第10話やればできるヴィラン


「三角関係じゃないっすか!」

緊迫した空気の中

最初に口を開いたのはライトニングだった。


「ストロングベアーちゃんは

クイーンバレルさんが好き、

クイーンバレルさんはボスが好き…

…あれ?ちょっとボス!

ボスがストロングベアーちゃんを

寝とればこれ完璧なーへぶっ!」


ー僕は百合CPの間に入る男は地雷なんだ。

少し黙ってくれないか?ー


つい殺意が湧いてライトニングのお尻を

蹴ってしまった。





脱獄の夜。

看守長室まで後50メートルというところで

刑務所全ての電気が点いて

警報が鳴り響いてしまった。


犯人は目の前にいる熊耳少女…

中身はお姉さんなので(おっさんっぽいが)

ロリお姉おっさん属性の


怪熊ストロングベアーだ。


どうやらクイーンバレルが

僕と逃げるのが気にくわず自分から牢屋を壊して

追いかけたのだろう。勘弁してくれ。



「ストロングベアー、

牢屋で何度も言ったでしょう?

私と貴女を愛せません

私が愛してるのはボスちゃんただ一人」



僕をみて微笑むクイーンバレルちゃんに

どきりとしながらも

今はそういう場合ではないと

我に帰る。


「今のうちに行きましょうボスちゃん」


クイーンバレルが僕の手を握り

看守長室に向かう。


それをみてストロングベアーは

顔を真っ赤にして

ぐるるる唸り耳をピーンっとさせる。


ちょっとかわいい。


「納得出来ない!!!」


ストロングベアーは地面の土を

割れるほど踏みしめ

熊が走るかのようにこちらに突進してくる。


当たればどうなるかは

昼食時に確認済みだ。




「仕方ありませんねぇっ…!!」


クイーンバレルちゃんは

僕の背中を押して

ストロングベアーに立ち向かう。



浮かぶ姿は昼間ストロングベアーに

吹き飛ばされた看守。



またクイーンバレルは

囮になるつもりなのだと察して

僕は振り返る。




目の前で誰かが吹き飛ぶ。




「クイーンバレル!!」

咄嗟に叫んでしまったが




吹き飛んだのは

ストロングベアーだった。



二、三度瞬きをして目をこすり

もう一度よくみてみる。


ストロングベアーは吹き飛んでいるのではなく

受け流されていたのだ。



突進するストロングベアーの力に

クイーンバレルは自分の力を乗せて

加速させる。


その力は行き場を失い

空を切り裂き、気づけば

ストロングベアーは床に転がる。



テレビとかで見たことある。

これは「合気道」

相手の力に自分の力を加えて返す

カウンター技だ。


凄え…クイーンバレルちゃん…

僕も見合うだけのヴィランにならねば…。



警報が鳴り響く中、空を見上げさせられた

ストロングベアーは泥まみれになりながら

怒るどころか

耳と尻尾をぴこぴこさせて喜ぶ。



「へへっ!そーこなくっちゃ!」



ストロングベアーちゃんは

構ってちゃんだったようです。

迷惑ですね〜〜〜〜。

来週とかじゃダメだったんでしょうか?




「うっとぉしい…」



クイーンバレルは心底嫌そうに

見たこともない冷ややかな目と声で

舌打ちをする。


クイーンバレルちゃんってこんな顔するんだ…

なんというか…そのレアな姿に

ドキドキしてる自分がいる。


…マゾじゃないよ?






サーチライトがこちらに向かってきた為

彼女達に時間を稼いでもらい

僕はライトニングを引っ張って

看守長室にむかう。





「ひゃほほーい!!あっ、お腹空いた

なんか持ってない?」


「そういう空気読めないとこが苦手なんです!」




2人はまるで女子会のような会話で

殴り合っている。


会話が気になりすぎる!!







看守長室はストロングベアー先生(怒)の

おかげで電気がつき3人も中にいる。



「3人ならやっつけちゃいましょうよ!」

ジャックを仲間にしたからか

やけに強気なライトニングさん

万引きしかしたことないのに…。



「鍵と首輪に直接番号が振ってあって

確認したらわかりますから!」


とライトニングさんは

窓の近くに飾られてる鍵の棚を指で指す。


丁度扉から一番離れているのをみて




僕はある作戦を思いつき

側に落ちている石ころを拾った。









「いいか!ストロングベアーを逃がすな!

看守室にきて必ずこの鍵を狙うだろう!

