第16話MADLOVE

「命の恩人!感謝永遠に!」

ライトニングはそう叫びながら

僕を背負って街を駆け巡る。



「ここでストロングベアーか…」


困った事になった。

暗殺者クロコダイルズの

師匠はストロングベアーで

ストロングベアーに認められた者にしか

クロコダイルズと交渉出来ない。



認められる方法は考えるまでもなく

戦って強いか、でしかない。



クイーンバレルを救う為だと言えば

ついてくれるかもしれない。


だけどそれは

クローバー=クイーンバレルだと

ストロングベアーに話す事になる。


まだ看守を殺した犯人が

ストロングベアーの可能性もあるのだ。


もしクイーンバレルを手に入れて

僕を殺すために

ストロングベアーがクロコダイルズを

雇っていたら?


むしろその可能性が今一番高い。


奴らの関係は師弟なのだ。


それにしても最近

僕でも知らない話が多くなってきている。

一体この世界はなんなんだ?




「着きましたよ!ジャックさん!」


「おあ!ジャック!おまえ

この前私を囮に逃げたろ!

あの後大変だったんだぞ!?」



ライトニングのおかげで

簡単に独房にいるストロングベアーの

所につく。本当に便利。


とにかくまずはやれることはやる。


「脱獄の手伝いをしてやる。

条件をひとつ飲むならな」


「あー、いいわ、別に」


「えっ」


「だって出ようと思えばいくらでも出れるしい?今クイーンバレルをメロメロにさせる方法考えてんの、見つけたらでるつもりー」


ストロングベアーは調子を狂わせてくる。

だけどクイーンバレルが好きというのが

弱点だ、こりゃ楽勝だな。



「じゃあメロメロにする方法教えてやる」


「おっ条件は?」


きた!


「クロコダイルズに会いたいんだ

用があってね」


「なるほど、だから私のところにきたわけだ

あースカーフェイスだな

アイツすぐゲロるから」


「じゃあメロメロにする方法を」

「いらないよ、自分の力で

クイーンバレルをメロメロにするから」

「!」


「そっかぁ、ジャックはクロコダイルズに

あいたいのかあ〜〜ど〜〜しよ〜〜っかなあ〜〜?」


コイツ…!!

僕の条件を握るために

わざと興味持ったフリをしたのか!!


僕をみて横に揺れるストロングベアー

その目は冷たい。

ライトニングは目をぱちくりさせる。


「この人こんなキャラでしたっけ?

もっと名前の通り戦闘狂っぽいタイプじゃなかったですか?」


そういうとストロングベアーは


「あ、うん。あれはクイーンバレルに

モテたい為のキャラ作りだから」


けろっとした顔で

酷いネタバレをする。


「あと、仲間束ねる時

あーゆーキャラの方がみんな熱くなって

くれんだよね、馬鹿パワータイプっての?

スカーフェイスとか正に良い例

本当は現実的に考え抜いた奴が勝つのにさ」


口元を歪ませたストロングベアーは

横に大きく揺れるとピタリと止まり

僕を見上げる。


「クロコダイルズを探してるのは

暗殺依頼の為じゃないでしょ?」

「…」

「黙らないでよ、人が聞いてるのにさあ…

ね?私に教えて♡??…

クールに話し合おうじゃないか!」


どれくらいまで情報を提供して

いいものなのか。


百面相のようにキャラがコロコロ変わる

ストロングベアーに気味の悪さを感じる。


「別に喋りたくないならあ〜

帰っていいんだぞっ☆あ、看守呼ぼうか?

おーい!!かーん」


「やめてくれ!!」


僕はつい静かに声をあげて制止する。


ライトニングは僕の顔を不思議そうに見ている。


「あ…」


「へ?ジャックさ…


「「やめてくれ」え〜〜?

ジャックってさあ、そんなマトモな事

言う奴だったっけぇ〜〜??」



乗せられた。

ストロングベアーは笑顔を歪ませていく。

まるで悪魔の様に。



動揺した僕の隙をついて

ストロングベアーが指を鳴らすと

僕らの後ろから看守が現れ

僕にスタンガン、ライトニングは

首輪をつけられ床に抑えつけられる。


「ぐ、あ」

「アイタタッタッ!しまってる!

