第12話駆け落ち灯台下暗し

「アンダーシティの外に私達しか知らない

別荘があります。そこに向かいましょう」



僕らのアジトや構成員は

スカーフェイスに雇われた双子の

暗殺者クロコダイルズに

壊滅させられていた。


武器も仲間もいない

このままでは戦争を止めるとか

反撃どころか生き残るのも難しい。

一度態勢を整えるために

地下水路から街の外に向かう。



「ボスちゃん、手が」

クイーンバレルは僕の怪我をした手を

両手でそっと優しく包み込む。



「ああ、大したことない

ジャグリングに失敗する日もある」

「いけません、傷口から感染します」


クイーンバレルは変装用のスカートを破り

包帯がわりに僕の手に巻きつける。


普通のスカートだったはずが

破いた事でスリットが出来てしまい

なんというか視線に困る。


「ボスちゃん?」

「えっ?」


僕の緊張が手から伝わったのか

クイーンバレルはキョトンとして

僕をみる。


ジャックはクイーンバレルに

ドキドキしたりしない。


そう思っていても

こんなに健気にされてしまえば

ドキドキするというものだ。




「しっ、しかし遠いな…

ライトニングがいれば

すぐに確認出来るんだが…」



僕は咄嗟に話題を変える。


ライトニングはアジトを

見学してそれっきり。



殺してしまっただろうか?

悪い奴ではないのだけど、

いや悪い奴だけど

死んで欲しいほど悪い奴ではない。


殺しといて言うのもアレだが、

生きていて欲しい。



「少し休息したいところですが

汚臭で飯も喉を通りません」


「とにかく歩くしかねえな」



僕らは水の音以外聞こえない

地下水路を歩き続ける。



カツンカツンと床を歩く音が

水路の壁に反響する。



ジャックとしては

何かジョークのひとつでも言って

笑わせるべきだろう。


何か話題はないか、話題は〜〜と

考えるが出てこない。



最初に口を開いたのはクイーンバレルだった。


「駆け落ち…みたいじゃないですか?」

「駆け落ち?」


「そうですよ!

悪いヒーローに捕まって

2人で脱獄して、悪いマフィアに追われて、

安息の地を求めた2人の逃亡劇…っ!

これってまさに駆け落ち!ですよね!?」


「超絶プラス思考に考えれば

確かにそうだな」


悪いヒーローとか 2人とか矛盾した事には

突っ込まないでおこう。


「でしょう!?遂に私達は2人っきりに

なれたんです、これはもうデートですよ!!」


クイーンバレルちゃんは目を輝かせて

最悪の現状をまるで最高の時間であるかの

ように説明する。



ヒーローならば仲間の仇や

悪を倒す事に目を向けなきゃいけない。



だけど僕らはヴィラン。

自分が幸せならそれでいい

自己中なイカれたクソ野郎達だ。



最悪こそ

ヴィランを楽しませる。

強くする。




「ハハッ!やけに臭えデートスポットだな!」



僕は笑った。





アンダーシティは人工島に作られた街で

北と西に大きな橋があり

そこから本島に繋がっている。


僕らは西の橋の近くのマンホールまで

たどり着いた。



「あのスーツ…完全にスカーフェイスの

手の者ですね、橋は必ず狙ってくると思いましたが…」


橋の近くではスカーフェイスの部下が

たむろっている。この様子だと北も同じだろう。


「確実に俺たちを潰しにきてるな

スカーフェイスはこの街のボスになって

一体なにがしてーんだ?

仕事増えて遊ぶ時間が無くなるじゃないか」


「出世が一番な人もいるんですよ


それに、お金には困りませんからね

どっかのボスちゃんみたいに

貯金調べずに無駄遣いする人には

是非天下を取って欲しいものですが…」


「バイトでもするか?俺と一緒に」

「ふふっ ボスちゃん専用のメイドなんで

ウエイトレス以外の

殺しの仕事ならいくらでも」

「なら俺はタキシードで盗みのバイトでも

するか!」


2人で笑いあうが、バイトどころか

外に出れば すぐに見つかって殺されるだろう。


「地下水路を家にするしかないですね、

これは」

「水路だって時間の問題だ

アジトの位置どころか中までバレてた。

部下の中に繋がった奴がいたんだろう

スカーフェイスの情報網は異常さ」


「ボスちゃんがエースであることも

バレている可能性があります

影武者も死んでるでしょうし

学校に行く事も出来ませんね…

第一学校はヒーローだらけの敵の巣窟ですし」


「そうだな…安全な場所はどこにもない…」



その時、閃いた。

この状況を突破する方法を




「ヒーローだ」

「えっ?」

「ヒーローに守ってもらえばいいんだよ!

