第11話 睡眠99?

 朝、いつも通りに食堂へと向かう途中、廊下でダルダが誰かと話していた。


「おはよう、ダルダ」

「おはようございます、坊ちゃま」

「えっと、この人は…たしか……」

「エイミー様に仕えているダルガと申します」


 そうだ、この人はエイミーにじいやと呼ばれていた人じゃん。

 だけどなんでこんなところに?


「実はわたくし、ダルダの兄なんですよ」

「あぁ!そうだったのか。通りで似ているわけだ」


 髪型は違うものの、顔はけっこう似ている。

 こうして顔を並べるまで全然気づかなかったけど。


「ごめんね、兄弟水入らずのところに入ってきて」

「いえいえ、構いませんよ」

「それに朝の挨拶をしないほうが印象は悪いですし」


 挨拶しておいてよかった。

 朝の挨拶ぐらいはしっかりしないと。


「もうみんな中にいるの?」

「ええ、あとはエイミー様だけです」


 エイミーのことだし、まだ寝ているのかな?

 食堂に来るのも大体エイミーが最後だし。


「そうだ、よろしければ起こしに行ってもらえないでしょうか?」

「僕が?」

「ええ、適任だと思いまして」


 ああ、なるほど。

 そういえばあの話がもう飛び交っているんだっけ。

 そういうことなら僕が行ってもいいかな。


「わかった。じゃあ起こしに行ってくるよ」

「ええ、お願いいたします」


 ということでエイミーの部屋へ。


 エイミーの部屋は僕やお姉ちゃんの部屋から少し離れている。

 その理由は、お客さんが泊まる部屋をエイミーの部屋として使っているためだ。

 だから今は少し遠い部屋に住んでいる。


「エイミー、朝だぞー」


 ノックしても声をかけても返事がない。

 まだ寝ているのかな。


「入るぞー」


 ドアを開け、部屋の中へと入る。

 ベッドではまだエイミーが寝ていた。


「やっぱりまだ寝て――あれ?」


 僕は何度かこの部屋に入ったことがある。

 その記憶が正しければ、この部屋はまるで別のところにつながっているようだった。


 来客用の部屋だけあって、多少はいい家具を置いてあった。

 だけど、それらすべての家具がなくなっている。

 全部エイミーの物へと変わっていた。

 下手したらさらに高いものなっているんじゃ……?


「まさか全部持ってきたのかな?」


 流石王女様だなあ。

 まさか全部変えるとは……。


 それはいい…とまでは言えないけど、今はエイミーを起こさないと。


「エイミー起きてー」

「ん~……」


 むぅ、起きる気配がないな。

 さては昨日の夜、夜更かしでもしたのか?


「ほら起きて。みんなもう待っているよー」

「アンディー……?」

「そうだよ。いいから早く起きてー」


 ようやく目を開けた。

 っておい!また目を閉じるなよ!


「また寝ないでよ!」

「アンディー…ちょっと……」

「ん?」


 エイミーが手招きしている。

 もしかして体調が悪かったのか?


「えいっ!」

「うわっ!?」


 いきなり首に手を回され、ベッドへと引きずり込まれた。


「アンディも一緒に寝よ?」

「だからもう起きないと――」

「すぅ……」

「もう寝ているし……」


 どうやらまだ寝たいがために僕を巻き込んだみたい。

 それにしてもこのベッド、すごくふかふかだな。

 これも持ってきたのかな?


 やばい、段々眠くなってきた。

 ミイラ取りがミイラになるってこういうことか……。


 僕はいつの間にか寝てしまった。


*


「坊ちゃまとお嬢様がまだ来ませんね」

「どこかに行かれたんでしょうか?」


 ダルダとダルガはなかなか戻ってこないアンディとエイミーのことが気になっていた。

 何せもう30分と時間が過ぎているのだから。


「何か問題があったのでは大変です。様子を見に行きましょう」

「そうですね」


 二人はアンディが向かったエイミーの部屋へと向かった。


「珍しいですね。坊ちゃまがこうして戻られないのが」

「そうなのですか?こちらはいつもこんな感じですよ」

「エイミー様はいつも元気ですから」


 二人はやがて、エイミーの部屋の前に着いた。


「坊ちゃま、お嬢様。いませんか?」


 ノックをしても反応なし。


「中に入りますよ。失礼します――おや?」


 中に入ると、アンディとエイミーは仲良く寝ていた。


「なるほど、そういうことでしたか」

「本当に仲がいいですね」

「これは将来安心できます」


 二人は仲良く寝ているアンディとエイミーを見ていた。

 ダルダとダルガにとっては、二人を生まれてからずっと見てきている。

 自分たちにとっては孫のようにかわいがっていた。


「こうして二人が結ばれたのは何かの縁なんでしょうか」

「分かりません。ただ旦那様方が考えて、わざと結婚まで持っていったのかもしれませんよ」

「はっはっはっ。本当にありえそうですね」


 そう、ジャックはサボって遊びに来るような人間だが、しっかりとした国王だ。


「国王様もしっかりと仕事をして下さったら『真の第六感』の名に恥じないのですが」

「自分の主人をそんな言い方で呼んではだめですよ」

「そうですな」


 『真の第六感』と呼ばれる国王は、名前通り第六感が他に比べ鋭い。

 貿易、軍隊、政治、どれにおいても的確な指示を出し、普通以上の成果を得ている。


 ただ残念なことがあり、その分何事もサボりがちになってしまうことだ。

 そんな国王を動かせるのは、オリヴィアとエイミーだけ。

 他の人がどう言おうが動いてくれなかったり、いつの間にか消えていたりする。


 幸いなことに第六感は国王の時だけしか働かないことだ。

 そのため、城や部屋を抜け出そうともすぐオリヴィアに見つかってしまう。


「アンディ様も国王様みたいに才能がございますので将来が楽しみですな」

「もしかしたら国王様をも超えるかもしれませんぞ?」

「はっはっはっ、それなら二人の姿を見れるよう、長く生きたいですな」


 二人はアンディとエイミーの将来を想像していた。

 二人ともこの年ですでに才能があると認められている。

 このまま成長すれば、歴史上一番の国王と王妃になれるかもしれない。

 ただアンディが国王を継げばの話だが。


 ここにいないカラリアも同様に才能があった。

 だが、この時はまだカラリアの才能について、誰も気づいていなかった。


「お二人はこのままお休みにさせてあげましょう」

「そうしましょう。旦那様には私から言っておきます」

「そうしてもらえると助かります」


 ダルダとダルガはそっと部屋を出た。

 天使の寝顔をしている二人を起こさないように。

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