第9話脱獄の夜

看守殺しの容疑者に

ソッコーで僕の名前があがった。


まあ当たり前だ。

だって昼に面会した時の

担当看守だったもの。

あの看守も明らかに

僕方面の悪い奴らと繋がってたし。


しかも死んだ看守

今日は僕以外担当してなかったらしくて

殺害現場は男子房の倉庫。

更に僕はジャックだよ?

何するかわからないから

ヴィランからも引かれてる

切り裂きジャックとか

言われちゃって?


アンダーシティの五大犯罪者集団のひとつ

jokerのボスちゃんだよ?






そりゃもう無理だよねーーーー!!!

詰んだわーーーー!!流石に詰んだわーー!



何時もは冷静でありたいと思う自分も

この展開には混乱して心の中で

大笑いしてしまう。



ただでさえ時間が惜しい時に

こんなド鬼畜モードにするやつは

どこのどいつだとか考える余裕もなく

容疑者は独房に隔離だと言われ

手枷や口枷をつけようとしてくる。

これは逃げれません。



「ボスゥ…」

ライトニングが子犬のような目でうるうると

こっちを見てくる。


もしかして心配してくれ…


「俺を守ってくれないんすか…?」


るわけがないので、指示を出す。


「必ず戻る、クイーンバレルなら

事情は理解してくれる

それまでは大人しくしてろ

いいか?他の誰にも俺たちの事は話すなよ」


「話すなよ…ということは話…」

「話すなよ」


釘を刺しておき牢の外に出て

口枷と手錠をかけられ

連れていかれる。



ただピンチはチャンスとはよく言ったもので

新しいエリアに護送される間に

色々暴れたりする事でだいたいの

刑務所の地図を把握出来た。



マップを見る限り

刑務所は地下は1階まである二階建てで

円状の壁と

その中心に円柱の建物がある。


僕がいる男子房も

クイーンバレルがいる女子房も

同じ円柱の建物の中で

二階が男子、一階が女子房のようだ。

で、地下が独房というわけだ


首の鍵は看守長室の机の上

看守長室は北の円の壁側に建ってる

建物にある。


正直看守長室までは

ライトニングに頼る事は出来ない。

殆ど普通の脱獄といっても

間違いはないだろう。


最後の壁だけライトニングが

僕らを抱えて登る形となる。


更に見つかれば脱獄しても

ヒーローを呼ばれてジ・エンドだ。


オーガマンは大好きだけど

今は勘弁してほしい。






地下の独房にうつされたが

口枷と手錠は外してもらえなかった。

有名税がこういうところで

発生するのは困るなあ。



誰もいない地下独房。

暗くて冷たいしなんだか幽霊とか出そう。

やだなぁ電気つけて欲しい。



ヒタ…



「!!!?」



ヒタ…ヒタ…ズズッ


床を這いずるような音が聞こえる。

扉の奥からではない、この音は、




天井からだ。


人は天井を這う事は出来ない。



「幽霊っ…!?!?」


僕は結構幽霊を信じている方で

異世界転移した今なら余計に

幽霊も信じてしまう。



さっき殺された看守か!?

ここで死んだ囚人か!?


…もしかして…ジャック…!?


思い当たる節が多過ぎて

誰が来るのかわからなくなる。


ザザッザザッ!!


