第11話 果実工場への侵入

 城から約2キロメートル北側に果実工場がある。近隣の農園で収穫された果実を加工し、ジュースや果肉製品、果実酒を製造している大きな施設だ。そこは、かつて兵器の集積所として利用されていた軍事施設を改装したものだという。


 その建物を指さしてテラが呟く。


「あそこにね。ヤバイのがいるの」

あねさん、ヤバイのって何?」

「うふ。秘密兵器らしいわ」

「ほう」


 レイは指の骨をゴキゴキと鳴らしニヤリと笑う。こいつ、テラに対して反感を持っているのかと思ったが全くそんなことはなかった。何故か彼女を親分と慕う舎弟のようになっていた。あのような高度な法術を見せつけられれば当然かもしれないが、普通、姐さんとか言わないだろう。


「ここはね、もう半年くらい操業していないの。中で何やってるのかなあ」

「姐さん。それは怪しいですね」


 また言った。レイは完全に、テラの忠実な舎弟になっている。俺はそんなレイを見て噴き出しそうになるのだが、必死に堪えたのだがむせてしまう。


「どうしたハーゲン? 風邪でも引いたのか」

「いや、何でもない」

「ふん。緊張しすぎじゃないのか?」

「だから何でもない。お前の方こそ張り切り過ぎてしくじるなよ」

「大丈夫だ。ところで姐さん。どうやって入りますか? 城壁の表門は閉まっているし、通用門らしき所には歩哨がいる」

「正面から無理やり入るっていうのも面白そうね」


 その一言で、俺はまた吹き出しそうになった。冗談としか思えないし、何か下ネタが含まれているんじゃないかと勘ぐってしまった。


「じゃあ、俺に任せてください」


 レイは勇んで走り出そうとするのだが、その彼をテラは片手で制した。


「レイさん待って。ドカンドカンってあちこちぶっ壊すのも面白いけど、やっぱり隠密行動のほうが面白いと思うの。だからね」


 テラはニコニコと微笑んでいる。しかし、日中に堂々とあの建物に侵入する方法など想像がつかなかった。彼女は困惑している俺とレイの手を掴み、瞑目した。

 次の瞬間、俺たち三人は空高く飛び上がっていた。一気に数十メートルもだ。


「すぐ着きますから、暴れないでね」


 それは飛翔の法術だった。

 彼女はそんな術まで使えるのか。とんでもないメイドさんだ。


 俺たちはそのまま空中に弧を描き、果実工場の屋上へ静かに降り立った。俺もレイも度肝を抜かれ、唯々呆然としていた。

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