第7話 効率

「待っておったぞ」


 寄り道もせず地下室へ向かったのがよかったのか、カルヴァンは快くミーナを迎えた。カルヴァンの機嫌がよければ、ミーナはそれだけで機嫌がよくなる。


「今日はなんですか?」


「植木鉢を見てくれ」


 待ちきれない子供のような台詞に、ミーナは苦笑しながら植木鉢を見る。


 魔草はミーナの掌ほどの大きさに育っていた。透き通り色素が抜け落ちた白い葉と幹は、その色とは相反して逞しく根を下ろしている。


「ここを見ろ」


 カルヴァンが示したのは幹の先端だ。そこはぷっくりと楕円形に広がっている。それはまさに花の蕾だった。小さな蕾は、自重に引っ張られて下を向いている。


「立派に育ちましたね!」


 ミーナの賛辞に、カルヴァンは何度も頷く。


「そうであろう。そこで、1つ相談があるのだが聞いてくれるか?」


 カルヴァンの持ちかける相談が、ミーナには何なのか想像もつかない。考えてみれば、カルヴァンがミーナに願いを請うことなど、今までにあっただろうか。ミーナはカルヴァンの役に立てるとあって、笑顔で了承した。


「魔草をもっと立派に育てるために、肥えた土が必要だ」


 カルヴァンの言葉に、ミーナは目を見開いた。


 魔草は立派に育っている。蕾があるのだから、今まで通りに水を与えるだけでも、立派な花を咲かせるだろう。それにも関わらず、カルヴァンは肥土を欲しがった。それほどまでに、カルヴァンは魔草を大切に育てているのだ。


「……俺様は効率を考えてだな」


 言い訳をするようなカルヴァンの口調に、ミーナは笑う。


「私もそうした方が良いと思います」


「だろう? それに魔草がそう言うのだ。早く育つために、もっと肥えた土をよこせとな。元魔王に命令するとは、まったく恐ろしく肝の据わった魔草よ」


 魔草が喋ったと聞いて、ミーナはまた笑ってしまった。


「カルヴァンって、意外とロマンチックなんですね」


「本当に魔草が言ったのだ!」


「はいはい」


 カルヴァンの言葉を聞き流し、ミーナは肥土がどこにあるだろうと考える。


「明日にでも川原へ行きましょう」


「むぅ」

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