第37話 裁縫99

「くそっ!覚えてろよ!!」

「「覚えてろよ!」」


 テンプレのようなセリフを吐いて行ったな。

 出来ればもう関わりたくないから忘れたい。


 僕たちは買い物などをするために再度、お店が並んでいるところまで戻ってきた。


「エイミー、僕のために怒ってくれるのはうれしいけど、すぐに反応しちゃだめだよ」

「でもアンディのことを悪く言われるのは嫌なの!」

「それでも――」

「だって私の旦那様なんだもん!!」


 ちょっ!そんな大声で言わないで!!

 周りの人達もこっち見ているから!


「あんなに小さい子がもう結婚を?」

「早いわよねえ。親が決めたのかしら?」

「それにしてもやっぱり早すぎだと思うわ」


 やばい、話のネタにされている。


「あっちになにかお店があるようだよ!」

「あっ、引っ張らないでよー!」


 僕はエイミーの手を引っ張って移動した。

 このままここにいたら話題の中心になってしまう!


 少し歩き、噴水があるところまでやってきた。


「急にどうしたの?」

「エイミーは一応王女様なんだけど、それは分かっている?」

「うん」

「王女様はね、普通はこんなところでフラフラ歩き回ることができないんだよ」

「うん?」


 えっ、そこ疑問に思っちゃうの?

 僕の家で住んでいなかったらたぶん、今もお城で勉強をしていると思うんだけど。

 いや、僕の中のイメージがそうなっているから勝手に思っているのかも。


「本当だったら姿を隠して、こっそりと来ないといけないんだからね?」

「でもなんで今はこそこそしていないの?」

「それを説明するとなるとどういえばいいんだろう……。名前は知っているけど見た目は知らないみたいな感じ」

「なるほどー?」


 庶民は国王の名前は知っていても、王宮に足を入れることができないため顔を知らない、という感じ。

 元々は容姿を知られて暗殺されないようにするためだったらしいけど、平和な今なら別にいいと思うんだよね。

 そのおかげで今もこうして外に出られるけど。


「とにかく!すぐにケンカを買ってはダメ!」

「はーい……」


 しっかりと反省しているけど、僕に怒られて凹んでしまった。

 このままだと空気が重い……。

 しょうがない、甘やかしすぎているかもしれないけど。


「えっ?」

「はい、まだ時間があるから遊びたい場所があったら言ってね」

「うん……!」


 エイミーの手を再び取り、別のお店を周ることにした。


 大体は飲み食い、たまに何かアクセサリーを見ていた。

 どれか欲しいのか聞いたが、欲しいというほどのものがなくて見て周っただけ。


 エイミーが好きそうなぬいぐるみ売り場に足を運んでみたら、そっちはそっちで欲しいものだらけ。

 貰ったお金で全部買えるかもしれないけど、それは使い過ぎだ。

 何個かに絞ってもらい、ぬいぐるみを買ったら荷物が多くなって家に帰ることにした。


 帰宅後、僕はエイミーの部屋にいる。


「このぬいぐるみはこっち?」

「違う!もう3個右!」

「あぁ、こっちね」


 こうして新しく買ったぬいぐるみを並べる手伝いをしていた。

 ここに瓜二つと言ってもいいぐらいそっくりなのがあるけど、これって違いがあるのかな?

 何回交互に見ても何から何まで同じだ。


「何しているの?」

「いや、この2つそっくりだなあって」

「そりゃあそうだよ!だって同じものを2つ買ったんだもん」


 えぇ、一体何のために?

