第14話偽りの平和
あれから数週間
僕は殆ど僕としてエースの姿で生きていた。
あの日の惨劇の後
気持ち悪い程何も起きない現状に
最初は不安を感じていたが
数週間もすれば外に買い物だって行けるようになってクイーンバレルと共にアパートの
金庫にいれといたエース用の通帳を見つけて
また他のアパートを探せるようになったが
ダニエルがゆっくりしてほしいという事で
今もダニエルの部屋に住んでいる。
最初は忘れてはいけないとは思っていても
深い感情をアパートの人や
仲間には持つ時間がなかったせいで
ただただ風化していく。
今となってはジャック殺しの犯人より
目の前のゲームだ。
ゲームの銀行強盗が中々上手く出来ない。
リアルはギリギリまで上手くはいったのに。
「ねえエース!今夜のかぼちゃ祭
行かない!?」
ヒーロー活動を終えたダニエルが
チラシを持って部屋に入ってくる。
「かぼちゃ祭!いくいく!」
かぼちゃ祭は所謂ハロウィンのことだ。
街中の店がオレンジと紫色の電飾や
お化けのタペストリーを飾って
子供達はヒーローのお面をつけて
トリック・オア・トリート!。
お面で一番人気は
キャプテン・ジャスティス。
「オーガマンは顔が怖いから
人気ないんだ…」
ダニエルは少し落ち込んだように話すが
オーガマン大好きな僕はすぐさま否定する
「僕は好きだよ」
「…!」
そりゃそうだ、だって僕は
オーガマンが大好きで新刊を
当日に必ず買ってたんだから。
「…(ボンッ)」
「うわっ!またなっちゃった!」
ダニエルは顔を真っ赤にした瞬間
オーガマンになる。
ダニエルとも今では一緒に遊びに行く仲だ。
外に出るときはダニエルは変装をする。
ヒーローなのがバレると
僕に迷惑がかかるという。まさに芸能人。
まあ、僕もジャックなのを
黙ってるからなんとも言えない。
バレたら大変だろう
オーガマンと切り裂きジャックが
ルームメイトなんて三面記事待った無しだ。
「エース」
ジッと視線と冷たい目が向けられる。
クイーンバレルだ。
クイーンバレルはこの数週間つまらなさそうにしながらダニエルの部屋にある教材で
勉強していた。主に勉強していたのは
化学であった。
ブレイキングバッドしたいらしい。
「平和過ぎて死にそうです」
「たまにはいいだろ?」
僕からすれば平和でいい事この上ない。
まあ、確かにドキドキは減ったから
僕はゲームの中で銀行強盗をしていたりもする。
最初は旅行気分だった
この世界も慣れれば普通の犯罪都市だ。
「クローバーも一緒に行こうよ
かぼちゃ祭」
「エースと2人っきりなら」
「クローバーあまりそういうのは
良くないよ?他の人に嫌われちゃう」
「私はエースがいればそれでいいですから」
クイーンバレルは凄く良い子なんだけど
僕以外の他人にめちゃくちゃ冷たい。
特に僕が他の人と楽しそうに話したりとか
すると ヒーローヴィラン男女関係なく
ふてくされる。
素直といえば素直なのだが…。
「すみません、家族の団欒というのが
ありますよね」
ほらー!ダニエルくんに
気つかわせたじゃーん!!
この子変身したら怖いけど
心は物凄く良い子なんだよーお!?
「いや!いいよいいよ!
クイ、クローバーもツンツンしない!
な?」
「ツーン」
「ツンじゃないって!」
「とりあえず僕はハロウィン衣装
もう持ってるので
お二人で買いに行ったらどうですか?」
そう言ってダニエルは
キャプテン・ジャスティスのマスクを
着けて衣装を着る。
なりたかったんだ
キャプテン・ジャスティス…!
「ナイスですダニエル
さあエース、一緒にデートしましょう」
クイーンバレルは僕の腕を取り引きずって
学校の外まで連れて行った。
アンダーシティの商業区は
すっかりハロウィンムードで
まだ朝なのにあちこちに仮装した人々が
いる。
毎日犯罪が起きるこの街で
生きる人達は強くてたくましい。
僕らはお面を買いに向かったが
クイーンバレルが
「ヒーローのお面は嫌ですっ、絶対嫌」
「面白えじゃねえか、ヴィランがヒーローのお面なんて「つまらないです!ボスちゃんいつのまにジョークのセンスが落ち「わかったわかった!」
…とぐずったので売れ残った隅にある
ピエロのお面を2枚買う事にした。
「ほらこれで良いだろ?」
「お揃いですね♡
店主さん他のピエロお面は全部燃やしてください、世界に二つだけにしたいので」
「はっはは!彼氏さん愛されてるねえ!」
欲しかったんだけどなオーガマン…。
休憩がてらに喫茶店により
コーヒーとケーキを頼む。
本当にデートみたいだけど
クイーンバレルとは長く隣にいすぎて
恋愛心が無いわけではないが、
少し安心感があった。
この街に異世界転移して
彼女はずっと僕を支えてくれた。
それは僕がジャックと同じ姿だからだけど
それでも恩人なのは間違いない。
捕まりそうになったら身を呈して
囮になってくれて、
刑務所ではクイーンバレルがいなかったら
あそこまで早く出れなかったし
きっとアジトであの双子に殺されてた。
クイーンバレルがいたから
僕は今生きているのだ。
「ボスちゃん…」
クイーンバレルは僕を真剣な目で見つめる。
バレないように小声で
顔を近づけて
「…なんだ?」
僕はジャックとして返す。
「いつまでこんなつまらない
平和ごっこ続けるつもりなんです?」
「えっ」
「もう数週間ボスちゃんは
窃盗もイタズラも何も起こしてません。
殺人に至っては1カ月近くも!
