第36話 倍速99

「はい、はちみつスコーン2個とおつりの銅貨3枚ね」

「ありがとう!」

「気を付けて持っていくんだよー!」


 今日はエイミーと二人でまた町へとやってきた。

 今回は前回と違い、目的は遊ぶためだけだ。


 朝、エイミーは食事の席でまた町へと行きたいと言い出したのだ。

 そこで前回一緒にいた僕が指名され、遊ぶためのお金も渡された。

 だからこうして買い物もできている。


 貰ったお金だが、また普通のお小遣いより多く入っていた。

 1日でこの金額を全部使いきったらその人の金銭感覚を疑うけど……。

 一応使い過ぎないように、お財布は僕が持っている。


 そのせいで今みたいに使いのように扱われている。

 まあ買ってくるぐらいは別に構わないけど、その間に問題を起こさないでおいてほしいな。


「エイミー、お待た――」

「あなたが悪いんでしょ!!」


 起こさないで欲しいと思った瞬間に問題が起きている。

 これをフラグと言っていいのかな。


「エイミー、どうしたの?」

「アンディ!こいつらが!」

「こいつらとはなんだ!俺は貴族の中のさらに上、大貴族なんだぞ!」


 その大貴族の後ろにいる2人そーだそーだ!と言っていた。

 誰なんだろう、この3人は。

 見た感じ、全員僕たちと同じぐらいだと思うけど。


「それで、何かしたの?」

「先やってきたのは向こう!」

「ふんっ!本当のことを言って何が悪い!」

「あっ、そうだった。はい、スコーン。まだ熱いから気を付けてね」

「わーい!」

「貴様、話を聞く気はないのか!?」


 だって仕方ないじゃん、熱いんだもん。

 ほら、エイミーも食べ始めちゃった。


 それになんだか面倒くさそうだし。

 僕もあたたかいうちに食べておこう。


「貴様も食べるのか!?」

「冷めたらもったいないじゃん」


 なぜこれ以上話を聞く気がないのかは理由がある。

 さっき、エイミーが大貴族こいつが悪いと言い、そして本当のことを言っただけと言った。

 そうなると、エイミーに何かを言ってそれに突っかかったんだろう。


「それで何を言われたの?」

「アンディのことをバカにしたんだよ!」


 なんだ、僕の事だったのか。

 正直、僕のことを言われたのなら別にどうこうする気はない。

 突っかかっても時間の無駄だろうし。

 ましてや子供の悪口、珍しいものでもない。

 ここからは大人の対応をしていこう。


「バカと一緒にいるやつは同じくバカだな!」

「ファイアー」

「あぶなっ!?」


 僕は大貴族に向かって炎を放った。


「いきなり何をする!!」

「僕ならまだしも、エイミーの悪口は許さない」

「こいつ…誰に向かって話していると思っているのだ!」

「大貴族」

「分かっているではないか!俺はあのエリクソン家のブレット、ブレット・ブルー・エリクソンだ!」


 自分から言うだけあって、本当に大貴族だった。

 エリクソン家はあまり町へ行かない僕でも知っている。


 多くの人がエリクソン家の作られた職場に集まる。

 そして、集まった人の個人データを隅々まで調べられる。

 そこからその人に合った別の職場に案内する仕事だ。


 主に行っているのは仕事案内、ハローワークみたいなことだ。

 それが成功をし、貴族の上の大貴族まで成り上がった。


 今の世の中は平和なだけあって、お金がある者が有利になる。

 戦闘力は二の次になってしまっているだけあって、国でも柱レベルにまで権力がある。


 でも、例えそれだけ上がっても僕の家系であるデルク家の下である。

 ましてや王女であるエイミーを越えることはないだろう。

 このブレットは知らないだけで、立場が上の相手にケンカを売っているのだ。


 それはそれで面白いと思うけど、エイミーをバカにするなら面白くはない。


「それで、そのブレット様はどうするの?」

「大貴族に歯向かったバツだ、決闘を申し込む!」


 決闘かあ。

 この国にも一応決闘は存在する。

 だけど、決闘では財産や地位をかけて戦うのが一般的。


「そうなると地位を賭けるってこと?」

「…いや、模擬戦だ!」


 逃げやがったな、こいつ。

 大貴族から落ちるのが嫌なんだろう。

 それなら決闘とか言わなければいいのに……。


「まあ模擬戦でもいいよ。ただし戦うのは僕とブレットの一騎打ちだ」

「ブレット様、だ」

「…それでいい?ブレット」

「ブレット様だ!まあそれでいいだろう」


 面倒くさいなあ、こいつ。

 そこまでこだわるのか。


「アンディ……」

「どうしたの?」

「無理だけはしないでね?」

「大丈夫、僕は強いから」


 これ以上こいつらと一緒にいたくないけど、エイミーをバカにされたままでは自分自身を許せない。

 少しだけ痛い目を見てもらおう。


「ルールは先に相手へ魔法か攻撃を与えた者の勝ちだ」

「早打ち勝負ってことね」

「そうだ、合図はダンのコインで始める」

「どっちがダン?」

「俺がダン」

「僕はサンだ」


 そう言うと、後ろにいた取り巻きの右側がコインを取り出した。

 コインで早打ちって、ガンマンみたいでかっこいいよなあ。

 それを今からやるってなると、少しワクワクしてきた。


「それと使う魔法は自由だ」

「自由?何を使ってもいいの?」

「ああ、ただし!殺傷能力があるのは禁止だ」


 そんな魔法は使う気はない。

 人なんて殺したくないしね。


 っと、今のうちに勝つためのスキルを上げておこう。

 エイミーをバカにしたんだから全力でいくよ。


「スキルオープン」


 早打ちとなると、やっぱり速い魔法がいいよな。

 倍速なんてあるし、これを使えば勝てるだろう。


 スキルを上げ、僕たちは少しだけ距離をとった。

 距離はおよそ10メートル、いい感じの距離だ。


 合図をするダンは真ん中にいる。

 僕とブレットが準備を終えたことを確認し、コインをはじいた。


 僕が使う魔法は魔法というスキルで上がっている中にあったアイスだ。

 これにさっきの倍速を加える。

 一気に二つ使うのは難しいだろうけど、それをカバーするほどの速さになるだろう。


 そしてコインは地面にたどり着いた。


「くらえ!ウォーター――」

アイス倍速タイムズ・スピード

「って!!」


 あまりに速すぎると危険かと思い、少しだけ緩めた。

 だけど、ブレットあいてが魔法名を言い終わる前に僕が放った魔法は当たっていた。


「「ブレット!!」」


 取り巻きの2人はブレットを心配に思い、走って向かった。


「アンディー!」

「ちょっ、いきなり来ると危ないから」

「ケガはないよね?大丈夫だよね?」

「大丈夫だから。何も当たってないし」

「よかったぁ……。でもすごいね!」

「すごい、かな?よくわからないや」


 あまり自覚はない。

 スキルが優秀過ぎて、すごさが少しずつ薄れてきちゃっているのかな。


 こうして、僕の初めての模擬戦は僕の勝利で終わった。

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