しまってますって!」


「わーいわーい!ライトニングは

ハロウィンパーティに邪魔だから

このまま独房交換しよーね!」


そういうと扉を看守が開けて

ストロングベアーは堂々と牢屋から出て

床に落ちているライトニングを

ひょいっとつまみ投げ入れる。





「じゃ、行こっか」


痺れる僕の腹を蹴り上げた瞬間

身体の中身が全て飛び散るかの様な

感覚が襲い

僕は意識を失った。








次に意識を取り戻した時は

木の床で転がされている状態だった。


「げほっ、どこだ…?ここ…

なんか、臭いな…」

辺りを見回すとガラス張りの窓の奥に

大きな時計針と夜景が見える。


僕は時計塔の屋上にいた。


「臭いが酷い…くそ…階段の扉が締められてる」


臭いの原因を見つければ窓ガラスを

割って捨てることも可能だ。

更に事件になればヒーローも来る。



ストロングベアーが犯人だった。


あの感じはジャックが死んで

僕が成り代わったのを知ってる顔だった。


でも犯人がわかれば対策だって取れる。


ここでエースに化けてヒーローを呼び

クローバーを探して

クロコダイルズに捕まったと言えば


まず僕は助かる。

ストロングベアーなら

クイーンバレルの命を取る心配はない。


そこから考えればいい。

大丈夫落ち着け。


「さっきからなんなんだこの臭いは…」


僕は臭いの方向に向けて歩く

そこには棺があった。


「…」



開けなくても、何かわかった。

中に何が、誰が入っているか。



屋上の閉ざされた階段の鍵が開かれ

下から誰かが登ってくる。



もう予想はついていた。


ストロングベアーがクイーンバレルを

手に入れる為にジャックを殺した。



だけど僕が異世界転移した事で

ジャックの死がなかったことになった。


ストロングベアーがクロコダイルズを雇い

邪魔なjokerを壊滅させ

クイーンバレルを拉致して

今僕を消そうとしている。


足元に何かが当たり

僕はそれを拾う。ピエロの面だった。


「…?」


綺麗にシナリオは決まっているはずなのに

僕の中で違和感が取れない。



おかしいのだ、時間が。



このシナリオなら

もっと早くに完成しているはず。


僕を殺したいなら

ストロングベアーには何度もチャンスが

あったし、最悪医者が面会に来た時点で

看守は抑えているのだから

殺せば良かったのだ。

そしたら犯人がストロングベアーだと

クイーンバレルもわからない。


それだけじゃない、

数週間アンダーアカデミーに居たとはいえ

途中から何度も外出した。

殺せるタイミングが多過ぎる。





ストロングベアーは

僕を殺したいわけではない?

いや、アイツは殺せるなら殺してるだろう。






つまりストロングベアーに

僕を殺させない事が出来る人物がいる。




その仮説が出た時、

一つの可能性が

僕の中でふと浮かんでしまうが

僕はそれを抑え込む。



一人だけいるのだ。


クロコダイルズを雇えるほど

ストロングベアーに気に入って貰って


ジャック=エースだと知っていて

アジトの場所がわかる人物。


目的が僕の殺しではないと言い切れる人物。


そして僕を殺すチャンスを持った

ストロングベアーに待てが出来る人物。





その人物は階段を登りきると

僕に声をかける。

いつものような優しい声で。












「ボスちゃん」









「クイーンバレル…僕は…」


「あなたは今ボスちゃんなんです

僕じゃないでしょう?」


「知ってたんだろう?