病気にならないんですか?」
「べ、別に平和な時があっても
面白えじゃねえか…
それに、殺しなんていつだって
出来るだろ?」
僕は気軽に返してしまうが
それは悪手
クイーンバレルは真剣だった。
「じゃあ証明してみてください」
クイーンバレルはナイフを机に置く
このナイフはダニエルの部屋の
フルーツナイフだ。
殺せというのか、カフェにいる客を
「証明って…今やればエースがジャックって
ヒーロー共にバレるだろ?」
「もう一般人ごっこは充分でしょう?
勉強は安心してください、ボスちゃんが
これからあの学校で学ぶ授業分の知識は
私の頭の中に入れておきました。
先生は私だけで良いんです。
よかったですね?」
あの勉強はそういう事だったのか!!!!
「いや、でも、あそこにいれば
ヒーロー共の弱点とかわかるだろ?
オーガマンも対策取りやすいじゃないか」
「ボスちゃんがエースだとわからせた方が
オーガマンへの精神的ダメージは与えれると
思いますが?」
ぐっ!正論!
「でも全員の弱点やヒーローの拠点のパスワードまではわからないだろ?」
「まあ、それはそうですが…」
よーし逆転!諦めるな!僕!
「じゃあ今から変装を一旦解いて
目撃者皆殺しにしてから
また変装をしましょう」
ちくしょう!クイーンバレル諦めが悪い!
「いや、でもよ…」
その時
ゴーンゴーン
街の時計台の鐘が鳴る。
「あ、もうこんな時間だ!
夜の準備する為に早く帰ろうぜ?な?」
僕はクイーンバレルを嗜めるが
クイーンバレルは
じゃああの時計塔に行ったら帰りましょうと
言ったので、僕はとりあえずナイフを収める事に成功した。
時計塔の一階は寂れた教会になっていて
今日は誰もいない。
「ボスちゃん、覚えてます?
ここで互いに誓ったこと」
クイーンバレルは微笑んで
僕をみるが僕はその時
冷や汗が止まらなかった
なにそれ知らない!
ヒーロー視点の話は書かれているけど
ヴィラン視点の話は存在しない。
もしかしたら設定はあるのかもしれない。
「ああ、あの時はヤキが回ってた」
僕は濁す事しか出来なかった。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、悪を愛し、悪を敬い、悪を慰め、自らを助け、その命ある限り、悪逆非道の限りを尽しヴィランとして生きる事を誓いますか?」
クイーンバレルは静かに
その言葉を口にする。
「ヴィランの道を選んだものは
もう永遠にヒーローにも一般人にも
戻れません、全てが仮初め、
偽りの平和です」
「ヴィランはどこまでいってもヴィラン
他の人に嫌われるのを恐れるなら
そもそもこの道に踏み込んではいけない
あなたはそう教えてくれました」
「自らの為に自らを助ける為に
全てから嫌われて笑い続けてやるのが
ヴィランなんだと」
クイーンバレルは教会の扉を開いて
外に出る。
「私はあの日ヴィランになったんです」
「クイーンバレル!!」
僕は慌てて閉まった扉を開ける。
だけどそこには
もう誰も居なくなっていた。
「ただいま…」
「ハハッ!オールOKさ!」
部屋に戻るとダニエルが
キャプテン・ジャスティスの真似をしていて
僕に気づくと顔を赤くして
オーガマンになってしまった。
お面が弾けて鍋にはいる。
「やっぱり帰ってないか…」
「クローバーさんは?はぐれたの?」
「う、うん、そんなとこ」
クイーンバレルは僕が
ヴィランとしての意識が低くなってきたから
あのことを言ったのか
それとも偽物だとバレたのか…。
頭の中でぐるぐるぐるぐるまわる。
「まあ、夜には戻ってくるよ
エースとかぼちゃ祭行きたそうだったし」
「そ、そうだよね」
だが僕らの予想は外れ
夜になってもクイーンバレルは
戻ってこなかった。
次にクイーンバレルを見たのは
液晶の中。
ネットにあげられた動画に
暗い部屋の中で縛られた姿で。
双子の暗殺者クロコダイルズが
ピエロのマスクをひらひらと
見せびらかし
液晶の向こうに向かってこう言った
「今夜12時の鐘が鳴るまでに
見つけれなかったら
この女殺しちゃいまーす!
で、良かったんだっけにいちゃん?」
「いいよ ねえちゃん!」
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