ好きだね」


 そのモノ好きが興味示したものをつくっているリリスはどうなんだろうか。

 まあそんなことは置いておいて、どうやってつくるんだろう。

 集中しているみたいだし、声をかけづらいな。


 こっちの世界だと電子測りなどがないため、天秤にかけてグラムの調整をしている。

 そんなことをしているリリスを見ていると、まるで薬剤師みたいだ。

 やっていることはまさにそれと似ているけど、3000歳越えとは思えない容姿だからなあ。

 少しほんわかしている。


「何か失礼なこと考えなかった?」

「いや、べつに?」

「そう。気のせいだったのかな」


 随分と鋭いな。

 薬づくりに集中しているはずなのに、しっかりとこっちまで見ていた。


「あとは煮て瓶に詰めれば完成」

「随分とあっさりとつくるね」

「慣れているから。量は中途半端で間違えたら毒になったりするから真似はしないで」

「そんなことがあるのか……。うん、真似しないでおくよ」


 それに僕にはスキルというのがあるからね。

 最近忘れていたけど、一応『不死身』というすごいスキルもあるから。


「じゃあ次は料理のほう」

「何か手伝うことはある?」

「ないけど、どれぐらい食べる?」

「歩いてお腹が減ったからそれ一本使ってもいいかな」

「そう、でもつくったらしっかりと全部食べて」

「? わかった。食べ物を粗末にすることはいけないからね」


 なんでそんな真剣そうな顔をしているんだろうか。

 辛いキノコで食べられないとは言っていたけど、それって激辛シリーズで普通に食べることがないというやつだよね。

 少し不安になってきたぞ。


「スキルオープン」


 こんな時のためにスキルの出番。

 もしもこのまま料理されたときの未来を僕は見たい。

 そのために使えそうなスキルが…あった。

 予知とあるけど、これは未来予知とかについている予知だよね?

 上げると何かが起こるのかな。


「お、見えてきた見えてきた」


 99まで上げてもしっかりとした未来が決まったわけではないのか、あまりくっきりとは見えない。

 けど、そこに見えたのは倒れていた僕の姿だった。


「リリス!やっぱり少しでいい!」

「そう?わかった」


 よかった、間に合ったようだ。

 倒れていたってことは何かが起きたと言うことだ。

 少なくともモーテダケこれがかかわっているのは分かった。

 なぜなら倒れた僕の隣に料理されたモーテダケがあったからね。


「はい、出来たよ」

「いただきまーす」


 リリスは料理したモーテダケを運んでくれた。

 それにしても、この匂いどこかで嗅いだことあるな。

 どこでだっけ?全然思い出せない。


 とりあえず、スプーンの上にある一口だけを食べてっと。


「あ…が…ががが……」

「やっぱりだめだったか」


 リリスは予想通りみたいで僕に飲み物を渡してくれた。

 一言で言うなら辛いというより痛い。

 もっと言うなら痛覚が消え始めるような辛さだった。


「なにこれ……。こんなの好んで食べる人いるの?」

「いない。というよりこれを食べて死んだ人がいるって聞いた」

「おいおい!それは先に言ってよ!!」

「アンディなら大丈夫だと思ったから」


 僕は無敵か何かなのかな?

 不死身というスキルはあるけど、まさか知っているとか……。

 いやいや、そんなはずはない。

 誰にも言ったことが無いからね。


「ちなみにこの料理はなんていう名前なの?」

「これは焼いただけだから名前はないけど、このキノコからつくった油の名前がデスオイル、だっけかな」


 どこかで聞いたことがあると思ったら、お姉ちゃんのオリジナルソースに入っていたあれか。

 そんなものが料理なら、そりゃあ嗅いだことがあるわけだ。


 というより、このキノコって薬草にもなるんだよね?

 もしかしてお姉ちゃんがこれを入れた理由は薬草になると知っていたから、だったりして。


 たった一口の料理がここまで辛いのは人生で初めてだったかもしれない。

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