アジトは普通のアパートだった。

僕らは普通の人間として住んでて

帰ったら爆破された被害者だ!

だから救ってくれってお願いすればいいんだ!」


「スカーフェイスに狙われない為に

敵の中に飛び込むんですか!?

バレたらまた監獄行きですよ!?」


「スリリングだろ?」

「ええ!とっても!流石ボスちゃん!」


クイーンバレルは楽しそうだ。

僕らはエースとその姉クローバーとして

変装する為の道具を盗み


アンダーアカデミーへと向かった。










アンダーアカデミーの訓練場で

ダニエルは基礎訓練を行っていた。


ヒーローは首輪がなくても

自分の力を制御出来るように

ならないといけない。


オーガマンになれば肉体が強くなるが

同時に気が荒くなる。

目の前にいる敵をボコボコにしたくなるのだ

血を吸いたくなるのだ。

その制御が効かず

緊急治療室行きになったヴィランもいる。



笑い声が聞こえて窓の外を見ると

中庭で一般寮の学生達がたむろして

花火に火をつけて遊んでいるのが見えた。


今は深夜2時とっくに門限は過ぎている。

門限破りをして彼らは遊んでいるのだ。


自分は注意せねばならない

ヒーローの立場だが

ダニエルはその楽しそうな姿に

みいってしまう



あの日誘拐され実験体にされなければ

自分は何にも囚われず、悪いことが

出来たんじゃないかと

使命など欲しくないという


ヒーローらしからぬ感情をダニエルは

持っていた。




「あの!」

訓練場の扉が開き声の方に

ダニエルは顔を向ける。


そこにはどこかで見たことがある

ボサボサヘアーで眼鏡をつけた少年と

ボサボサヘアーで眼鏡をつけた女性がいた。



「なんですか?」

「僕らアンダーシティ西区のトランプアパートってとこに住んでたんですけど…」


トランプアパートか、

今日爆破されていたアパートだ

情報によると容疑者は変装が上手い

厄介な暗殺者クロコダイルズで

現在逃亡中という話だ。



「生存者がいたんですね、良かった

安心してください、もう大丈夫ですよ」


「あのーよろしければ

学園内の使っていない部屋があれば

そこで泊めて欲しいんですけど…」


女性の方が弱々しく懇願する。


「はい、少しお待ちください

上の方と相談します。」


ダニエルは先程の少年の心を閉ざし

ヒーローとして市民の為に動く。









「うまく行きそうですね、ボスちゃん」

「ああ、そうだなクイーンバレル」


ダニエルが電話をしている間

僕らは後ろに向けた拳同士を合わせて

ガッツポーズをとる。


「すみません!」

「「はひっ!?」」

オーガマンもといダニエルが

見た目にそぐわない大きな声をだすので

僕らはびくりと身体がはねる。


「名前を教えてください、あと個人情報の

確認書類とかありますか?」

「すいません…そういうのは

燃えてしまって…

でも僕はここの生徒エース・キング

彼女は僕の姉のクローバー・キングです」


「ここの生徒さんでしたか、なら話は早いと思います、少々お待ちください」


ん?んん?もしかしてダニエルは

僕の事何も記憶にない?


ヒーローは何百人も救うんだから

予想はしてたけど、実際忘れられてると

思うと、なんか、こう…嫌だ。



「はい、わかりました…いえ別に見られて困るものはないんで…では」


ダニエルは電話を切り

僕らの方を向いて言った。


「すいません、今日は特に貴方方以外の人たちも被害にあってて…窃盗やら放火やらで

ヒーローは足りているんですが

避難施設が満員なんです」



「な、なら!

私達はどう過ごせば良いんですかっ!?

このままじゃエースちゃんはどうやってっ…!!」


クイーンバレルが迫真の演技で

哀れな女性を演じる。

さっきまで店の口紅の

どの色を盗むか迷ってた人ですダニエル。


「安心してください、少し窮屈かもしれませんが ちゃんと安全な部屋にお連れします」

「どこなんですかっ!?」



「僕の部屋です」



「「えっ」」




ヒーローに守って貰うとは言いましたが…

宿敵のお部屋をシェアしたいとまでは

言ってません。
















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