第34話 真似99

「お邪魔しまーす」

「いらっしゃい」


 今日はリリスの家へやってきた。

 用があるらしく、僕とドラグノールだけで来て欲しいと言われて来たんだけど……。


「それでどうしたの?」

「その前に、いつものを」

「あー、はいはい。どうぞ」


 いつも通り、リリスは僕の血を飲んだ。

 もういい加減これも慣れたなあ。


「ごちそうさま」

「改めて今日はどうしたの?」

「フェンリルについて調べたくて呼んだの」


 フェンリルについて調べたいから、かあ。

 確かに珍しい生き物だからそこら辺にいるとは限らない。

 というよりそもそもなんで知っているんだろう?

 あった時もすぐに分かっていたし。


「今更だけど、何でドラグノールがフェンリルだってすぐに分かったの?」

「あまりないけど、何回か会ったことがあるから。人間だと分からない独特なオーラを放っているからすぐわかる」

「オーラ、ねぇ……」


 例え目をよくしてもそれは見えないだろうな。

 ほぼ第六感と同じような感じだろうし。


「でも会ったことがあるなら少しは知っているんじゃないの?」

「全然、まったく知らないに等しい。会ったと言ってすぐどっかに行っちゃうから」


 長く居座すのが嫌いなのかな?

 ドラグノールはずっと居座っているけど。


「あとはドラグノール次第だけど……」

「大丈夫。こんなこともあろうかと準備はしておいた」


 そう言って取り出したのはりんご肉だった。

 なるほど、それで釣る気だったのか。

 結局食べ物なんだね……。


「ドラグノール」

「ワウッ!!」

「だめ、まだだめだからね」

「グルルルッ」

「よし、いいよ」

「ワンッ!」


 家でもやっている『待て』だな。

 リリス相手でもしっかりやるんだね。


「なるほど、芸はしっかりと覚える、と」

「その言い方をするとただの犬みたいな気がするんだけど……」


 たしかに犬がやるようなことはたくさんやっているけどさ。


「次にいこう」


 そう言うと、持っていたりんご肉を浮かばせた。


「ワウッワウッ!」

「そのまま待って」


 リリスはちょうど食べられない位置に肉を固定し、ドラグノールの口の中を見ていた。

 口の中、というよりは生えている牙を見ていたのかな。


「牙は立派だね。口の中からは魔法の形跡が見えないから、口から出す魔法は使えないみたい」

「そんなことまで分かるんだ」

「うん、これもたくさん見てきたおかげ」


 まるで小さな研究者だな。

 僕は今までドラグノールはどういった生き物なのか気にはしていたけど、そこまでのことはしなかった。


「よし、食べていいよ」

「ワンッ!」

「それと鳴き声、まだ小さいから話せないのかな?」

「やっぱりフェンリルって話すことができるの?」

「出来る。けどドラグノールはまだ小さいから無理だと思う」


 小さいって……。

 もう十分大きいですけど。

 これ以上大きくなったら家の中に入れなくなってしまうよ。


「リリスが見たフェンリルってどれぐらいだったの?」

「うーん、5メートルぐらい?」

「でかいなぁ……」


 思った以上に大きかった。

 そこまで成長したら残念だけど、外で飼うことになる。


「でも大丈夫、フェンリルは魔法が得意だから小さくなる魔法も覚えるよ」

「あぁ、やっぱり魔法が得意なんだ。小さくなれるならよかったよ」

「…やっぱり?」


 聞き捨てならない、と言わんばかりに食いついてきた。

 もしかして余計なことを言ってしまったんじゃないのかな?


「何か魔法を使えるの?」

「ほら、この前耳が生えた時あったじゃん」

「あー、可愛かったね」

「あ、ありがとう……。それが、ドラグノールが使う魔法の一つだよ」


 どう役に立つ魔法なのかは分からないけど。


「他には?」

「分身したり、竜巻を起こしたりできていたね」

「ふむふむ、フェンリルとしてはしっかりと成長しているみたい」


 人間の家にいるから普通の成長より遅くなっている、というわけではないみたい。

 豪華にたくさんのお肉も食べているわけだし、そのおかげかな。


「魔力もしっかりあるし、まだまだ今後に期待できるね」


 それからも、リリスはドラグノールを調べていた。

 研究肌なのか、気になったらとことんやるみたいだ。


 僕はリリスがドラグノールを調べているのを黙って見ていた。


「よし、十分調べた」

「ハッ…ハッ…ハッ……」


 スッキリした顔のリリスと疲れた顔のドラグノール。

 お疲れ様、ドラグノール。


「やっぱり気になるのはこの角だね」

「キャンッ!」

「「あっ……」」


 リリスが手を近づけようとしたら、ドラグノールは怯えたかのように僕の後ろに回った。


「もう嫌みたいだよ」

「むぅ、仕方ない。今日は諦める」

「そうしてあげて……」


 小刻みに少し揺れていた。

 あんなに弄ばれたら流石に嫌なんだろうね。


「それでなんで角が一番気になったの?」

「分からないの?」

「分からないから聞いたんだけど……」


 この前、僕が形を整えたことがあるぐらいしかわからない。


「この角、魔力の源みたいなの」

「これが源?ずいぶんと面白いところにあるね」


 その源を削っちゃったんだけど、大丈夫なのかな?

 削った時は嬉しそうにしていたから大丈夫だと思ったんだけど。


「凄さが全然分からないや」

「私みたいに特別な目があったらいいんだけど」

「ドラグノールを見ているときに目が変わるよね」

「うん、人間でもたまに発眼されるみたい」


 リリスの目の黒い部分が十字架の形をしていた。

 ヴァンパイアなのに十字架って、大丈夫なのかな?


 もしかしたらスキルで僕も出来るんじゃないのかな?

 物は試しだ、やってみよう!


「スキルオープン」


 リリスと同じことをすればいい。

 それなら真似なんてどうだろう?

 特別な目だからできない可能性のほうが大きいと思うが、やってみる価値はある。


 とりあえず真似を上げてっと。


真似イミテーション

「おぉ。アンディも使えたんだ」


 どうやらうまくいったみたいだ。

 試しにリリスを見てみると、確かに魔力の流れなどが分かる。


 鏡越しに自分を見てみると、心臓から流れていた。

 血と同じなんだろうね。リリスも同じく心臓から流れていた。


 それでドラグノールはどうかと言うと、たしかに魔力は角から流れていた。

 なんでフェンリルだけ角からなんだろう?


「これは、謎だね」

「うん、そのうち導き出したいね」


 答えはすぐには出なかった。


 ここ最近、悩んでいることが合ったのにもかかわらず、新たな悩みの種が増えてしまったなあ。

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