ずっと、僕がジャックじゃない事に」


「ええ、知ってますとも

私はボスちゃんと長い付き合いなんです

僕というのをやめてください、2回目です」


クイーンバレルは淡々と僕にジャックである事を命じるがその度に目がどんどん暗くなっていく。従わなければならない時もある。


「お前が俺を殺したのか?」

「ボスちゃんは死んでませんよ?」


クイーンバレルは棺を開いて

腐臭に満ちた僕の顔をした

ジャックの肌を撫でる。


死体があるのに死んでないと矛盾した言葉を話すクイーンバレルは今まで見た事がない程

静かで現実を受け入れていないようだった。


「ボスちゃんからすれば

身体など魂を入れる抜け殻に過ぎないんです


最初は驚きましたけどね

これをみた時には

世界が終わったようでした 」


「…?つまりお前はジャックを殺してないのか?」


「殺す?私が?ボスちゃんは死んでませんし殺されてないですよ?」

「わ、悪い、そうだな俺は不死身だからな」

「ですよね♡」


これでわかった、クイーンバレルは

完全に現実逃避をしてる。



「狂っちゃったのよ、この子」


別の声が聞こえて振り向くと

ストロングベアーがいた。


「私にjokerを壊滅させたいとか

依頼してきた時、怪しいと思って調べたのよね、そしたらここの棺にあんたの顔と同じ気味が悪い顔の死体があったわけ」


「クイーンバレルはジャックの遺体を消そうとしたのか…なかった事にする為に」


「言ってたわ、光の中からボスちゃんが現れたの、まるで神様に遣わされた天使みたいよねって」


神に遣わされた天使…

異世界転移した人間は確かによく

死んで神様とかに出会ってスキルを

貰ったりしてる。


僕はそれが極悪ヴィランジャックだったに

過ぎないが、この世界の人間からすれば

天使に見えなくもない。


「でもクイーンバレルはjokerを壊滅させた

ジャックが死んでる事に気付いてるんだ

見ようとしてないだけで」


「でしょうね、誰か気付いたのかも

だから殺したのかもしれないわね」


「じゃあ…僕の為に?」

「あ?」

「すいません」

「あんた良くジャックのフリ出来たわね」

「まあ…色々練習してたんで

で、貴方が僕を殺さないのは

利用価値があるからですよね?」

「当然でしょ?あんた殺したら

自殺するって言うから仕方なく引き受けてんの、ちなみに報酬はデート券」

「はあ…」


愛は本物みたいだ。


でも僕の為にクイーンバレルは

人を殺したのかと思うと胸が痛む。

看守もアパートもクイーンバレルが

やったのだろう。


彼女のヴィランの流儀は

全て僕の為にあることなんだ。


だけど…


「僕は…クイーンバレルに誓えないんです…人を殺せないんです、

僕はジャックじゃなくてただの人間だから」



つい本音が出てしまった。

それをさっきまで僕の腹を蹴ってきた

ヴィランの前で。


真実を知った者同士にしか話せない弱音だ



「…ふーん…それは可哀相に」

ストロングベアーは僕に同情するように

耳をペタンとさせてクイーンバレルをみる。

本当は1ミリも心は動いてないだろう。


「聞こえてた?」

「聞こえてませんけど」


クイーンバレルは聞きたくないようで

僕という存在を無視して

幻のジャックに笑顔を向ける。


「はいボスちゃん」


クイーンバレルは

僕にリモコンを手渡す。


「これは、なんだ?」

「毒ガスのスイッチです、

今朝10件ほどのお店を回ったでしょう?

あそこ全てに仕掛けたんです

今日はかぼちゃ祭ですから」


クイーンバレルは僕を見つめる


「押さなかったら?」

「こんな面白いもの押さない筈が

ありません、ボスちゃんなら押す筈です

…もしかして記憶喪失ですか?

なら私が思い出さして差し上げないと」


クイーンバレルは記憶をねつ造し

僕に詰め寄る。


「思い出させるって…?」

「簡単ですよ、まず2人の人間を用意します」

そう言ってクイーンバレルは

ストロングベアーをみて


ストロングベアーは頷き

下の階から2人の囚人服を着て

縛られた男女を用意し僕の前に転がす。

見たことある

刑務所にいた奴らだ。


クイーンバレルは僕にナイフを渡し

「10秒以内に片方殺していいですよ

当然両方もOKです」

とだけ言って黙る。


この場で殺せと言うのか。

囚人達の殺さないでという目が

僕を見つめる。


囚人ならいいか?と思おうとしても

ナイフをもった手が震える。


ショットガンを撃てた状況とは違うのだ。


「10」

カウントダウンが始まる。

「クイーンバレル、僕の話を聞いてくれ」

「9、8、」

「僕はジャックじゃない、君も気付いてる筈だ」

「7、6」

「ジャックは死んだんだ、

僕は無抵抗の人間を殺せない」

「5、4」

「こんなの何にもならない!!

殺して何になるんだ!?」

「3、2」

「聞けよ!!!

