第13話シェアハウスウィズヒーロー
息苦しくて目が醒める。
目の前には大きく黒い胸筋…
「ん!?」
大きな腕に抱きしめられて
僕は顔を上にあげる。
それは子供みたいに寝息をたてるが
可愛くない牙が見え隠れする。
僕はオーガマンに抱き枕にされていた。
「うわっ!」
僕は慌てて離れようとするが
ガッツリホールドされていて逃げられない。
「ぅぐっ、苦し…」
オーガマンの力は圧倒的で
背骨が折れそうなほど抱きしめてくる。
窓から差し込む光に向かって手を伸ばすが
光はヴィランを救わない。
今僕は憧れのヒーローにだいしゅきホールド
されてるのだと思うと少し楽になる。
「ぼぼボスちゃーん!!!???」
クイーンバレルが僕の声で飛び起き
この状態を発見し奇声をあげて
僕の救出をはかる。
「こ、こ、この鬼野郎!
ボスちゃんをだいしゅきホールドしていいのは私だけなんですからね!!」
「んん…」
オーガマンは目覚めない。
クイーンバレルはオーガマンに足を引っ掛けて僕の腕を掴み引っ張る。
「ぁだだだだだだだだだ!!肩が!
肩が外れる!!!!!」
「ボスちゃんを返せーー!!」
この戦いは1時間続いた。
「すみません、寝てる間に僕オーガマンに
なってたんですね…次からは首輪をつけて寝ます」
大変申し訳なさそうにダニエルは
グラノーラを用意する。
「いえいえ!とんでもない!僕らからしたら
住む場所を与えてくれただけで感激です!
ねっ!クローバー!」
「首輪はつけて欲しいです」
「ま、まあそうですが」
ちょっとギスリながらも
僕らは朝食のグラノーラをいただく。
刑務所ではオーツ麦を温かい湯に浸した
オートミールを食わされていたが
それに美味しい味がついて
冷たい牛乳に浸すのがグラノーラ。
つまり味のランクが上がったのだ!
やったね!
だが食べるたびコックの朝食が忘れられず
最初の頃を思い出す。
出会ってばかりの名も知らない人達が
死んでもジャックは友情や、悲しみや怒りを感じてはいけない。
馬鹿が死にやがってと
笑わなきゃいけないのだ。
クイーンバレルのおかげで恐怖は紛れたが
スカーフェイス達がアジトを攻撃した今
エース=ジャックはバレているだろう。
ならスカーフェイス達はエースがここにいると知ったらヒーロー達にチクるだろうし
それも時間の問題だ。
つまり僕らは最期の晩餐ならぬ
最期の朝食を食べていることになる。
今日、エースは死にジャックも僕も死ぬ。
なら最期まで笑って抗うのが
ヴィラン道というものではないか。
それにせっかくのヒーローとルームメイトに
なれたのだ。遊んで死のう。
「今日は休みなので、ゆっくりしていてください」
「ダニエルって休日なにしてるの?」
「休日ですか?」
「敬語とかいいから!僕ら同い年だし!」
「はい、あ、うん…特には…」
「あれは?」
この世界にしかないテレビゲーム機と
カセットを指差す。
「オンラインゲーム好きなの?」
「う、うん。ネットなら誰も
僕がオーガマンってわからないし」
芸能人みたいな理由だなと思いつつも
2人プレイ出来る格闘ゲームを
みつける。コントローラーも二台あるし
ヒーロー同士でやってるのかな?
誰だろう知りたい。
「これやらない?
コントローラーも二台あるし」
「…いいの?」
「えっなにが?」
「いや…やろう!」
ダニエルは恥ずかしがりながらも
嬉しそうにゲーム機に向かう。
何か僕変なこと言ったかな?
クイーンバレルはつまんなさそうに
机にほっぺたをくっつけて
僕らを見る。
「うわっ!強っ!
