第35話 監視99

「坊ちゃま、今日は何を食べたいですか?」

「そうだなあ……」


 勉強が終わったお昼前。

 僕はルーシュと一緒にいた。


「この前食べた芋が美味しかったし、芋の料理がいいな」

「芋ですか。そうですね……。芋と肉と玉ねぎの炒め料理はどうでしょうか?」


 いわゆるジャーマンポテトというやつかな。

 好きな料理の一つでもある。


「じゃあそれで!」

「かしこまりました。では――」


 そんな時、部屋のドアが勢いよく開いた。


「私も手伝う!」


 何とビックリお姉ちゃんの登場だった。


「お、お姉ちゃん、勉強は?」

「終わったよ!」

「…うそはダメだよ」


 お姉ちゃんが自分一人でこんなに早く終わるはずがない。

 いつもギリギリ、というより過ぎているんだから。


「嘘じゃないよ!ほら!」


 そう言って勉強した内容を渡してきた。

 たしかに埋まっているけど、間違っていたら意味がない。


「…ほとんどあっている」

「ね?しっかりやっているでしょ?」


 信じられない……。

 決して馬鹿にしているわけではないけど、これなら毎日しっかりやってほしい。


「じゃあ一緒に作りましょうか」


 ルーシュはお姉ちゃんと作ると言い始めた。

 まずい!このままだとせっかくの料理が台無しになってしまう!


「僕も一緒に――」

「だーめ!アンディは期待して待ってて!」


 だめだ、一緒にいることすらできないなんて……。

 また解毒を使う羽目になる!


「じゃあつくってくるから部屋で待っててね。あっ!」

「どうしたの?」

「覗いたりしたらお昼抜きだからねっ」


 いっそ、そっちの方がいい気がしてきた。

 でもお腹はなっていて相当減ってしまっている。


 午前中に頭を使ったんだからそりゃあ減るよね。

 学校でもたまになる人いるぐらいだし。


「それでは作ってきます」

「また後でねー」


 あっ、二人とも行ってしまった。

 どうすることもできなかった。


 少しだけ、スキルで覗いてみようかな。

 もうそれぐらいしかできることがない。


「スキルオープン」


 いざというときのために確認しておいたスキルがある。

 それは監視だ。


 言葉通りならそれ相応に使えるだろう。

 これを上げてっと。


「料理だから、台所が見れればいいんだけど……」


 台所を見たい、そう思った瞬間台所の風景が頭の中に入ってきた。


『危ないので私が見ているときだけ包丁を持ってくださいね』

『もう1人でもできるよ!』

『でももしケガをされてしまわれると、怒られるのは私なんです。ここはお願いします』

『むぅ、わかったよー』


 まだ台所について間もないが、材料はすでに並んでいた。

 必要なものしかなく、余計なものは一切置かれていない。


『ではまず芋からです』

『こう?』

『そうです!お嬢様は上手ですね』

『たくさんお勉強をしたからね!』


 できれば普通の勉強もしてください。

 それと、その勉強はもう一度最初からお願いします。


「でもこれなら大丈夫そうだな」


 一応、不安もあるから作っている最中も見た。


 炒めるときも、焦がしたり生焼きになったりすることはなかった。

 それどころか、完璧と言ってもいいほどだった。


「やばっ、お腹が鳴ってきた」


 見ているだけでさらにお腹が空いて来てしまった。

 今なんて何回もお腹が鳴っている。


「そろそろ完成だろうし、呼ばれるんじゃないかな?」


 お姉ちゃんは台所から離れ、ルーシュは他に簡単な料理をつくり始めた。

 少ししてからお姉ちゃんは皿をたくさん持ってきていた。

 一瞬ドキッとしたけど、ただお手伝いをしているだけだ。


「もう完成したことだし、大丈夫だろう」


 僕は見るのをやめて、大人しく待つことにした。

 と言ったものの、やることが無い。


 ドラグノールには餌はもうあげたし、そもそも部屋から出れない。

 結局やることはなく、やった勉強の見直しをしていた。


「アンディー!出来たよー!」

「はーい!」


 少し待ったら呼ばれた。

 僕は期待に胸を膨らませて食堂へと向かった。


「もうお腹ペコペコだよ」

「そう思ってたくさんよそったよ!」


 お姉ちゃんは自信満々に料理を運んでくれた。


「美味しそう!」

「でしょう?ルーシュと一緒に作った自信作だよ!」


 本当に美味しそうだ。

 早く食べたい、そう思わせてくる。


「いただきまーす!」


 まずは一口。

 驚いたことに、今まで食べたジャーマンポテトより美味しいと感じた。


「美味しいよ!」

「本当!?」


 お姉ちゃんも嬉しそうだった。

 本当に美味しい、お店で出してもいいと思うほどだった。


「そうだ!よかったらこれ!」


 そう言って一つの瓶を渡してきた。

 色は紫色だった。


「…これは?」

「オリジナルソース!よかったら使ってね!」


 お姉ちゃんはまだ何かあるのか、再び台所に戻っていった。


「これは、あれだよね……」


 パープルシチューの素だよね。

 これが原因だったのか……。

 普通に作ったら美味しいのにもったいない。


「そういえば以前使った鑑定があったんだっけ」


 試しに鑑定をして見た。


 鑑定結果は使われた食材が並んでリスト化されている。

 何々、まずは……。


「マヒキノコ」


 アウトだね、これはアウトだよ。


 一品目からマヒキノコってどういうこと!?

 マヒ、ってついているんだから食材ではないよね?


「まだ間違えて入っちゃったという可能性があるんだ、きっと」


 偶然の偶然、本当にたまたま入っちゃったのかもしれない。

 色はきっと何か化学反応がたまたま起きたという可能性もある。


「えっと、次は……。デスオイル」


 デスオイル、油の一種で激辛の油だ。

 辛い料理で使おうと作ったものだが、死者がでたため使用禁止となっている。


「一体、どこでこんなものを……」


 まず、普通は入手できない。

 もしかしたら家のどこかにあったのかな?


 でもこれを入れるって、単純に殺人につながるよ?


「ん?製造された日まで分かるのか」


 読み飛ばして最後のところに製造された日にちが書かれていた。

 そこを読んでみると、製造日は今から5年前。


「お姉ちゃんが5歳の時につくったやつなのか。そりゃあこんなものができるわけだ」


 多分、まだ料理を全然知らないときだから、適当にまぜて作ったんだろう。

 でも未だに持っているって、腐っているとは思わなかったのかな?


 あっ、デスオイルが入っているから腐らないみたい。

 防腐機能付きなんてすごいソースだな。


「でもこれは食べ物ではないよね」


 僕はそっと、瓶をポケットにしまった。


 お姉ちゃんには全部使っちゃったと言っておいた。

 最後の瓶で品切れとのこと。

 これならお姉ちゃんの今後の料理は安心して食べられるんじゃないのかな?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 1日3話投稿は今日までです。

 後は1日1話か2、3日に1話を目安に書いていきます。

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