止まれ!止まれ!!止まれ!!!」

「1」

「クイーンバレル!!!!」



バギュッ…ブチュ…



頭蓋骨と脳を同時に踏み潰す

二度と聞きたくない音が聞こえた。


「諦めなさいよクイーンバレル

こいつはジャックにはなれない


心がヒーローだもの」


ストロングベアーが二つの頭蓋骨から

足を離すと髪をかきあげて

クイーンバレルに見えない死角から

僕にウィンクを送る。


ストロングベアーは

僕のこれを狙っていたのだと確信する。

「僕がクイーンバレルに

愛想を尽かされる状況」こそ

ストロングベアーの狙いなのだ。


利用されているようでムカつくが

だからといっても出来ないのだ。

僕はオーガマンを読んで

育ってしまったから。

無抵抗な人間の殺しは出来ない

それが僕の流儀だから。


「そんなはずありません、

ボスちゃんは出来る子です

神様のところに戻ってる間に

記憶がエースと混ざってるだけなんです」



クイーンバレルが更に記憶を捏造していき

僕の心はズキズキと痛む。


クイーンバレルは本当に

ジャックが好きなのだ。





なら、僕の存在は余計に

クイーンバレルを

苦しめているだけに過ぎない。




僕は覚悟を決めてクイーンバレルに近づく。



「クイーンバレル」

「ボスちゃん…」








「俺の邪魔なんだよ、お前は」


「ボスちゃん…」



邪魔なんて思った事は一度もない

君がいなければ僕は生きてないだろう。




「俺になんの断りもいれず

つまんねえ事しやがって」



「二度と俺の前に現れるな

今夜ジャックは死んだんだ」




だけど僕はジャックらしく

クイーンバレルに別れる命令をする。

これしかなかった。


ヴィランに言うのはどうかと思うけど

僕は…クイーンバレルには

幸せになって欲しいから。



クイーンバレルは膝をつき泣き出す。



その姿を見ないようにバレないように

僕は毒ガスのスイッチをポッケに忍ばせて

時計台を降りる。



リバーシブル式の服をエースように戻して

髪も元に戻し仮面を被り教会を出る。


そこには何もなかったかのように

お祭り騒ぎする人々がいた。


「ニュースみてないのかな…」



これからどうしよう。

エースとして生きるのがいい手かもしれないがヒーロー達はクローバーという名の

クイーンバレルを探してる。


彼女が話しても話さなくても

クローバーがバレれば自然と僕がバレる

今度こそ時間の問題だろう。



「この街に住む…ありかもしれないな」

ジャックとしてエースとしてではなく

僕として住む。


その為には偽造の身分証明書が必要だ。


毒ガスのスイッチを段ボール箱に詰めて

「ヒーローへ」と書いて適当な店に置いて

帰る。きっと通報してくれるだろう。



「スカーフェイスには頼れない

クイーンバレルの為に

もうジャックは死んだことにしたい

…今夜の宿…どうしようかな」


泊まる場所やバイトがあるかを

何人かに聞くが答えはNOか、身分証明書が必要だという。


僕は光り輝く街中の隅の影に隠れた

ヒーローよ救いの手をと書かれた紙と缶を持つおじいさんに声をかけた。


「あんたも失業したのか」

「え、ええ…とあるマフィアに居たんですが

身分とかバレたくなくて…」

「へぇ…あんたみたいな弱っちい顔した

マフィアもいるんだねぇ」

「へへ…それよりこの辺で身分証明書がなくても働ける仕事とか泊まれる場所とかありますかね?出来れば長く泊まりたいんですけど」


おじさんは何か考えたあと

「ああ!あるよ、工場で点検するバイトさ

あんた若いからきっと気に入ってもらえると思うよ!すぐ近くだから案内してやるよ」と明るく説明してくれる。


いい人だ、助かった。

ここに来てからクイーンバレルといい

ダニエルといい僕は本当に人運がいい。



おじさんは途中「若いのにマフィアなんて

頼れる家族もいないのかい?」

「何で辞めたんだい?何か盗んだとか?」と

僕を心配してくれる。気を使わせてはいけないと、下っ端で出来が悪いから失業しただけですと適度に返す。


途中おじさんは

スマホで誰かと連絡を取っていて

君の事会社の人に伝えといたよという

まさかの親切対応に

僕はありがとうございますと頭を下げる。



人気のない路地裏にきて

そこにはトラックが目の前にとまっていた。

中から黒い服をきた大男が現れる。


「もしかして社員さんですか!?僕は…」


そういう前に2人は僕を抑えつけて

ハンカチに湿らせた薬を嗅がせる



その時気付いた。馬鹿だった。

出会った人達は

みんなジャックやエースと

関係値がある状態だったから

恐れられたり優遇されたり、

所謂俺tueeが出来たのだ。



おじさんが黒服の男に金を貰う。

紙が1枚、5000ルド

ジャックは10億のヴィランだった。


僕の命は5000ルドか

安いゲームなら買えるくらいかな…





そう思いながら僕は意識を手放した。



















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る