第26話 結界99
「雨やまないね」
「ねー」
風邪が治った数日後。
時季のせいもあり、ここ数日間雨が続いている。
僕とエイミーは家の窓から外を眺めていた。
「雨降っていると外で遊べないー!!」
「まあ無理すれば行けるだろうけど」
傘と言えるしっかりとした傘はないものの、似たようなものはある。
と言ってもそれはあまり使われることはなく、大体の人は頭に布を乗せているだけ。
よくそれで風邪を引かないよね。
「じゃあ家の中で遊ぶ?」
「うん!」
と言っても家の中で走り回るにはいかないし。
どうしようかなあ。
「何か遊びたいことあったりする?」
「うーん……」
前の世界だと、こういう時にうってつけのゲームがあった。
まあ雨だろうが晴れだろうがよくやっていたけど。
でもこっちにはゲームも無ければ長く時間を潰すおもちゃもない。
雨の日は子供にとって本当に退屈なのだ。
「そう言えばエイミーって今週の勉強を先に渡されたんだよね?」
「? うん、そうだよ」
それならちょうどいいな。
「それを先にやるのってどう?」
「…遊びに行くよー!」
逃げやがった。
こうやってまとめて出されるとき、大体は夏休みの宿題と同じ現象が起きる。
ようするに最終日に必死になりながら終わらせるのだ。
それに巻き込まれる僕。
だから早めに終わらせてほしいのだ。
でも作戦は失敗。
勉強の話を持ち出した瞬間、部屋から出て行ってしまった。
「エイミー様?」
「ルーシュ!」
エイミーの後を追うと、そこにはルーシュがいた。
時間が空いたのか、家の中を歩き回っていたみたいだ。
ルーシュも暇なのかな?
「エイミー様、廊下で走るのは危ないですよ?」
「わかったー!」
「はい、分かっていただければオーケーです」
たぶん、その『わかった』は分かってないと思う。
エイミーらしいと言えばエイミーらしいところだけど。
「そうだ!この前の魔法を教えて!」
「魔法、ですか?」
「うん!」
ルーシュの魔法は妖精を呼ぶ魔法。
そしてその妖精に頼み、いろいろな魔法を使う。
「たぶんできないと思いますよ?」
「「えっ!?」」
まさかの答えだった。
「なんでー!」
「いえ、必ずできるとは限らないというだけです」
「可能性が低いってこと?」
「まさにその通りです」
妖精は妖精の意志で呼びかけに応えて出てくる。
呼んで必ず出てくるわけではない。
「私の一族は代々妖精と契約をしているのでいつでも来てくれるんです」
「僕たちは契約をするのは無理なの?」
「残念ですが、妖精は元々契約をしない種族ですので」
「??」
「えっとですね」
僕の先祖様のおかげで今の僕があるように、ルーシュの先祖様も同じように功績を残していた。
その先祖様は妖精と仲が良く、ルーシュの家系は全員契約をできるようになっている。
「それでも試しにやってみますか?」
「「やってみる!!」」
それでも挑戦してみたい。
もしかしたらの可能性でも賭ける価値はあると思う。
「それでどうやればいいの?」
「心の中で『おいで!』って思いながら呼ぶんです」
「「……」」
「仕方ないじゃないですか!私もこれ以上知らないんですから!!」
もはや誰でもできる可能性があるんじゃ……?
いや、入り口を大きく見せて相当狭いということかもしれない。
とりあえずやってみようか。
「「おいで!」」
僕たちは妖精に呼び掛けた。
…反応なし。
この前氷の花を貰えたから来てくれるかと思ったけど、そこまでは優しくはなかった。
僕の方はダメだったけど、エイミーの方はどうなんだろう?
「きたー!!」
「「えええぇぇ!?」」
この前見た妖精とは違うけど、しっかりと妖精が出てきた。
嘘でしょ!?
魔法の才能があると言っていたけど、それはズル過ぎる!