 わざわざ同じのを買わなくてもいいでしょう。

 そう思ったが、これ以上言わなくてもいいことに気づいた。


 そのぬいぐるみは同じ見た目で一緒に座っている。

 2つのぬいぐるみの耳には、小さくイヤリングがしてあった。

 これ以上は聞かなくても、こうして置いてある理由が分かる。


「そういえばアンディってぬいぐるみつくれないの?」

「そもそも作ろうと思ったことが無いからねえ。頑張ったらつくれるんじゃないかな」


 エイミーが来るまで僕の部屋にはぬいぐるみもなかったぐらいだ。

 最近、少しずつ数が増えてきているけど。

 こうやって買ったときにこっそり移動させているな、これ。


「それなら一緒につくってみようよ!」

「構わないけど、肝心な道具や材料がないよ」

「誰か持っているんじゃないの?」


 確かに何かを直すときに使うかもしれない。

 そうなるとルーシュがある場所を知っていそうだな。


「たぶんルーシュなら場所が分かるから聞いてみようか」


 僕たちはルーシュを探すために家の中を探し回った。

 この時間だと、たぶんどこかで休憩しているはずなんだけど。


「いたいた、ルーシュー」

「坊ちゃま、それにエイミー様も。どうかしましたか?」

「ちょっとだけ裁縫道具を貸してほしいんだ。布や綿もあればいいんだけど」

「たしか布も綿もまだありますよ。すぐに用意しますが、何をつくるんですか?」

「ぬいぐるみをつくろうと思って」

「なるほど!それでしたらボタンなんかもご用意しますね」


 ルーシュは立ち上がり、道具と材料を取りに行った。

 休憩中に申し訳ない……。


「どうぞ。くれぐれも気を付けてくださいね」

「「はーい!」」

「それと一応これもどうぞ。つくり方などが載っていますので参考にしてください」

「ありがとう!」


 裁縫道具と材料、それと裁縫道具の使い方が書かれている本や、ぬいぐるみをつくるために参考にできる本を渡してくれた。

 すごいなあ、こんなものまで出回っているんだ。

 あの短時間でこの本を持ってきたルーシュもすごいけど。


 僕たちはまた部屋に戻り、早速つくろうと本を読み始めた。

 まずは何かをつくるのと大きさを決めて、布にパーツを書いて切っていくのか。


「まずは何のぬいぐるみでどれぐらいの大きさのをつくるかだけど」

「私ぐらいのくまさん!」

「まあ言うと思ったけど、材料的には手の上における小さめのしかつくれないよ」

「うーん、それはそれで可愛いからいいよ!」


 まあ例え材料があっても、そんだけ大きいと時間もかかる上に材料費もかかる。

 初めて作るのだったら、これぐらいの小さめのぬいぐるみがちょうどいいかもね。


「そういえばエイミーはつくったことあるの?」

「ないよ!」

「裁縫道具に触ったことは?」

「ない!!」


 僕は前の世界で使ったことがあるけど、素人には変わりない。

 裁縫は針を使うから危ないよね。

 少しエイミーには悪いけど、ケガをして欲しくないからスキルで上げさせてもらいます。

 決していいところを見せるためとかではないからね!


「スキルオープン」


 しっかりと裁縫というスキルがあるね。

 これを上げてっと。


「じゃあさっそく作ろうか」

「アンディは見なくて大丈夫なの?」

「うん。だけど一緒に作ろうね。針は危ないから」

「わかった!」


 ハサミや針を使うときは必ず見ているようにしていた。

 分からないところは僕がスキルを使って教えるように実践し、エイミーはそれを見よう見まねにやった。

 時間がかかったり、少し形が崩れているところもあるが、無事にぬいぐるみが完成。


「できたー!!」

「やっとできたねー」


 エイミーが針を持つたびに見ていたから結構疲れたよ。

 出来れば当分作りたくない……。


「もう夕食の時間になるし、ぬいぐるみは置いて――」

「待って!まだ最後にやることが残っている!」


 エイミーは自分のぬいぐるみと、僕がお手本で見せながらつくったぬいぐるみの耳に何かを付けた。

 これってどこか見覚えがあるな。


「はい!これはアンディの部屋に置いといて!」

「エイミーのほうを?自分がつくったのを持っていなくていいの?」

「うん!アンディに持っていて欲しい!」

「わかった。じゃあ部屋に飾っておくよ」


 交換した理由は分からないけど、僕は部屋に飾っておくようにした。


 それからエイミーが僕の部屋に来た時、ぬいぐるみを見て嬉しそうにしているところをしばしば見かけた。

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