第30話 重力操作99

「アンディ、いるか?」

「はーい、いるよー」


 ドアが開くと、そこにはお父さんがいた。


「ん?エイミーちゃんと遊んでいる最中だったのか」

「うん!ドラグノールも一緒だよ!」


 お昼ご飯を食べてすぐの時間。

 まだ何を遊ぶかを話している最中だった。


「それでどうしたの?」

「実は二人に買い物に行ってきてほしくてな。頼めるかな?」

「買い物を?」


 大体は商人が来たり、ルーシュたちが買いに行ったりするしている。

 もしかして何かあったのかな?


「アンリがカラリアとルーシュたちを連れて用事のため出かけていったんだ。俺が買い物に行ってもいいんだが、そうなると二人だけでお留守番になるけど。どっちがいい?」

「買い物に行く!」

「そうかそうか。それじゃあ二人に頼もうかな」


 僕に聞いたのにエイミーが答えちゃったよ。

 まあいいけどさ。


「僕も構わないよ」

「よかった!買ってきて欲しいものはこれに書いてある」


 一枚の紙とお金が入った袋を渡された。

 紙にはたくさんのメモがされている。


「ふむふむ、随分と豪華な夕飯だね」

「ああ。今日は久しぶりに豪快に行こうと思ってな!」

「お父さんがつくるの?」

「そうだぞ。こんな俺でも料理は得意だ」


 お父さんが料理をしているところを見たことが無い。

 お姉ちゃんと同じパターンだと嫌だけどなあ。

 でもメモから考えると変な食材もなく普通だし、大丈夫かな。


「余ったお金で何か買ってきてもいいが、気を付けていくんだぞ」

「はーい!」

「わかった。じゃあ行ってくるね」

「おう。しっかりとエイミーちゃんとはぐれないように行くんだぞ。あっ、ドラグノールはお父さんとお留守番だ」


 もしかしてエイミーが勝手にどっかに行かないように見張っとけってことかな?

 たしかにふらーっとどっかに行ってしまいそうだけど。


 お父さんは言い終わると、ドラグノールと一緒に部屋から出ていった。


「それでどういうのを買うの?」

「普通の食材だね。お肉に野菜とか」

「他にはー?」

「あとは特にないね。肉料理ばっかりだからほとんどお肉だよ」


 流石というべきなのか、肉の名前が書かれているメモを見ると、つくるであろう料理が思い浮かぶ。

 これ全部食べるとしたら結構な量になるけど、大丈夫かなあ。


「さっそく買いに行こう!」

「場所はお店が並んでいる町広場で大丈夫かな」


 少し歩くが、町の真ん中では毎日お店が開かれている。

 みんなは基本、ここで買い物をしている。


 僕たちは例外として取り寄せるときがあるが、それ以外だと大体はここで買っている。

 それに他にものを売っているお店まである。

 余ったお金を使うのならここがちょうどいいだろう。


「とりあえずの値段を見てから、先に欲しいものを見ようか」

「わかった!」


 ということで町広場へ。


 こうして町に行くのも久しぶりかもしれない。

 行くとしても森ばっかりだったし。


 最近だと他に海と空に行ったかな?

 行く場所が極端すぎるような気がするけど。


「そういえばどれぐらいお金が入っているの?」

「見てなかったね。ちょっと待ってね」


 お金がどれぐらいあるかをまだ見ていなかった。

 これで足りなかったらまずいなあ。

 そうなると一旦家に戻らないといけなくなるけど。


「…少し多く入れたとしても多すぎるなあ、これ」


 中にはこれから買う食材を倍ぐらい買える金額が入っていた。


 もしかして、お父さんは僕たちに遊ばせるためにわざわざ言ったとか?

 それだと僕としても嬉しいけど。


「どうだった?」

「うん、そこまで高すぎなければある程度買えるよ」

「じゃああれが欲しい!」


 欲しいものをすぐに見つけていたようだ。

 エイミーが指さしたのはイヤリングだった。


「これが欲しいの?」

「うん!これがいい!」


 そういう事なら別に構わないけど。

 別段特別というわけではなく、輪っか状でよくあるタイプだ。


「すみません。これを――」

「これを2つください!」

「えっ?」


 なんで2つ?

 予備の分、ってことなのだろうか?


「あらあら、二人はデート中なのかな?」

「うん!だから思い出としてこれが欲しいの!」

「そういうことね。わかったわ!特別にこれは私からプレゼントしてあげるよ!」

「ほんとう!?」


 そう言うと、お店の人が同じ形のイヤリングを2つエイミーに渡した。

 あの、なんだか僕だけ置いて行かれていないかな?


