第28話 読心99
「うーん……」
ここは…どこなんだ?
なんで僕はこんな暗い森の中にいるんだろう。
「とりあえず、森から出ないと」
暗い森なだけあって気味が悪い。
あまり長くはいたくない。
僕は必死に森の中を走っていった。
だがいくら走っても森からは抜け出せない。
「森広すぎるだろ!!」
走り続けて疲れると、僕は休憩をし始めた。
その瞬間、何か物音がした。
一体どこから音がしているんだ?
「上だ!!」
時すでに遅し、目の前にはもう大きなものがあったのだ。
そして僕はそのまま押しつぶされた。
「――はっ!」
そして目が覚めた。
なんだ、夢だったのか……。
それにしても嫌な夢だったな。
ひたすら走り続けて何かに押しつぶされたんだ。
目覚めが悪い。
「もう朝なのか。それなら起き――れない」
夢の続きなのか、何かに押しつぶされている感じがする。
恐る恐る視線を動かした。
「わんっ!」
「ドラグノールか……」
どおりで重くて全然動かないわけだ。
「何しているの?」
「わんわんっ!」
あぁ、お腹が空いたのか。
それなら普通に起こしてほしかったけど、そこまでは流石に無理か。
僕が起きるのを確認すると、ゆっくりとどいてくれた。
「ちょっと待ってね。すぐ用意するから」
部屋を出てドラグノールの食事を受け取り、ドラグノールに渡した。
ドラグノールは嬉しそうに食べ始めた。
「どうしよう、まだ眠い……」
悪夢を見たせいなのか、まだ寝足りない。
今から二度寝するのには遅いし、うーん……。
早めに勉強を終わらせてお昼寝でもしようかな。
その後、僕は朝食を食べ、お父さんから今日の分の勉強を受け取った。
そして部屋に戻ると中にはドラグノールがいた。
「もうご飯はあげられないよ?」
「ワンッ!」
もらえないと分かっていたみたいだけど、何でだろう。
暇なのだろうか、食事の為じゃなくて単に時間潰しのためにいるみたい。
「さっさと終わらせて仮眠しないと」
僕は早速勉強をするために机に向かった。
えっと、今日はこれだけだから…うん、いつもより早く終われるな。
これならたくさん寝れるでしょ。
勉強に取り掛かり始めた時だ。
妙に後ろから視線を感じる。
「……」
「……」
後ろではドラグノールがジッと僕を見ていた。
一体何なんだ?
今まで起こしに来なかったのに急に起こしに来たり、午前中はどこかで散歩しているのに僕の部屋にいる。
「何かあったの?」
「くぅーん」
ドラグノールに近づくと、頭を足と足の間に入れた。
これは『乗ってほしい』という合図だ。
「乗ってもいいけど、遠くへはいけないよ?」
「ワンッ!!」
分かった、と言っているような気がした。
遠くに行きそうならそのときに言えばいいし、乗ってあげるか。
「ワンッ!」
「ちょっ、いきなり走り出しちゃダメだって」
速度は抑えているものの、まだ家の中。
ドラグノールは安全に移動しているようだが、上に乗っている僕が怖すぎる。
向かった先は家を出て森の中。
入口すぐのところだ。
森かあ……。
今朝悪い思いしたばっかりなんだけど。
「それでどうしたの?」
「ワンワンっ!」
ドラグノールは急に森の中に向かって吠え始めた。
本当にどうしたんだ?
すると森の中から一人の男が出てきた。
「君がフェンリルの御主人なのかい?」
「ワンッ!」
「そうか、こんな子供がねぇ……」
えっ、ドラグノールが何を言っているのか分かるの?
そういえば試しに使ったときからけっこう日は経っている。
もう話すことができるのかも。
「ふむふむ、なるほど…面白い子だな。まるで小さな神様みたいな子だ」
「神様……?普通の人間ですが」
「隠さなくてもいい。そうだなあ、神様から何かを貰った人間とは少し異なった存在に見える」
背中に冷や汗が流れた。
もしかしてこの人、僕が貰ったことを知っているのか?
「おっと、名乗っていなかったね。私はディオスというものだ」
「アンディ・ルーク・デルクと言います。なんでこんなところにいるんですか?」
「ああ、それはこの姿を見ればわかると思うよ」
ディオスさんが急に光りだした。
危ないのか、光りだした瞬間ドラグノールに引っ張られた。
『これが私の本当の姿だ』
「おおぉ……」
それはドラゴンだった。
最近飛行船で見たからはっきりと覚えている。
でもどこか雰囲気が違う。
『これでもドラゴンの王とまで呼ばれているんだよ』
「だから他のドラゴンと違うんだ」
『ん?他のドラゴンを見たことがあるのか?』
「あっ……」
つい口が滑ってしまった。
普段は透明化をしているからドラゴンを見ることができない。
それなのにドラゴンを見たことがあると言ってしまった。
『安心したまえ。君たちもそうだし、人間にも危害を加える気はない。ただフェンリルを見かけたから声をかけ、一緒にいる者を見てみたかったんだ』
そういう事だったのか。
だからドラグノールがずっと僕を見ていたわけね。
『――っと、私はそろそろ行かなければならない。会えてよかった、アンディ。また会える日まで』
そう言うと透明化になり、飛んで行った気がした。
この前の飛行船の時に視覚を使ったが、ずっと見えているとドラゴンに気づかれそうだったので戻しておいたのだ。
だから実際に立ち去ったのかは分からない。
だけどドラグノールが空を見上げていた。
飛んで行ってしまったんだろう。
…見えているのかな?
「さて、終わったなら帰るけど、その前に」
「ワウ?」
ドラグノールが何を話していたか、ディオスさんは分かっていた。
そうなると、ドラグノールは話すことができるかもしれない。
「物は試し!スキルオープン」
言語を上げ、付与を使ってドラグノールに渡してみた。
今なら話せるだろう。
「ドラグノール、何か話してみて」
「ワンワンッ!!」
「あ、あれ?」
確かに言語を渡した。
だけどドラグノールは話すことができない。
失敗、なんてことがあるのだろうか?
いや、まだ他にも方法があるはずだ。
さっきチラッと見えた読心ならどうだ。
これを99まで上げてっと。
「ドラグノール、もう1回話してみて」
「ヴー、ワンッ!!」
「えぇ!なんでなのー!!」
なぜなのか、どうしてもドラグノールが何を話しているのかが分からない。
「何でだろう……」
「ワウ」
ドンマイ、と言っているかのように片足をポンッと僕に乗っけた。
これはスキルとか全然関係ないけど、言っていることは分かったよ。
なんでドラグノールが話していることが分からないんだろう。
フェンリルだからなのかな?
何がどうなって無理なのか全然分からない……。
「とりあえず、帰ろうか」
「ワンッ!」
このもやもやした気分の中、僕たちは家へと帰っていった。
*
『えぇ!なんでなのー!!』
「くっくっくっ」
空の上、ディオスは一人で笑っていた。
「これは面白いな。だいぶ苦戦している」
ディオスは一定の範囲以内なら耳に集中すると、小さな音まで聞き取ることができる。
今はアンディ達の会話を聞いているのだ。
「フェンリルが言っていることなど、私でも分からんわ!」
そう、元々ディオスは何となくで返事をしていたのだ。
ドラグノールはまだ、人の言っていることは分かるが自らは話せない。
まだ言葉を話せない子供だったのだ。
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