そして、グループリーグ、決着

 ジーゴのグループでは最後の対局が始まった。

 ほかのグループでも時間はややずれるが、控室から同時に対局場の部屋に案内されたほかの三人一組の二グループも同じ展開。

 それより前に組み合わせが発表されて既に対局を始めているグループはすべて四人のトーナメント戦。

 三人のリーグ戦のグループとは対局のスケジュールは違うが、優勝して次の予選に進むには、三人のリーグ戦同様二連勝しなければならない。その優勝者となる者の前に立ちはだかるのが、同じように勝ち抜いてきた者だけなのか負けた者も出てくるのかということと、三人のリーグ戦では予選通過者が現れない場合もあるという違いしかない。


 ともあれ、今皇居内で大会の対局が進んでいるのはその三グループのみ。

 そのほかの予選グループの日程はすべて終了していた。


「受付終了まで残り九日で、今日の参加人数は二十五人? 明日の参加者はいないかもなぁ」


「初日は二百人超えたんだっけ?」


 受付のテントでの参加者申し込みの集計は、皇居内での受付事務所で集計される。

 受付の時間が終了すると、スタッフたちの仕事も一つ減る。

 いくらかは緊張から解放され、事務室内の雑談の声もにぎやかになってくる。


「あぁ。で四日目くらいから急に増えたからこっちも大変だったけど……」


「今回も再挑戦者数も多すぎたよな。これまでの合計、延べ人数五千人超えたか?」


「竜車で片道五日間も掛かるくらい遠い場所から来たって言われたら無下には断れねぇしなぁ……。五千二百三十六人で予選通過者が八百二十七人……。この再挑戦者数の多さ……」


 毎日締め切り時間前のグループ編成では、この日のように三人グループが出来上がる。

 したがって予選通過者が出ないグループもあったが、それを考えても参加人数からの計算で、予選通過者は少なすぎる。

 受付担当のスタッフの一人がぼやいたように、再挑戦者数が多くなると自ずとそうなる。


「まぁ二次予選以降は一次予選の敗退者が再来するわけじゃない。受付の期日が過ぎりゃ人の出入りは落ち着くさ」


「ですね。今のところは……予選続行中のグループはみな最終戦になってますかね」


「おい、希望者の宿泊場所、用意してるんだろうな?」


「はい、今までの予選通過者には全員通知してます。全員宿泊希望だそうです。残りは今対局中の組の予選通過予定の人数分ですが……」


「報告によれば三組とも三局目に入ったらしいな。一勝同士が一組だから通過者一名は確実。あとは一勝と一敗の対局か。さて、どうなることやら……」


 一人のスタッフが一つのグループの結果を持ち込ん事務室にで入ってきた。


「二人目の予選通過者決まったか?」


「いえ。そのグループでは予選通過者なしとなりました」


 事務室内にどよめきが起こる。

 三人グループのリーグ戦では、そのような結果になることは珍しくはない。

 ただ、どのような結果であったとしてもグループの対局すべてが終わると事務所内はそのような空気が流れる。


「三局目終わるにしてもちょっと早すぎだな。途中で投了ってことか?」


「はい。それで、その組の最後の対局なんですが……」


 更に詳しい報告を受けると、事務所内のあちこちでやるせないため息が聞こえる。


「またあの爺さんか。本気出せば別に恥ずかしくもなともない戦績だったのに、隠居してなんでまた出てくるかね」


「さぁ……? 我々にも分からない世界ってあるもんですよ。さて、まだ二組残ってますからね。皆さん最後まで気を緩めないでくださいよー」


 報告に来たスタッフからの呼びかけで、事務所内は普段の雰囲気に戻る。



「……坊やはワシに、何のために参加したのか聞いたな?」


「あ、あぁ。うん」


 ジーゴはうなだれていた。

 検討する気力も失っている。

 かといって、全力を出し切ってはいなかった。

 ジーゴの心境は、道具屋での三番勝負の再現であった。


「ワシが聞いても良いか? それとそこの嬢ちゃん」


「何だよ」


 口ごもった声で返事をするミイワの態度は明らかに無気力。

 椅子の上で膝を抱えて顔をうずめている。


「嬢ちゃんも、この大会に参加した理由、このジジィに聞かせちゃくれんかな?」


「聞いて何になるんだよ。何かしてくれんのか?」


 そう言い返すのがやっとである。

 ミイワはジーゴとライオーの対局を傍で見ていた。

 しかし手が進んでいくにつれ、一局目の自分の勝利を疑い始めた。


「本気、出してなかったんじゃん。あたしとやったとき、この強さじゃあたしに普通に勝ててたんじゃん」


 認めたくはなかった。

 認めたら、この先生きていく手段が消える。

 何の根拠もない自分の強さに縋るしか気力を保てない少女は、そのことに気付いてからずっとこの姿勢のままだった。


「やっぱりそうだ。検討の時から疑ってた。変に緩い手を打つ。でも打ったんだから仕方がない。それに応じた手をあの子は打っていた。でもその緩い手は爺さんが打てる最善の手ではなかった。勝てる対局なのに、勝つつもりがなかったとしか思えない。俺だって……力の差がありすぎて太刀打ちできない……。この爺さん、何のためにこの大会に参加したんだ?」


 ジーゴも対局の中盤に差し掛かる前からそんな思いに囚われる。

 しかし冷静になるように努めた。

 それでも翻弄されたのは、単純に実力差によってのみであった。


 かくしてこのグループの参加者の戦績は、全員が一勝一敗。

 再挑戦も、しようと思えば出来なくはないがそのつもりがないジーゴとミイワ。


 スタッフが事務室に結果報告をするために退室した後の対局室は、重い雰囲気に包まれた。

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