第24話 切削99

「ドラグノールー?ドラグノールー!」


 お昼が過ぎて午後。

 ドラグノールにご飯をあげるために探していた。


 いつもならしっぽを振りながら僕やエイミーが来る前にやってくる。

 なのに今日に限って来ない。


 ちなみにだが、ドラグノールのごはんは3食になった。

 お父さんが人間と一緒に3食食べたらもっと大きくなるんじゃないか?という発言のせいで。

 もちろん大きくなっていった。


 当の本人は忙しくて仕事ばっかりなのに。

 でもしっかりと餌は用意されている。


「今日は大好きなりんご肉なのに……」


 たまにリリスが血を貰いに来るとき、お肉とりんごを混ぜたお肉を持ってきてくれる。

 僕たちはこれをりんご肉と呼んでいる。


 この前ドラグノールに内緒で試しに食べてみたらめちゃくちゃ美味しかった。

 果実系はいい味付けになるようだ。


 でもこれはドラグノールが全部食べてしまうので普段は余ることが無い。

 ドラグノールが体調を崩したときしか食べられないと思った方がいいかな。

 食べたい気持ちはあるけど、そういう日が来ないでほしい。


「うーん、どこに行ったんだろう?」


 家の中を歩き回ってもいない。

 庭にいるのかと思い、探し回ってもいない。

 一体どこに行ったんだか。


 その時、ふと朝話した内容を思い出した。

 それはお姉ちゃんと話した内容だ。


「アンディ、何かした?」

「何かって?」


 急な話でよく分からなかった。

 というより心当たりがない。


「この前作った岩の熊。欠けていたんだよ」

「欠けていた?」


 簡単に作られたけど、硬さは岩並みにある。

 でもその岩を傷つけるなんてそれ相応のことがないと無理だろう。


「雨でとかじゃないよね?」

「最近降っていないじゃん!」

「そうだよね……」


 雨で欠けたり風で脆くなったのかなあと思った。

 けどそれにしても早すぎる。


 意図的に誰かが傷つけたと考えてもおかしくない。


「まあアンディじゃないなら、野生の動物が傷つけちゃったのかなあ?」

「そうじゃないかな?」


 あそこにいたのは僕だけ。

 でもあの後、リリスやエイミー、家族全員まで知っている。

 何せあれだけ大きいからね。


 ちなみにだけど、みんなの評価は高く、特にリリスとエイミーの評価は高かった。


 そんな話を思い出したのだ。


「もしかしてドラグノールがあそこにいたのかな?」


 なんとなくだけどそう思った。

 とりあえず行ってみよう。


 岩の熊がある家のはずれに向かった。

 向かっている最中、何か掘るような音が聞こえた。


「何の音だろう?」


 まさか犯人が今いるのか?

 僕は気になり、小走りで向かった。


 そこには思った通り、ドラグノールがいた。


 でも何をしているんだろう?

 さっきから頭を岩の熊にぶつけているけど。


「ドラグノール、どうしたの?」

「ガウッ!」


 声をかけるとドラグノールがこっちを向いた。

 何やら不満そうな顔をしているけど。


「何してたの?」


 そういうと、また岩に頭をぶつけた。

 いや、それにしては違和感がある。

 普通に頭をぶつける音とは違っていた。


 横から見てみると、角を岩にぶつけていた。

 頭から生えた角はいつの間にか30センチぐらいの大きさになっていた。

 ……こんなのあったっけ?


「もしかして削っていたのか?」

「ワンッ!」


 よく見ると凸凹していてお世辞にも綺麗とは言えない。

 形でも整えていたんだろう。

 そのせいで岩の熊が削れてしまったのだ。


「うーん、それなら何か整える方法でもあればいいんだけど」


 エイミーたちが気に入っているこの岩の熊をこれ以上傷つけるのは良くないと思った。

 せっかくお姉ちゃんがつくったんだし、壊すのももったいない。

 まあ2体もあるけど。


「スキルオープン」


 何かないかと探し始めた。


 まずはどれがいいスキルなのかだ。

 問題は角の硬さ。


 あの岩で削ろうとしていたが、全然削れていない。

 それほど頑丈なのだろう。


 何で削ったらいいんだろう?

 もしくは削り方が悪かったのかな?


 スキルの中に切削というのがある。

 これを上げてまずは試してみよう。


「ん?普通に削れそうだけど」


 削る対象を見ると普通に削れることが分かった。

 単純に削るのが難しかったのかな。

 まあ顔を動かして角を削っているんだから難しいんだろう。


「ちょっとこっちに来て」

「ガウッ?」


 僕の近くによると止まった。

 もう十分大きくなっており、ドラグノールは立ったまま。

 辛いだろうけど、少しの間だけ我慢してもらった。


 削るのは厨房でぬす――借りてきた砥石だ。

 これならよく削れるとスキルが教えてくれた。


 さっそく僕は削り始めた。


 最初は大きく削り、徐々に小さく削っていく。

 まるで工作の仕上げをしているみたいだった。


 やがて綺麗に整い、削り終わった。


「はい!終わったよ!」

「ワンッ!」


 ドラグノールは嬉しそうにしっぽを振っていた。


 よかったよかった。

 喜んでいるなら僕も嬉しいよ。


「どうしたの?」


 ドラグノールは僕を上に乗っけたそうにしゃがんで僕を突っついてきた。

 何処かに行きたいのかな?

 とりあえず乗ってみた。


 するとドラグノールは急に走り出した。


「ちょっ!速すぎるって!!」

「ワウッ?」


 まだ全然本気出していないんだけど、みたいな言い方だった。

 いやいや、これ以上速くなったら気づいたら僕が消えているよ。


 長いこと走り、着いたのは海だった。


「海かぁ……」


 一体いつ見つけたのだろうか……。

 それにしても、久しぶりに海を見たな。


 こっちに来てからは一度だけ見た。

 場所も遠いだけあってここ数年来ていない。


 わざわざここまで連れてきてくれたのはなんでだろう?

 きれいなところを見つけたから連れてきてくれたのかな。


 そう思っていたら、ドラグノールは海に向かって吠え出した。


「何かいるの?」


 そんな時、ドラグノールの角が光りだした。

 えっ、それって光るの?


 すると目の前に大きな竜巻ができた。


「えっ……」


 竜巻は海に突っ込むと、水と一緒にたくさんの魚が獲れた。


「すげぇ……」


 魔法、だろうね。

 いつの間にかそこまで成長していたなんて……。


 たくさん獲れた魚は僕のほうへと渡してきた。


「もしかしてお礼?」

「ワンッ!!」


 わざわざお礼だなんて。

 なんてできた犬何だろう。

 いや、フェンリルだった。


「ありがとう。量も多いし、帰ってみんなで食べようか」

「ワンッ!」


 ドラグノールは器用に小さな竜巻をつくり、魚を運んだ。


 家に持って帰ると、家族はみんなして喜んでいた。

 理由はまだ魚は貴重だったためだ。


 こっちではまだ冷凍で運ぶことが無い。

 運搬に魚を凍らせればいいんじゃないのか?

 と思ったけど、その方法はまだ知られていない。

 今後に商法として使えそうだから黙っているけど。


 その後、魚を料理してみんなで美味しく食べた。

 主役のドラグノールも一緒に。

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