第6話 洗濯

 清潔な香りが漂ってくる。


 お屋敷で最も広い2階中央のテラス。ミーナはそこで、床に擦らないよう気をつけながらシーツを広げる。物干し竿に一辺をかけ、皺ができないように裾を引っ張った。最後の1枚を干し終わると、テラスはシーツに埋め尽くされる。


 ミーナは青空を仰ぎ、太陽の輝きに目を細める。


 この天気ならば、洗濯物などすぐに乾いてしまうだろう。


 ミーナは家事が好きだ。


 仕事に没頭し、悠久の魔女に仕える日々は、ミーナにとって充実していた。ミーナは今まで〝召使いの幸せ〟とは、主のお世話を焼くことだと思っていた。ミーナはその気持ちを貫くために、今でも悠久の魔女のお屋敷を守っている。


 しかし、自分はもう誰の召使いでもないということを認めなければならない。悠久の魔女はもう、この世にいないのだから。


 そこまで考えてしまうと、どうしても感情が込み上げてくる。


 ――1人きりのお屋敷は、やはり寂しい。


 ふと風に頬を撫でられ、ミーナは笑顔になる。


 寂しくても笑顔になれるのは、カルヴァンのお陰だ。


 カルヴァンは悠久の魔女に封印されたため、フラスコの中で時を重ねることができない。逆に言えば、カルヴァンは誰の力も借りずに永遠の時を過ごすことができる。ミーナがいくら身の回りの世話を焼きたいと考えても、カルヴァンにはその必要がない。今までミーナがカルヴァンに会いに行くのは、ミーナが困った時と決まっていた。それはカルヴァンがミーナの使い魔だから。使い魔に使える主人などいるはずもないから、当然ではあるけれど。


 2人の勝負が始まってから1週間が経った。


 気付くと、前掛けのポケットが青白く光っている。ミーナは水晶を取り出し、紐を握ってくるくると回す。気付けば、勝負が始まってから毎日のようにカルヴァンと話をしている。


 ミーナは足取りも軽やかに地下室へ向かった。

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