第6話 言語99

「森に行くわよ!」


 あまりに急すぎる。

 いきなりどうしたんだよ。


 今は勉強が終わり、昼飯を食べ終わった午後。

 エイミーは突然森に行きたいと言い出した。


「なんで森なの?危ない動物もいるんだよ?」

「知っているわ!でも森に行きたいの!」


 いや、行きたい理由を聞きたかったんだが……。


「お姉ちゃんはどうする?」

「もちろん付いて行くよ!二人が心配だからね」


 ということで、僕たち3人は森に行くことに。


 実は僕の家ここから歩いて数分のところに森がある。

 この前ルーシュと一緒に行った丘付近だ。


「僕たちはまだしも、エイミーが勝手に外に出ていいのかな?」

「何か言った?そんなことより早く行こうよ!」

「あっ、ちょっと待ってよ!」


 ああもう!

 自由勝手すぎる!!

 それに、そんな勢いよく曲がると誰かに当たるかもしれないぞ。


「キャアッ!」


 ほら見たことか。

 勢いよく部屋から出て、廊下で誰かとぶつかったみたい。

 でも誰がいるんだろう?


「いたた……」

「すみませんエイミー様!」

「あれ、ルーシュ?」

「坊ちゃま……!」


 どうやらエイミーは勢い余って廊下でルーシュとぶつかってしまったみたいだ。

 まあ、これはエイミーが悪いね。

 注意不足だ。


「それで何しているの?お仕事のほうは大丈夫なの?」

「はい。皆さんが午前中でお勉強が終わりになったから監視……ではなく遊び相手をしなさいと旦那様から」


 監視ねぇ。

 僕も心当たりがあるよ。しかも今さっきあった。

 お父さんが言うってことは国王様から伝言があったのかな。

 エイミー、実家お城でも好き勝手やってたな?


「じゃああなたも一緒に行くわよ!」

「どこに行くつもりでしたんですか?」

「森だよ。ほら、この前いった丘の近くにある」

「あぁ……!でも今はあそこに熊が出ますよ」

「大丈夫!お姉ちゃんの私がいるから!」

「……もしもの時は私の後ろに隠れてください」


 ルーシュお姉ちゃんへの信頼度ゼロ!

 まあ、もしもの時は僕がどうにかするから。

 この中で唯一の男の子だし!


*


 僕はエイミーに手を引っ張られながら森へと向かった。

 お姉ちゃんとルーシュは後ろからついて来ている。


「ねえねえ!何かほかに魔法は使えないの?」

「うーん、あるにはあるけど。ちょっとまってて。スキルオープン」


 さて、今回は魔法か。

 どれを選べばいいんだろう?

 今回はけっこう悩む質問だ。


 確かに魔法という言葉があって、99まで振れる。

 でも問題なのはここからだ。

 魔法以外にも、火や水、雷といった魔法で使うようなモノまである。

 どれを上げればいいのか正直僕でも分からない。

 取扱説明書とか欲しいなあ。


 でも魔法は大体ゲームとかと同じだろうし、使うならもっと別のを使ってみたい。

 この言語なんてどうだろう?

 とりあえず言語を99まで上げてっと。


「えーっと、言語だから……」


 試しに振ってみたものの、何が変わったんだろう?

 そんなことを考えていると、頭上から声が聞こえた。

 上に誰かいるの!?


『いやー、ここもいいけど今度はもっと南に行きたいね』

『そうだね。少し下見しながら行ってみる?』

『いいね!さっそく行ってみよう』


 僕たちの上には鳥がいる。

 この言語というのは動物が何を話しているのかまでも分かるのか!


「おーい、アンディ?おーい!」

「あっ、ごめんね。使える魔法だっけ?」

「そうそう!何かないの?」

「あるよ。例えば――ほら、あそこにウサギがいるじゃん?」

「えっ、本当だ!可愛い!!」

「そのウサギが何を言っているか分かるよ」

「えっ!?」


 僕たちはウサギに近づき、僕は耳を澄ました。

 何かを言おうと口を開いている。


『こっちは危ないよ!早く逃げないと!!』

「こっちは危ないよ、早く逃げないとだって」

「「「「……えっ?」」」」


 自分で言っといてなんだけど、僕も声が出た。

 こっちは危ないって、危険な場所でもあるの?

 でも早く逃げないとって言っているから違うだろうけど。


 考えていると、ウサギが危ないと言っていた方向から大きな熊が現れた。


「ガアアァァ!!」

「「「キャアアアッ!!」」」


 幸い、僕たちのほうまでは来ないで周りをふらふらしている。

 何か悲しそうな声を出している。


『いてえ、いてえよお!』


 熊はふらふらしながら泣いていた。

 痛いってことはどこかケガでもしているのか?


 あった!

 横っ腹の下らへんをケガしている。

 見ているだけで痛々しい、治してあげたい。


「アンディ!それ以上は危ないよ!」

「お嬢様!これ以上はお嬢様も危ないです!」

「アンディー!!」

「大丈夫、ちょっと待ってて」


 ケガを治すために熊へと近づいた。

 僕は防御と素早さは99にあげてある。

 念のために発動させておこう。


 それにしても動いていると治しづらい。

 そんなときにちょうどよさそうな攻撃力99もある。

 これを使えば抑えることもできそうだ。


「少しの間我慢しててね」

『な、なんだこの子供は!?なぜこんな小さな子供が俺を止められるんだ!?』

「ちょっと、動かないでよ。キズを治すんだから」

『ほ、本当か!?』

「本当だから少し大人しくして。回復ヒール


 やっと大人しくなってキズを治すことができた。

 キズの原因は、木の破片が刺さっているところから考えると、木から落ちてそれが運悪く刺さってしまったんだろう。


「「アンディー!!」」

「エイミー、それにお姉ちゃんも」


 エイミーとお姉ちゃんは勢いよく飛んできた。


「いきなりこんな危ないことしないでよ!」

「お姉ちゃんも心配したんだよ!!」

「ごめんなさい……」


 二人の目には涙が溜まっている。

 こんなに心配させちゃったんだ。

 本当に申し訳ない。


 そんな中、熊が僕たちのほうへ歩いてきた。


「お坊ちゃま、お嬢様、エイミー様!私の後ろに隠れてください!!」

『安心しろ。襲いなどしない。ただ話をしたいだけだ』

「襲わないってよ。それに何か話したいみたい」

「えっ?あっ、お坊ちゃま!」


 試しに僕が熊へと近づき、頭を撫でた。

 熊は嫌がるどころか、嬉しそうに頭を僕のほうへと傾けた。


『ありがとう、人の子よ』

「どういたしまして。それと人の子ではなくアンディ。僕にはアンディって名前があるんだよ。君は?」

『俺に名前はない。あっても意味がないからな。他の生物には俺の声が届かない』


 普通に聞くと鳴き声しか聞こえないからね。

 この中でも話の内容が分かるのは僕しかいないし。


『よければ名前を付けてくれないか?』

「僕が?付けちゃっていいの?」

『こうして話すなら名前がないと不便だろう?それにアンディになら付けてもらっても構わない』


 そんなこと言われても名前かあ。

 何がいいかなあ……。


「あっ、ダンフってどう?僕が知っているキャラクターから取ったんだけど」

『ダンフ…ダンフか、いい名前だ。俺は今からダンフだ!』

「よろしくダンフ!」

『ああ、こちらこそよろしく』

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