天井を這う音はどんどん大きくなっていく。

ああ、せめて明るい場所なら

誰かわかるのに…。



怖すぎて目を瞑る。


ガコンッと 何かが外れた音がした。

何かが僕を見ている。

視線を感じ、命の危機を悟る。



「ボスちゃん♡みーっけた!」



聞き馴染みのある幽霊の声に

僕は目をゆっくりと開き

天井を見上げる。


そこには天井近くの換気ダクトから顔を出しているクイーンバレルちゃんが居た。


「クイーンバレル!」


拘束具を外してもらい

通気口について聞く。


どうやらここの換気ダクトは

2階から地下、中庭まで繋がっている

らしい。


男子の食堂にクイーンバレルと

ストロングベアーが来たのは

この方法だったのだ。


ついに脱獄の光明が見える。


「後は戦争か」

「せんそー?」

僕は今アンダーシティでは

五大ヴィラン勢力の権力闘争が始まっていて

輝夜組とスカーフェイス組が現在抗争中

終わったり手を組んだ瞬間

ボスの居ない3つの組を制圧する気だ。


と部下のかかりつけの医者から聞かされていたことをクイーンバレルに話す。


「せんそーなんて放置でいいじゃないですか

潰したければ潰せばいいですし

私はボスちゃんがいればそれだけで

世界はハッピーですよ?」


遠回しの告白みたいで嬉しい話だけど

ただでさえ今は元の世界に

帰る方法もわからず


自分はジャックではないと知ってる

ジャック殺しの犯人もわからない。

夜も安心して眠れないのだ。


それに、戦争を止めないと部下が死ぬ。

彼らは一緒に銀行強盗した悪いやつだ

だけど、簡単に切り捨てるのは、

なんか嫌だ。




「俺は奪うのは好きだが奪われるのは

嫌いなんだよクイーンバレル。


それにあの輝夜とスカーフェイスは

俺たちの仲良しイベントをドタキャンした

挙句この街の天下を狙いに来てる。


今回実働隊が全滅してるのは

ヒーローが頑張ったからってのもあるかも

知れないが、売られた可能性も高い」



「ボスちゃんを売るなんて許せませんね

ミンチにしましょう」


「それはいいが、夢だけじゃパーティは

開催出来ない。まあ、そこは互いに考えておこう。で、脱獄計画だが…」



僕は通気口のある場所を聞き

脱獄計画を練りクイーンバレルに話す。


「脱獄は今日だ」


この事をライトニングは知らないが

まあ、いいや、その時伝えれば。




「へっくしょん!」

ライトニングは牢屋の中で鼻をすする。





夜。


「ボスちゃん、ここを越えたら

男子房の倉庫に出ます。

そこからライトニングを連れ出してください」


頷いて 換気ダクトの中を

二人で四つん這いになって歩く。


大事な説明をしてくれているのは

わかるのだが…さっきから頭に入らない。


何故なら…


ふりふり…

「ボスちゃん?聞いてますか?」

ふりふりふりふり…


さっきから目の前でクイーンバレルちゃんが

四つん這いでお尻をふりふりしてるのだ。


ずるいです。全然頭に入ってきません。


「あぶっ」

もにゅっ

突然クイーンバレルちゃんが止まり

もにゅっとしたものが顔に当たる。


確認してはいけないと後退りすると

クイーンバレルちゃんは鍵を僕に渡す。


「はい、牢屋の鍵です」

「いつのまに盗ったんだ?」

「牢の鍵は看守が持っているので

それを偽物にすり替えたんです♡」

「偽物…?お前作れるのか?鍵を?」

「そりゃもう、粘土がなければ

米でもオートミールからでも作れますよ〜

金属なんて刑務所にいっぱいありますし」



強ぉ……


優秀過ぎるクイーンバレルちゃん…

もしかしてちゃんと相談したら

すぐ脱出できた感じ…?







男子房の倉庫に降りる。


倉庫の壁には血の跡が残っていて

昼の事件を

生々しく感じさせる。




結局看守を殺した犯人は

誰かはわからなかった。


でも殺せば僕が容疑者になるのを

わかっていたのなら

犯人は僕が邪魔な奴だろう。


輝夜とスカーフェイス側の手の者か、

それともクイーンバレルが欲しい

ストロングベアーか。


セイントラングレーの宗教団体かもしれないが誰も関わってこなかったから

犯人ではない気もする。



もしストロングベアーが脅しとして

看守を殺したのなら

ジャック殺しも彼女の可能性がある。


謎が多過ぎる今

彼女には出来るだけ関わりたくない…



自分の牢屋の扉を開けて

眠っているライトニングを起こす。


「ムニャムニャ…なーに?むガッ」

「助けに来た。黙ってついてこい」


僕が居ない事実を利用して

ベッドの枕でライトニングが寝ていると

偽装する。

これで少しの時間は稼げるだろう。



換気ダクトではライトニングがいかに

進むのが大変なくらい

自分は身長があるかを自慢をしてきたので

ガムテープを口に貼った。






「…よし、中庭に出たぞ

サーチライトに絶対に入るなよ」

そうライトニングに伝えると

ライトニングは指でOKポーズをとる。


後は真っ直ぐ向かって壁近くの

看守長室に辿り着けばこっちのものだ。



「…3.2.1で行くぞ」

「はーい♡」

(OKポーズ)


「よし、3ー…」






ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!



「「!?」」


【脱走者が出たぞ!!】


刑務所内に響き渡る警報音に

僕はもうバレたかと歯ぎしりする。


「少し早すぎますね」

「ふええっ!もうおひまひたあっ!」


クイーンバレルは冷静に判断し

ライトニングは世界の終わりのような

顔をする。



だが次に流れたアナウンスは

僕らが想像していたものとは違った。


【脱走者は…ストロングベアー率いる数名!必ず捕まえろ!!】



「ストロング…ベアー!?」


そう僕が驚くと二階のガラスが割れ

空から小さな少女が降ってくる。



拳を構えて、僕を狙って。



「ボスちゃん!」

クイーンバレルは僕を抱きしめるように

庇って回避する。クイーンバレルの膝や肘に少し擦り傷が出来てしまう。


「クイーンバレル!」


少女に殴られた地面はめり込み

地割れを起こす。


当たれば頭がこうなっていただろう。


「私さあ、私より弱い奴が

クイーンバレルの側に居るのって

許せないんだぁ…」


「ストロングベアー…」


クイーンバレルちゃんの意思なんて

考えないあたりが脳筋ヴィランらしい。



ストロングベアーは屈伸を数回した後


「私を倒すか、

大人しくクイーンバレルを

私に返して牢屋に戻るかどっちがいい?」



そんな理不尽な質問をして

答えを聞かぬまま

僕に殴りかかってきた。




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