第27話 視覚99

「成功です!無事飛び立てました!!」

「実験は…成功です!!」


 歓喜の中、僕たちが乗っている飛行船が飛び立った。


 今日、僕たちはデトラーさんの誘いで飛行船のテスト飛行に呼ばれた。

 飛行船自体前の世界でも乗ったことが無く、興味があった。

 僕が行きたいと言うと、エイミーとお姉ちゃんも行くと言い出した。


 元々僕にではなく、お姉ちゃんに来た誘いだけど。


 飛行船に乗ったのは僕とエイミーとお姉ちゃん、それに子守りとしてお父さんだ。

 それに誘ってくれたデトラーさんがここにいる。


「すごいだろう。高く飛んで移動するのに便利だろう?」

「ドラグノールに乗れば――」

「エイミー、それは言っちゃだめ」

「はーい」


 それを言ったらダメなやつだ。

 それに、乗れるのは僕たち子供たちだけ。


 あっ、でも今ならお父さんたちが乗っても大丈夫かもしれない。

 けっこう大きく育っているし。


 そもそもドラグノールに乗るんだったら馬を使えばいい。

 そう言うのではなく、空だから山や森、海とか関係なく行けるってことだろう。


「これってどうやって動いているの?」

「まずは浮かせるために、重さを減らす魔法。それと浮かばせるために下に噴出している魔法、それに――」

「長い長い!ようするにたくさんの魔法を使っているんだろう!」

「まあそうだね。それを魔法陣でやっているから便利なんだ」


 凄さは詳しくは分からないものの、今までになかった技術だからすごいんだろう。

 デトラーさんがお姉ちゃんの魔法陣を見た時並みに喜んでいるし。


「だけど問題は山積みなんだ」

「例えばなんだ?」

「軽くするために素材が軽いんだ」

「それは知っている。作っているとき何回か覗いたからな」

「だから、ほら」


 そう言うとデトラーさんは飛行船の壁を殴った。

 もちろん軽い素材で出来ているため、そこに穴が空いた。


「「「「あああああ!!!!」」」」

「あはははっ、面白いだろう?」

「バカやってるんじゃない!どうするんだよこれ!」


 何をしているんだこの人!

 何笑顔で壁壊しているんだ!!


修復リカバリー、これで大丈夫だろう?」

「大丈夫だが、俺の心臓は大丈夫じゃない……」

「僕も……」

「びっくりしたねー!」

「ねー!」


 なんでエイミーとお姉ちゃんはそんな能天気なんだ。

 すでに飛行船は空高く飛んでいる。

 そのまま落ちてしまったら僕たち死んでいるよ……。


「まあようするに強度がないんだ」

「先に口で説明しろ!この馬鹿!」

「あたっ!!」


 ポカンッといい音でお父さんはデトラーさんに鉄拳を下した。

 うん、それ相応のことをしたからね。


「だからこれをどうするかを考えているんだ」

「これ以上強度ある素材でつくれないのか?」

「作れるけど、つくると今度は重すぎて浮かないんだ」

「軽くする魔法や噴出する魔法の威力を上げるのは?」

「それも無理なんだ。これ以上の魔法にするならその魔法を使える人が必要になる」

「ふむ……」


 ここは大人の仕事の会話。

 僕たちはあまり関わらない方がいいかな。


 いつの間にかエイミーとお姉ちゃんは全然違うところに移動していた。

 何をしているんだろう?


「何を見ているの?」

「鳥たちを見ているんだよ!」

「ほらっ!いつもはあんなに高いところにいるのに今は私たちより低い!」


 確かに高度は上がって鳥たちより高いところにいる。

 ここまで高いところにしなくてもいいんじゃないのか?


 いや、そうしないとだめか。

 鳥たちと同じ高さだったら鳥にあたり飛行船に穴が空く可能性がある。

 鳥たちより低いところにしたら高い木などに引っかかる場合がある。

 そう考えると適切な高さなのか。


「知っているかい?この空にはドラゴンがいると言われているんだ」

「「本当!?」」

「ああ、本当だとも。この飛行船は移動の手段もあれば、そう言った捜索のために使われるんだ」


 デトラーさんがいつの間にか後ろにいた。

 お父さんとさっき話していたけど、お父さんはどこに行ったんだろう?


 周りを探していたらお父さんは壁を見ていた。

 どうやら強度について考えているんだろう。


「どこにドラゴンがいるんだろう?」

「私はこっちを探すからエイミーは向こうを!」

「分かった!!」


 左右に分担して探している。

 そんな簡単に見つかるのだろうか。


「そんなすぐに見つかるのかなあ」

「難しいよ。いつも空を見ている人でも見つからないぐらいだし」

「じゃあさっきの話は……」

「いや、それは本当だよ。鱗が落ちてきたことがあったからね」


 危なくない、それ?

 雨どころじゃないでしょ。


「いろいろと説があるんだが、一番可能性があるのが透明化になっているという説なんだ」

「透明化、かあ」


 そりゃあずっと空を見ていても見つからないわけだ。

 透明で見つかったら透明の意味がないだろうし。


「なんで透明化になる必要があるの?」

「ドラゴンは何かと狙われやすいんだ」

「かっこいいから?」

「はっはっは、それもあるけどドラゴンの素材は他の素材に比べて強度があったりするからね」


 人間にも狙われているのか。

 狙われるならそりゃあ姿を消すよね。


「と言ってもそれは昔の話。今はこうして平和なんだ。ドラゴンを見つけるのは共存をするため、王国もそのためにこうた実験に多額のお金を出しているんだよ」

「へぇー、優しい王様だね」

「でしょう?国民全員が憧れる存在だからね」


 あこ…がれる……?

 いや、僕の場合が特別なだけなんだろう。

 プライベートの王様なんて普通見れないからね。


「それなら透明化を解く方法も見つけないとね」

「……あっ」


 その『あっ』は忘れていたのかな?

 何のために飛んだことやら……。


「デトラーさーん!」

「おっと、船員に呼ばれたから俺は行くね」

「がんばってねー」


 手を振るとデトラーさんは手を振り返してくれた。

 相変わらず忙しそうだなあ。


 そんな中、お姉ちゃんとエイミーは未だにドラゴンを探している。

 僕も探してみようかな?


「スキルオープン」


 何か透明化を解く魔法とかないかな?

 無効化っていうのがあるけど、そんなことしたら飛行船は落ちてしまうし。


 視覚っていうのがあるじゃん!

 これを99に上げてっと。


「どれどれ……」


 僕は外を試しに覗いてみた。

 そして驚きの光景を目にした。


「めちゃくちゃドラゴンいるじゃん……」


 大きさはバラバラだが、ざっと見ても10体以上いる。

 うそでしょ!?

 こんなにもたくさんいるのか……。


「アンディ、見つかった?」


 エイミーが声をかけてきた。

 …これは言うべきか?


「…いなかったよ」

「そっかー。じゃあもうちょっと探してみるよ!」


 そう言ってまた探すために外を見始めた。

 これ、僕が言わなくても絶対そのうち見つかるよ。

 だって、ドラゴンたち興味津々にこっちをずーっと見ているし。


 その後、飛行船は安全に着陸。

 ドラゴンは見つからない結果となったが、大きな進歩をしただろう。


 着陸した後もドラゴンは興味津々でずっと見ている。

 もしかしたら明日にでも出会うんじゃないのかな?

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