射殺しても構わない!というか

射殺する覚悟で撃っても3週間くらいで

治る!射殺しろ!」



看守長室では

明らかにピザを食べ過ぎている身体をした

看守長が看守達に指示をだす。


「クイーンバレルも脱走したそうです!」

「なっにぃ〜!?」

「つまりクイーンバレルが脱走したと

いう事は」





ガチャ



「ハァイ♡」

「「!?」」

看守長室の扉を開き

僕は彼らの前に現れる。




「ジャック…!!」

看守長含む3人はすぐさま

拳銃を僕に向ける。



3人から拳銃を向けられるなんて

人生でそうそうないだろう。


怖すぎてさっきから汗が止まらないが

僕は一度ショットガンと戦った。




不思議と今なら何でも出来そうだ。



「いいのかい?銃を向けて」

「何?」


僕は右手にしまった石ころをみせる

「これが何かわかるか?」

「…石ころだろう?」


「残念爆弾さ」

「なっ…!?」




石ころだ。



だけど今この場では

この石ころは爆弾として認識される。



つまりハッタリ!

これで時間を稼ぐ!




それを合図にゆっくりとライトニングは

窓から侵入し鍵を探し始めている

早くしてくれ〜〜!



「いやあ、石ころを爆弾に見立てるのは

苦労したさ デカ過ぎても違和感がある

小型爆弾をいかに爆弾に見せるかがポイントだ!みてくれこの表面のザラザラ感!」




まるでテレビショッピングのように

石ころを見せつける。


看守達は本気にしてくれているようで

爆弾にビビりながらも注目している。



ジャックめんどくさいと思ったけど

やっぱりジャックだからこそ

やりやすいとこはある!ありがとう!!




ライトニングは鍵を見つけたようで

鍵を首輪に向けるが

ネックレスを自分でつけるのと

同じくらい結構難しい。



早くしてくれ!

そろそろ看守達が怪しんできた。




チャリーンッ





「あ」

「「えっ」」


あろう事か!このタイミングで!


鍵を落とす奴があるか〜〜〜〜!!




「誰かいるのか!?」

看守長達が振り返ろうとする


僕は慌てて石ころを上に放り投げる!



僕が爆弾を投げたと思い看守達の陣形が

くずれる!



当然ながらただの石なので床を転がる!!




看守長達は呆気にとられ

真実に気づくと僕に銃を向ける


「ジャック貴様ァッ!馬鹿にするのも

いい加減にしろ!!」



看守長が

恥ずかしさと怒りのあまり発砲する。

当然だが弾丸をよける練習はしていない。


ここまで怒らせるつもりはなかったのにと

思ってももう遅い。


終わった…


せめて最期は、クイーンバレルちゃんに

あーんしてもらいたかった…。








だが目を閉じる前に何故か目の前の景色は

変わっていた。


視界に映るのは3人の看守ではなく

大きな月だ。







僕はライトニングにお姫様だっこをされ

空を飛んでいた。




「すごいっ…!!飛んでる…!!」


「壁を登ってジャンプして落ちてるだけさ

あれ?君そんなキャラだっけ?」


つい素の自分が出てしまう。

空から見るアンダーシティの夜景は美しい

クイーンバレルちゃんと一緒にみたい…


「って!クイーンバレルは!?」

「安心しなよ、ちゃーんと…」


ライトニングは僕を上に投げて

身体の中に電気を通して

加速し僕をもう一度抱えるまでに

クイーンバレルを拾ってくる。


「連れてきたからさ☆」


やだカッコいい…

ライトニングって

本当はこんなにカッコ良かったんだ…


万引きするし、ヘタレだし

博打狂いのクソだけど…

いやクソだけどカッコいい

クソカッコイイ…

いやカッコイイクソ…。







今回は脱獄出来た。

次はこうもいかないだろう。


下で「クイーンバレルどこーっ!?」

と叫んでる

ストロングベアーをここは囮にして

ヒーローが来るまでに僕らは退散した。






アジトに向かう最中

結局看守を殺したのは

ストロングベアーなのかを

聞き忘れたなーと考える間もなく


アジトに着いてしまった。

ライトニングは最速タクシーだ。




「まずは食事にしましょう」

「いいねぇ、肉だ、肉がいい」

「俺はパスタが食べたいっす!」


すっかり馴染んでるライトニングをみて

ヴィラン友達?が出来たみたいで嬉しい。


アジトは二階建てのアパートで

1.2階の玄関口側は一般人も住んでおり

僕らは裏口から入り室内に作った

専用の隠しエレベーターで

地下のアジトに向かうように出来ている。



だが、裏口から入ると

そこは血の海だった。



























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