第29話 複写99

「ここにはあるかなあ」


 僕一人だけの時間が午前中の勉強とお昼ご飯の少しの時間しかない。

 趣味や調べたいことがあっても、この時間しか空いている時間がない。

 大体はエイミーかお姉ちゃんに流されるまま流されてしまうからね。


 僕が向かったのは古い書物がある書庫。

 人の出入りが全くないため、掃除は基本されていない。

 ドアを開けただけで中が埃っぽいとすぐに分かる。


「ここならありそうだけど、うーん……」


 調べようとしているのはドラゴンについて。

 それと一緒にあればだけど、ディオスについて調べておきたい。


 数ある本や紙の束を手に取って目を通した。

 大雑把だが、漁ってみると結構出てくるもんだな。


「まずはこの本から。中身は…絵本か」


 昔々、一人の男とドラゴンがいた。

 二人はとても仲が良く、年がら年中一緒にいた。


 そんな時、人間の住んでいる村に別のドラゴンが襲い掛かってきた。

 その村には男の家族が住んでいたため、男は家族のためにドラゴンと戦った。


 だが相手はドラゴン、戦うも敵わずに命を落としてしまう。

 それを聞いたドラゴンは、村を襲ったドラゴンを倒しに向かい、ドラゴンを倒した。


 友達を助けたドラゴン、だけどドラゴンは同類を倒してまで人間を助けたため、ドラゴンの世界で蔑まれる存在になった。

 ドラゴンはドラゴンの世界にいられなくなり、二度とドラゴンが村を襲わないよう、人間を助け周ることにした。


 その後、そのドラゴンは人間から神様と呼ばれるようになり、生涯人間のために生きたとさ。


「ハッピーエンド、とは言えないなあ」


 あまり子供向けというようなものではない気がする。

 だからこうして書庫にしまわれているんだろう。


「懐かしいですね、その本」

「うわあ!?」


 後ろを振り向くと、そこにはルーシュがいた。


「びっくりした……」

「すみません、書庫が空いていて気になったので」


 びっくり系は本当に勘弁して……。

 心臓に悪いから。


「この本知っているの?」

「はい、私が子供のころはよく読みましたので」

「そうだったんだ」


 子供向けとは思わなかったけど、読まれていたみたい。


「なんで古い本を漁っているんですか?」

「ちょっとドラゴンについて調べたくて」

「あー、なるほど。そういうことでしたか」


 別にこそこそ隠れてやるつもりではなかったし、素直に話した。


「それでしたら……あったあった。これが一番よく載っていますよ」


 僕が集めた本の中から一冊の本を取り出した。

 集めた中でもけっこう薄い本だ。


「これはドラゴンの生態などの調査一覧です。一番手っ取り早く知るのには一番かと」

「ありがとう。よく知っているね」


 書庫なだけあって本や書類などが山のようにある。

 それなのに瞬時に一冊を選んだ。


「実はよくここで本を読んでいたんですよ」

「えっ、この埃だらけの部屋で?」

「その時はきれいにしてましたよ!ただ読み終わってから全然来なくなってしまいましたが」


 そうだとしても記憶力凄いな。

 もうずっと来ていないのに覚えているって……。


「それでどうですか?」

「少し読んでみるよ」


 さっきはドラゴンの文字が見えたからとりあえず候補の中に入れた。

 改めて中を見てみると、確かにドラゴンのことが書かれていた。


 だけどほとんどは空白、もしくは不明と記載されていた。


「資料というほど資料じゃないね」

「そうなんですよ。大体はすぐ倒してしまいますので。あの絵本もフィクションですし」


 こっちの世界ならありそうな話だけど、それでもフィクションだったのか。


 それにしても情報が少なすぎる。

 ここにならあると思ってきたけど、ほとんどなかったし。


「王国に行けばもっとある、とか?」

「恐らくないと思いますよ。その資料には一番最近の目撃情報まで書かれているので」

「えっ、でも最後って――」

「はい。30年ほど前です」


 どうしよう、僕ほんの数日前に見たけど。

 それも一番偉そうなドラゴンに。


「ドラゴンについて知りたいのでしたら、こちらもおすすめですよ」

「これは?」

「ドラゴンの鱗についてです!」


 ん?なんでそんなに嬉しそうに言っているんだろう?

 ルーシュってドラゴンが好きだったのかな?


「ちょっと読んでみるね」


 中を見てみると、ドラゴンの鱗について描かれていた。

 強度、魔法耐性、防具としてどうかなどいろいろと。


 後ろの方には、こういう鱗もあるんではないか?という考察もあった。

 その中に、モフモフとしたドラゴンの絵があった。


「……なるほど。このモフモフに惹かれたんだ」

「よくないですか?ドラグノールもそうですが、自分より大きいモフモフ!最高じゃないですか!」


 これはまずいことが起きた。

 僕は知っている。

 ルーシュがモフモフについて語ると長いことを。


 どうにかして回避しなければ!!


「そ、そうだルーシュ」

「どうしましたか?おすすめのモフモフでしたら――」

「手が空いているならこの部屋を掃除しない?ずっとしてなかったんでしょう?」

「構いませんが、それでしたら私が全部やりますよ」


 よし!話をうまく逸らせたみたいだ!

 後はこのまま押し切れば大丈夫だ。


「僕も手伝うよ。欲しい情報はあまりなかったし」

「でしたらお掃除道具を持ってきますね」


 ルーシュは駆け足で掃除道具を取りに行った。

 この前エイミーに廊下は走っちゃダメって言っていたのに……。


「よし。じゃあ今のうちにこれを写しておくか」


 この本自体を持っていきたいのは山々だが、流石に古くて持ち歩くのは危ない。

 だから何かにメモしたりしておきたいんだけど。


「やっぱりこれだよね。スキルオープン」


 いつも通りスキルに頼ります。

 一応メモ代わりになる紙は持ってきた。

 手を速く動かす、だと鉛筆と紙が摩擦で燃えそう。


 普通に複写というのがあった。

 これならすぐ終わりそうだ。


「これで――ん?」


 使える魔法を見ていると、驚いたことに複写にも分身ツインズがあったのだ。

 どうやら一つの魔法でも、複数のスキルに入っているようだ。


「まあそれはさておき、複数化コピー


 本を目で見て、写したいところを思い浮かべて別の紙に手をかざす。

 すると不思議なことにまったく同じように写されていた。

 コピー機の進化版みたいだなあ。


 資料が少ないだけあって、そこまで時間がかからずに写し終わった。

 ちょうどいいタイミングで廊下から物音が聞こえた。


「お待たせしましたー!さっそく始めましょう!」


 ルーシュが嬉しそうに掃除道具を二人分持ってきた。


 言い訳のために言いだしたけど、たまには頑張って掃除をしよう。

 息抜きで掃除するときってあるもんだからね。

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