第11話 闇の入り口
赤い海が目の前に広がっている。
人の形を保てていないものから
壁の燭台に見せつけるように
飾られたものまで
部屋の中は殺人現場というよりは
地獄が広がっていた。
「ぐっ…ッうぷっ…」
生臭い血の匂いと死臭が
僕の鼻を通り、生理的な吐き気を催す。
「手遅れでしたか…」
「なっななんだよ、これっ…!!うげぇっ」
クイーンバレルは死臭は慣れてるようで
武器になりそうな物を手に取り
周りに人気がないことを確認する。
ライトニングはもう吐いてる。
もらいゲロしそうだからやめて欲しい。
この建物で僕はエースという名で住んでいた
表向き住んでるのは一般人だったはずだ。
一般人にここまで出来るものなのか。
腕を噛み引きちぎられたであろう
遺体を見て怒りが込み上げてくる。
ジャックなら絶対に感じてはいけない感情。
そう思っても感じずにはいられない。
「とにかく隠しエレベーターに
向かいましょう。そこがバレていなければ
反撃の機会があるというもの」
「…ああ」
隠しエレベーターがある
僕が住んでいた部屋の扉に僕は手をかける。
「ボスちゃんっ」
クイーンバレルが制止する前に
僕は扉を開けてしまい
何かがピンッと張った音がする。
その瞬間扉ごと爆発で吹き飛ぶ。
「ッ…!」
「置き土産かー!俺がいないと
やばかったっすね〜〜!」
雷を纏うライトニングが僕を抱えて
爆破を避け何とか九死に一生を得る。
確実に殺すつもりの殺意に
心臓の音がばくばくと止まらない。
今迄とは何かが違う。
僕の何かがそう伝える。
「…」
クイーンバレルは
そんな僕の姿を見て少し目を細めるが
それを僕が気づくことはなかった。
今度は注意して部屋に入るが
誰もいないようだ。
崩れた本棚や壊された机が見つかる。
そこで初めて僕はクイーンバレルに
あーんをして貰ったのだ。
数日前の出来事なのに
何ヶ月も経っているように感じる。
キッチンにコックは見つからない。
逃げたのだろうか、
それともあの肉片の中にいるのだろうか。
寝室に入るとクイーンバレルは
割れた窓ガラスを避けつつ
枠だけになった窓の外に手を伸ばし
外壁にあるレンガの一つを押しこむと
ベッドの下に地下室に繋がる
エレベーターが現れる。
「わあ!すっごい!ヒーローみた…
おぼろろっ」
ライトニングは感想を伝えようとするが
吐いてしまう。
地下に向かうエレベーターで
ニンジャの輝夜かマフィアのスカーフェイス
どっちが襲撃してきたのかを話しあう。
「遺体の損傷は噛みちぎられているもの
でした。この傾向はストロングベアーのような力タイプの能力ですね」
「遺体の損傷から犯行時刻は昼の12時
ストロングベアー組は全員捕まっていましたのでアリバイがありますし
基本的に彼女は正当防衛以外弱者は殺さない戦闘狂ですのであり得ないでしょう」
「あり得るのはスカーフェイスだな
バケモンでも雇ったんだろう
輝夜は他人を信じないからな!」
「そうだな、スカーフェイスは
金で何でも解決しようとする
笑いもわからないつまらない男だ」
「あの遺体の荒さから
クロコダイルズを雇ったのが有力かと」
「あのギザ歯の双子か〜〜
女の子の方可愛いっすよね〜〜!
ちょっと食べ方が汚いけど!」
「まあ、ストロングベアーよりは
しっかりしてる子達ですよ
殺す理由とか考えないので」
エレベーターが地下に着き
警戒して扉が開くと同時に
ライトニングが手から電気を放つ
「わああっ!ジャックさん!
やめてくださいーっ!」
聞いたことのある叫び声が聞こえて
僕は安心する。
車椅子を押して現れたのは
一緒に銀行強盗をし
足を撃たれてしまった部下と
撃たれなかった方の部下だ。
「なんだ、生きてやがったのかつまんねえな、もう少しアジトもやられました〜とか絶望展開待ってたんだぜ?」
「酷いっすよ!ジャックさん!
