第31話 思考99

「よしっ!おーわり!」


 今日の分である勉強がようやく終わった。

 集中していればいつの間にか時間は過ぎているけど、ただ同じようなことを繰り返すと時間の進みが遅く感じる。

 最近はけっこう遅く感じるようになってきたなあ。


「さて、お昼まで調べものでもやっておこう」


 最近はよくドラゴンについて調べている。

 それと一緒にフェンリルについても調べてみた。


 だけどドラゴンもフェンリルも両方とも情報がほとんどない。

 ディオスについては名前すら載っていない。

 だから調べる、というよりは知っていることをまとめて書いているだけになっている。


 調べ始めたから数十分が経った後、ドアがノックされた。

 最近この時間に来る人が多い気がする。


「どうぞー」

「アンディー!」

「勉強教えてー!」


 ドアが開くと勢いよくエイミーとお姉ちゃんが入ってきた。

 この流れ、また勉強会か……。


「あれ?この本初めて見た」

「これ?これなら今日から新しく覚えてって言われて増えたやつだよ」


 お姉ちゃんは一冊の本を僕に見せてくれた。

 少しだけ中をパラパラと読んでみた。


「なにこれ……」


 作法やらなにやら貴族らしい振る舞いなどの内容が書かれていた。

 初めて見るようなものばっかりで正直全然分からない。

 というより美しい歩き方ならまだしも、美しい座り方なんて書かれてもどこが美しいのか分からない。


「へぇ、こういうのも習うのか」

「うん、時間をかけてもいいからここにあることは大体できるようにしておけって」

「私ももらったよー」


 エイミーもその本を貰っていた。

 あれ?僕だけもらっていないんだけど。


「アンディは貰っていないの?」

「貰っていないね……」


 なんで僕だけもらっていないんだろう?

 エイミーが国王の娘だから早く覚えるためとか?


 どっちにしろ、僕も今後その本を覚えることになるのか。

 想像しただけでも面倒くさそう……。


「じゃあこれは聞けないかあ」

「というよりそれは暗記系だから僕がどうこう言えないと思うけど」


 中身はやり方や、こうした方がもっといいと書かれている。

 僕から言えるのは頑張って覚えて、としか言いようがない。


 これは教えることができないから、別のにしよう。


「ほかに何がある?」

「いろいろとあるよー。ここに全部書いてある」


 そう言って渡してきたのは一枚の紙だった。


 タイトルかのように一番上には『勉強強化週間』と書かれていた。

 …なるほど、だから量が多いのか。


「でもこれは一週間のうちにやるんだよね?」

「そうだよ!でもできるだけ早く終わらせておきたいから」


 エイミーが言うと、お姉ちゃんも同じだというように頷いていた。

 正直、この2人が言うと企画倒れしそうだ。


「がんばろうっていう気持ちはいいけど、この量は一日で終わらないと思うよ」

「「ええぇー!」」


 流石に僕でも無理だよ。

 どれだけ頑張っても2日はかかる。

 あっ、スキルを使ったら余裕で終わるだろうけど。


「やる気なくなってきたー」

「お姉ちゃんもー」

「はやっ!?せめてこれだけでも――ん?」


 エイミーの本の束から一枚の紙が出てきた。

 これはなんだろう?


「魔法学について?」


 お姉ちゃんの方にもあるかと思って見てみたら同じように紙があった。

 だけど内容は違っていて、お姉ちゃんの方は魔法陣学だった。


 魔法学と魔法陣学の違いはある。

 正確に言うと、魔法学の中に魔法陣学がある。

 魔法学は大きな括りで、その中に魔法陣学がある。


 僕はとりあえず紙に書いてある本を見つけだした。

 少しだけ薄い気がするけど。


 魔法学の方はたくさんのことが書かれているのかなあと思ったらそこまででもなかった。

 精々、こういう時はどっちの魔法が有効か、などだけ。


「ねえねえ、二人とも」

「「なーにー?」」

「お姉ちゃんはこれ、エイミーはこれをやってみない?」


 いきなり得意分野だけど、モチベを上げるなら最初にやらせても大丈夫だろう。


「じゃあやってみるね」

「すぐ質問するかもしれないよ?」

「その時になったら声をかけてくれればいいから」


 2人はブツブツ言いながらも、勉強を始めた。

 集中し始めると、2人は周りが聞こえなくなっていた。

 好きな分野だからスラスラといけるのだろう。


 さて、僕は何をしていようかな。

 さっきの作法の本でも読んでみようかな。

 今後この本が渡されそうだし。


 と言っても内容が内容なだけに本はぶ厚い。

 2人が終わるときに読み終わるかなあ。

 いや、普通に考えたら無理だろう。


 時間がないし、スキルを使って読んでみよう。

 早めに読んでおけば2人に教えられるかもしれないし。


「スキルオープン」


 何を使えばいいんだろう?

 時というのがあるけど、なんかスケールが大きいな。

 他のでもいいと思うんだよなあ。


 思考があるからこれを使ってみよう。

 考えるのが早くなって内容もすんなり入ってきそうだし。


 スキルを上げ、試しに読んでみた。


 これはすごい、1ページを読んだ瞬間に内容が頭の中に入ってくる。

 隣のページも同様、見た瞬間頭の中に入ってくる。


 これ前の世界で使えたら教科書丸暗記できるよなあ。

 こっちに来てから思うけど、前の世界ってけっこう不便だったんじゃないのかな。


 いや、これもスキルがあったからなんだけどね。

 不便じゃなくて今が便利すぎるなだけだ。


 それから2人は集中して勉強、僕は本を読んでいた。

 半分ぐらい読んだときだった。

 部屋のドアがゆっくりと開いた。


「おー、みんなしっかりとやっているな」


 小声だが、お父さんが見に来たようだ。

 2人とも自分の部屋にいなくてこっそりと見にきたのかな。


「あ、あれ?アンディが作法の本を読んでいる……」


 一応、僕も集中しているから目線は本のまま。

 でも声だけは程よく聞こえる。


「まいったなあ。アンディが今の年でやらせるとやることが無くなってしまうぞ……」


 おっ!これはいいことを聞いた。

 それなら早く終わらせて自由な時間を増やそう。


「うーん、どうしたものか。早く終わったらデトラーに頼んで体験入隊でもさせるとか?」


 へぇー、体験入隊なんてあるんだ。

 子供のうちに仕事体験なんてあるぐらいだし、いいかもしれない。


 問題は頼む相手だ。

 たしかデトラーさんは魔法学者。

 それで研究とかでよく缶詰め状態じゃなかったっけ?


 それは流石に嫌だよ!

 それだったらゆっくり勉強していくから!


 僕はすぐに本を閉じた。


「これはやめて教える部分でも見てようっと」

「よかった、読み止めてくれた。これなら予定通りに行けそうだ」


 さっきから小声で聞こえないようにいっているようだけど、全部聞こえている。

 まあ聞こえたおかげでブラック企業体験は免れたけど。


 これからは、勉強はゆっくりやっていこう。

 早く終わってもいいことは少ない。

 そう思った日だった。

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