人のこと言えないようなものを僕は持っているけど。
もしかしてスキルでどうにかなるんじゃ……?
いや、それはやめておこう。
無理やり妖精に来てもらうのも嫌だし。
「どんな妖精に来てもらおうとしたの?」
「水の妖精!」
エイミーがそう言うと妖精は水の泡を出した。
本当に水の妖精のようだ。
「でもなんで水の妖精なの?」
「この雨を止めてもらおうかと思って!」
なるほど、結構大胆な考えだな。
妖精はその言葉を聞くと驚き、エイミーの方を向いた。
そして全力で首を横に振った。
「無理そうだよ」
「えー!そんなー……」
逆に水の妖精なら雨を降らせるんじゃないのかな?
妖精は窓のほうへ行き、外を見上げた。
すると妖精は窓を開けて外に出ていった。
「あっ!」
「何をする気なんだろう?」
「水の妖精は雨が好きなので遊ぼうとしているんじゃないんですか?」
本当だ。
外に出た瞬間、一番いい笑顔をしていた。
そんな水の妖精は手招きをしていた。
「来て欲しいみたいだね」
「でも雨に濡れちゃうよ?」
「傘は確かあるし、外に出ようか」
数はないものの、3本ぐらいはあったはず。
「あっ、それなんですが……」
「何かあったの?」
「ドラグノールが……」
ドラグノールが何かと思い、噛んでしまったため穴だらけになってしまったようだ。
今は修理中とのこと。
ドラグノールめ。
ちょうどいいタイミングでなんてことを。
「じゃあどうすればいいのー?」
「ちょっと待ってて。スキルオープン」
何か傘の代わりになるものはないかな?
傘、なんていうスキルはないし。
探したところ、空間系の結界というのがあった。
これで何とかならないかな?
結界を上げてっと。
「とりあえず玄関に行こうか」
この窓から出れなくはないけど、流石にやめておくべきだろう。
僕たちは玄関へと向かった。
後はスキルを使って外に出るだけ。
スキルで使う魔法は
まずは何もない空間をつくり、後は自由にカスタマイズができる。
僕が設定したカスタマイズは『雨をはじく』だ。
たったこれだけでこんな空間をつくれるなんて。
またすごいスキルを見つけてしまったな。
「これで外に出られるね」
「坊ちゃまはまた珍しい魔法を覚えましたね」
「まあ、ね」
さりげなく頭を撫でられた。
嫌な気はしないな。
妖精は僕たちが出るのを見ると、動き出した。
「何かするみたいだよ!」
すると妖精の後ろに大きな水の塊がつくられた。
それは3つあり、人の形をしていた。
「僕たちのようだね」
「すごーい!!」
「綺麗ですね」
器用に再現されていた。
そして水は形を変えて3人の男の姿になった。
どこかで見覚えがあるな……。
思い出した!
「あれは、確かご先祖様だ」
「知っているのですか?」
「うん、古い本に似顔絵が残っていたから」
でもあとの2人は知らない。
さっき僕たちがいた位置から考えると、エイミーのご先祖様とルーシュのご先祖様なのかな。
二人とも威厳がある姿だった。
もしかしてだけど、水の妖精はご先祖様たちと一緒にいたのかな。
「これも何かの縁なのかな」
「「??」」
「ごめんごめん、独り言だよ」
たくさんの時が流れても僕たちは一緒にいる。
それが嬉しいからなのか、このように表現したみたい。
妖精はそう言っているように見えた。
「あっ!消えちゃった!」
「きっと用があった帰ったのじゃないでしょうか?」
いや、きっと満足して帰ったんじゃないかな。
僕たちの姿を見て。
「見て!晴れてきたよ!!」
空の雲は晴れていき、太陽が顔を出した。
そして大きな虹が現れた。
不思議と、今まで見た虹の中で一番きれいに見えたのは気のせいなのだろうか。
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