お勤めご苦労様です!」
「うへーここがアジトっすか〜!
結構綺麗なとこっすね!」
ライトニングはアジトの中を走り回る。
「お邪魔しますの一言もないのかあ?」
僕は皮肉っぽく言いつつも安心して
口元が緩む。
仲間が生きてるというのは
嬉しいものだ。
たとえ悪い奴らでも。
「とにかくまずは食事をしながら
みんなと作戦会議をしよう
暗殺者の対策を考えないとな」
「もうわかったんですか!?」
「殆どクイーンバレルがみつけたのさ
やったのはクロコダイルズだ」
「そうなんですよ、アイツらめちゃくちゃで…やっとこさ逃げてきたんです
とりあえず奥でみんながジャックさんの帰りを待ってます」
「でもクロコダイルズは確かに厄介だな…
僕と同じ歳くらいの男女の双子の暗殺者
能力は、シンプルに言えばワニ双子だ」
ライトニングはアジト探索の
最後の部屋の扉を開けようとするが
何かがガツガツとつっかえて開かない。
「閉じられると開けてみたくなるのが
盗人心ってね」
ライトニングは思い切って扉を
体当たりして中に入る。
そこでみたのはーー
「だが厄介な点はそこじゃあない
パワーだけならストロングベアーと
変わりない」
僕は指をたてて説明する。
「クロコダイルズが本当に厄介な理由は」
「「変装がうまい。」」
2人の部下は僕に向かって牙を向けた。
ライトニングは
噛み砕かれた無残な大量の死体に驚いて
尻餅をつき足がすくむ。
遺体の一つは足が無かった。
僕は反射的に足を滑らせる様に
避ける。
まともにやりあえる武器がない為
逃げるしかなく
クイーンバレルは近くにあるものを
片っ端から投げ僕の手を引っ張り
エレベーターに向かう。
「逃がさないよ!」
まるで鏡のようにシンクロした動きで
クイーンバレルが投げたフォークを
パスしあってクイーンバレルに投げ返す。
「いっだ!!」
「!!」
僕はかっこよく弾こうとしたが返せず
手の甲を貫かれる。
フォークって思いっきり刺さると
痛いんですね!!
エレベーターのボタンを閉じるが
双子の片手同士が扉に挟まる。
「ダメです閉まりません!」
ギギギギとあり得ない力で開こうとする。
僕はとっさに手の甲に刺さった
フォークを双子の男の手に刺した。
抜くと血が吹き出して僕の顔にかかる。
「ぎゃあっ!」
「大丈夫っ!?」
「はははっ!ざまあみろっ!!」
双子の叫び声を聞いて
つい訳もわからず笑ってしまった。
エレベーターは驚くほど静かだ。
「一階についたらエレベーターと
アジトをこのアパートごと自爆させます。
生き埋めにはならないでしょうが
時間稼ぎは出来ます。」
「そうだな…」
「どこに逃げますか?
エースの姿をしてもこの家はバレています。
ヴィラン同盟の伝聞役のクロウがここを吐いたんでしょう、これだからヴィランはヒーローに勝てないんです」
ため息をつくクイーンバレルに
僕はどこにも居場所がないと考える。
「まずはこの街を出よう
仲間が1人もいないんじゃ勝ち目はない」
「…珍しくまともなこと言いますね
ボスちゃん?」
「えっ?ああ…そういう気分だったのさ
かっこいいだろう?」
自爆スイッチを押して
エレベーターから出る。
「とにかく囚人服はまずいな、
適当に変装用の服を着ないと」
「準備はしてます、
そして104号室に部下は知らない
地下水路に繋がるマンホールがあります。」
クイーンバレルは貧民の様な服を僕に渡して
床の扉を開きマンホールの中にはいる。
「流石だ」
僕らは手を繋ぎ
暗いマンホールの中に飛び込んだ。
ライトニングを置いてきたことに
気付いたのはそれから3時間後だった。
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