「アンディ、ちょっと向こうを向いててくれる?」

「こっち?」

「そうそう!ちょっと待ってね」


 エイミーは僕の耳にイヤリングを付けた。


「今度はアンディがつけて!」


 僕にもう一つのイヤリングを渡すと、付けるために耳を出した。

 …なんだろう、この緊張感。

 よくわからないけどドキドキしている気がする。


 初めて人に付けたが、うまく付けられた。


「二人ともよく似合っているわ」

「えへへっ」


 エイミーは少し照れていた。


「ねえねえ、どう?」

「どうって、似合っているよ?」

「むぅ……」


 なんで怒っているの?

 凄く似合っていると思うんだけど。


「もっと他に言うことがあるでしょう!」

「ほかに?」

「ほら!可愛いとか!!」


 お店の人が僕にささやくように話しかけてきた。

 それを、ここで言えと?


 エイミーは言ってほしそうに待っていた。

 …わかったよ!言えばいいんでしょう!!


「か、可愛いと思うよ……」

「えへへっ、ありがとう!」


 これ、けっこう恥ずかしいぞ。


「そうだ買い物!ほら、買いに行くよ!」

「ちょっと待ってー!あっ、イヤリングありがとー!」

「どういたしまして!お幸せにねー!」


 正直、僕は顔から火が出そうな勢いだ。

 家だと特に何ともないが、こうして外だと恥ずかしい。

 この場から離れたい勢いのまま、速足で去っていった。


 その後、他に寄りたいか聞いたが、もう満足したからいいと言われた。

 メモを確認しながら買い物を済ませ、家へと帰ろうとした時だ。


「けっこう量が多いなあ」

「どうするー?私がもう1個持てばいいー?」


 エイミーも荷物を持っているが、すでに限界のように見える。

 出来れば今持っているものも持ってあげたいが、そうなると僕の手が死んでしまう。


 そういう時こそスキルの出番。

 今度はかっこいいところを見せないと!


「スキルオープン」


 増殖で手を増やす――のは流石に町ではやるものではないな。

 素直にステータスを上げればいいのかな?


 いや、他のスキルを見つけた。

 重力操作という面白そうなのがあった。

 これならうまく使えそうだ。


「こうすればいいのかな?」


 試しに持っている荷物を『軽くなれ』と思いながら触れてみた。

 思った通り、荷物は軽くなった。


 もしかしてだけど、これって浮かせたりできるのかな?

 少し試してみよう。


「すごーい!なにそれ!!」

「荷物が重いから簡単に運べたらいいなあと思ってやってみたんだ」


 実験は成功。

 荷物はふわふわと浮いた。


「あとはこれをこうして紐で繋げれば……」


 浮いた荷物を紐で縛り、紐を引っ張るだけで荷物を運べる状態にした。

 これなら楽々に荷物を運べる。


「私が持ちたーい!」

「いいよ、はい」


 エイミーは僕から紐の先端を渡されると、走り始めた。


「全部しっかりとついてくるー!」

「おーい!面白いのは分かるけど、そんなに急いで帰らなくてもいいんだよー!」

「分かってるー!」


 と言いつつも、結局家まで走っていた。

 途中、僕の方がバテそうになっていた。

 後から気づいたけど、自分に使ったら楽に走れたんじゃないのかな?


 家に着くと、お父さんが出迎えてくれた。


「おかえり二人とも!後はお父さんに――って何で浮いているんだ?」

「アンディが簡単に運べるようにしてくれた!」

「おぉ……。まさかこんな魔法まで使えるとは……」


 しまった、お父さんに見られてしまった。

 また何かあれこれ聞かれそうで面倒くさそう。


「まあともあれ二人ともお疲れ様。それとそのイヤリングは買ったやつなのか?」

「ううん、お店の人がくれたの!」

「そうかそうか。二人ともよく似合っているぞ。かわいい夫婦みたいだ」


 まあ、恥ずかしかったけどエイミーが嬉しそうなら僕もよかったよ。

 このイヤリングは大切にしていこう。


「じゃあ後はお父さんに任せとけ!美味しい料理を食べさせてやるぞー!」


 夜、大きい食堂に3人しかいなかったが、料理は豪華だった。

 そして驚くことに料理は絶品。

 アンドレアに負けないほどの料理だった。


 今更だけど、お母さんが料理しているところを見たことが無いなあ。


「ねえお父さん」

「どうした?」

「お母さんって料理できるの?」


 お父さんは進んでた手が止まった。

 そして真剣な顔でこういった。


「誰にも得意不得意がある。それは仕方がないことなんだ」

「あっ…うん……」


 お姉ちゃんの料理は引き継がれていたものだったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る