ダニエルめちゃくちゃ強いじゃん!」
「エースも凄いよ、
本当にこのゲーム初めて?」
クイーンバレルは心底つまらなさそうな
顔をして頭を机にぐりぐりした。
「そろそろ昼飯にしようと思うんだけど
どうする?食堂か外食でもいいけど」
「が、外食は避けたいかな
食堂にしたいけど、家がお金ごと燃えちゃって…」
まさか自分達で爆破したとは言えない。
「それなら僕食材買ってくるよ、
やってみたかったんだ、…ち…とご飯つくるの」
「ち?」
「いや!なんでもー」
スマホの着信音がダニエルの言葉を遮る。
僕らに少し頭を下げてから
電話を取って電話の向こうと会話する。
少し空気が重たくなり、バレたかもしれないとBADエンドのBGMが頭の中を巡る。
「なあクイーンバレル…バレたかな」
「知りませんっ」
クイーンバレルは珍しく冷たくあしらう
ゲームに混ざらせて貰えなかったので
ご機嫌ななめのようだ。
次は渡そう、ごめんね。
「出動指示が出たからちょっと出かけてくるね、ついでに昼ご飯や晩御飯買ってくるよ」
ダニエルはそう言って部屋から出て行く。
ヒーローって大変だなぁ〜と思いながら
僕は見送りその姿をクイーンバレルは
じっとみていた。
ダニエルはすぐ帰ってきて
僕らは一緒に昼ご飯を作り
次はクイーンバレルにコントローラーを渡したが、2、3回で飽きたといい僕に変わった。
エースは僕の本質に似てる為
ダニエルと遊ぶ時間はジャックではなく
僕としてあれる。
夜は花火をしたし凄く楽しい時間だった。
今死んでも悔いのないように
いや悔いはあるけれど
つらいことだけじゃなかったと
BADエンドではなかったと
そう思えるまで遊んで寝た。
朝日を迎えれたら喜び、
また悔いが残らないように遊び、
最期の晩餐を食べて、眠り
また朝日を迎えれたら喜び
ついに授業まででて…
一週間後ようやく気づく。
スカーフェイスが僕らを殺しに来ない。
学校の昼休み
僕は中庭の日陰で寝転がり
この異変について考えていた。
エース=ジャックだとわからないと
アジトには攻撃出来ない。
アジトの中までやられてるというのは
そういう事だ。
バレているなら
僕が出席している時点で
学校に暗殺者を送るか
学校側にジャック=エースの情報を流すか
その情報で脅してくるはずだ。
なのに一週間以上もなにも起きない。
何かがおかしい。気持ち悪い。
それだけじゃない。
テレビをみると今日も犯罪や
ヒーローインタビューで持ちきりだが
スカーフェイスやマフィア間の抗争については一切なく、組に属さない野良ヴィランが
暴れたという話ばかりなのだ。
ダニエルにそれとなく聞いてみると
むしろスカーフェイスは自陣強化に向かっているらしい。
僕は監獄で戦争が起きて仲間が死ぬと
言われたから出てきたのに
実際は自分達のアジトだけが崩壊して
マフィアの抗争など1ミリも起きていなかった。
騙されたのか?あの医者に?
だけど看守まで手籠めにして
僕を騙して脱獄させて
なにがしたいんだ?何の得がある?
クロコダイルズは僕らを殺しにきた。
スカーフェイスに雇われたと
僕は勝手に考えてしまったけど
真実かはわからない。
双子の暗殺者クロコダイルズ
アジトの仲間を治療していたという医者
この2人が明確に今回の件に関わってきた
人間だ。ここからじゃないと
真実は見つからない。
もしかしたら
ジャック殺しの犯人と
この世界に僕が呼ばれた理由も
わかるかもしれない。
「おいエース!お前んち燃えたんだってな!」
とりあえず僕を馬鹿にしたい
いじめっ子ボトムが現れる。
今考えごとしてるんだからどっか行って
ストロングベアーとかに構って貰って。
「失礼だろ!エースに謝れ!」
「「えっ」」
だが僕とボトムの間にすぐ人影が現れた。
ダニエルだ。
「ひっ、ひいオーガマンっ!
ごめんなさいーーっ!!
エースおまえっきたねーぞ!」
オーガの威を借るエース!と
最後まで馬鹿にしながらボトムは逃げ出す。
「大丈夫か?エース」
ダニエルは僕に手を伸ばす。
僕が異世界転移して
この学校にエースとして初めてきた時も
ダニエルが僕を助けてくれた。
だけどあの日とは全然違うところがある。
ダニエルとエースはヒーローと一般人ではなく友達と友達になっていた。
「えっ、あのコントローラー初めて使ったの僕だったの?」
「友達とゲームをしたかったんだけど、
一緒に…遊ぶ友達いなくて」
「ストーンシールドさんとかは?
同い年でしょ?」
「あの人は盆栽が趣味でゲームとか
からっきしで」
そんな他愛のない会話をしていると
こんな時間が長く続けばいいと思う。
すると考えてしまう
犯人をわざわざ見つける必要なんて
あるのだろうか?
真実なんて見つける必要があるのだろうか
ヴィランに転移したとはいえ
せっかく大好きな世界にこれたのだ
こういうほのぼのがあったっていい。
部屋に戻ればクイーンバレルが
ダニエルから貰った教材を解いていた。
(主に犯罪方面に)偏った知識はあるため
出来る教科とできない教科に分かれているようだ。
テレビに目を向けると
ライトニングさんがまた万引きをした
というニュースが流れる。
僕は微笑んで
真実を考えるのを辞めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます